先週、芝浦工業大学にて開催されたDfMAシンポジウム Vol.2にパネリストとして登壇しました。
今回のテーマは「リア・ローディングからの脱却」。建設業界において、いまだに後工程(施工段階)で無理やり物事を解決せざるを得ないリア・ローディングの現状から、いかにして脱却し、上流での意思決定を促すかが大きな柱でした。
昨年のVol.1では一発表者としての参加でしたが、今年はパネリストとして登壇し、各登壇者の発表内容の総括、前回との比較を通じたコメント、そしてパネルディスカッションでの発信という役割を担いました。当日の議論を振り返りながら、DfMA(Design for Manufacture and Assembly)を理解し、日々の業務に活かしていくために何が必要なのか、私の考察をまとめたいと思います。
- 1. DfMAシンポジウム Vol.2:各社発表のまとめと進化
- 2. 前回(Vol.1)との比較:見えてきた「格差」と「変化」
- 3. DfMAの本質:「つくる側」の制約を「設計」に取り込む
- 4. 終わりに:ヴィックが担う「情報の通訳者」としての役割
1. DfMAシンポジウム Vol.2:各社発表のまとめと進化
今回のシンポジウムでは、ゼネコンやハウスメーカー、サプライヤー、商社といった異なる立場から、具体的なフロントローディングの実装例が示されました。
- 安藤ハザマ:製造CADとの連携によるプレキャストの効率化
まずは安藤ハザマさんのプレキャストのケースでは、「製造業と建設業にまたがる設計データをどう柔軟に生産に繋げるか 」というところに取り組まれており、パラメータで調整可能で再現可能な設計プロセスの実現とともに、製造過程の効率化、現場の施工性の向上にも貢献している事例でした。 - 長谷工コーポレーション:垂直統合モデルを実現
発注から維持管理までを自社グループで完結できる強みを活かし、設計と施工の「暗黙知」までもルール化。さらに標準化で対応しきれない部分をAIで補完するという、全体最適の先進的な取り組みと成果を見せていただきました。 - カワトT.P.C:デジタル化による人材不足への回答
給水給湯プレハブ配管の製作工程を高度にデジタル化し、専門知識のない人材でも作業可能な環境を構築しています。情報を人に合わせることで労働力を確保するアプローチは、現在の建設業が直面する課題への、極めて現実的かつ強力な回答でした。 - 野原グループ:BuildAppによるサプライチェーン連携
商社の立場から、BIMを扱えない層も含めたサプライチェーン全体をデータでつなぐソリューションが提示されていました。既存の構造的な課題に対して、中立的な立場から情報のハブとなる重要性を再認識しました。
昨年のVol.1では、鉄骨ファブリケーターが2社、BIMデータを取り扱う会社が2社の計4社による発表でした。そこでは「DfMAとは何か」という概念整理と課題抽出が中心でしたが、今回は規模や業態は違えど、それぞれが具体的な成果を出しているフェーズへと進化していることを強く実感しました。
2. 前回(Vol.1)との比較:見えてきた「格差」と「変化」
昨年のシンポジウムでは、日本の建設産業特有の、施工直前での細部調整文化が、上下流の連携を阻んでいることが指摘されました。この状況を打破するためには、制度や契約慣行、施主の意識改革が必要であるという総括でしたが、この一年で状況はさらに複雑化しています。
私が最近感じているのは、DX投資による格差の拡大です。大手の設計・施工会社でDXが進む一方で、サプライチェーンの下流側での取り組みは大きく遅れています。カワトさんのような先進的な事例は非常に稀であり、業界全体で見れば、アナログな手法に留まる層との乖離が顕著になっています。この格差対策こそが、サプライチェーン全体のDfMAを実現する上での重要なテーマになると考えています。
一方で、ポジティブな変化も確実に起きています。ゼネコンの設計施工案件において、設計フェーズであるにもかかわらず「フロントローディングを進めたいので参画してほしい」と、現場チームから直接依頼をいただくケースが増えてきました。
また、ゼネコンを中心に工業化施工やユニット工法へのニーズも高まっています。これらを実現するためには、これまで以上に上下流の緊密な連携が不可欠になります。
さらには、外資系オーナー案件を中心に、ISO19650に基づくEIR(情報交換要求事項)が整理され始め、国内の発注者からも徐々にフロントローディングへの理解が進む兆しが出てきています。もちろん、こうした動きだけでDfMAの実装にどれほどの効果があるかはまだ予断を許しませんが、好ましい変化としてポジティブに捉えることもできます。
3. DfMAの本質:「つくる側」の制約を「設計」に取り込む
シンポジウムのパネルディスカッションでは、コーディネーターの曽根巨充さん(前田建設工業)から、フロントローディング定着への課題について問いかけがありました。活発な議論の詳細は、後日GBTRC(グローバル建築技術センター)のホームページに掲載される予定ですので、ぜひ参照いただきたいのですが、私はその議論を経て、DfMAの核心は、つくる側(工場・現場)の制約条件を、いかに解像度高く設計プロセスに統合できるかにあると改めて考えました。
結局のところ、DfMAとは製造(Manufacture)と組立て(Assembly)を最適化するための設計手法です。
- Manufacture(製造)への配慮:工場のラインで加工可能な部材寸法、標準化された金物、歩留まりの良い材料割りなど。
- Assembly(組立て)への配慮:現場での溶接を減らすボルト接合化、揚重機の能力に合わせたユニット重量、職人の作業性を考慮した施工手順など。
これらを設計の初期段階で決めるためには、サプライヤーや専門工事会社が持つ製作・施工のリアルな制約をデータ化し、設計側にフィードバックする必要があります。この制約を設計に組み込むことこそが、DfMAを実践するための第一歩です。
以前、ザハ・ハディド事務所の案件で、彼らの設計チームと韓国の外装ファブリケーターへの視察に同行した際、彼らが「自分たちのパネルが本当に製作できるのか」「施工のために何を考慮すべきか」を事細かに質疑する姿を目の当たりにしました。彼らがデザインを実現するために、製作性・施工性まで徹底的に把握しにいこうとする姿勢には、強いプロフェッショナリズムを感じました。
しかし、日本においてこのDfMAを機能させるには、解決すべき大きな課題が二つあります。
- 「情報の非対称性」とタイミングの壁
DfMAの実装には製造・施工可能条件の早期共有が不可欠ですが、現在の契約慣行では、詳細なノウハウを持つ専門工事業者がチームに加わるのは設計の終盤に偏りがちです。ヴィックもサブコンから依頼を受ける立場であることが多く、せっかくの知見を設計者に還元するタイミングを逸してしまっているのが実態です。
結局のところ、設計と施工が契約段階で明確に分離されている現在の調達方式のままでは、どれだけ現場がフロントローディングを叫んでも、構造的な限界があると言わざるを得ません。 - データ制作スキルとマインドのミスマッチ
条件を加味した設計を反映するには高度なデータ制作スキルが求められます。また、スムーズな情報連携のためには、様々なパラメーターの設定や、情報を自動で書き出すための仕込みが必要になります。その結果、ちょっとした修正に見えても、裏側のデータを整合させるために大きな時間を要することがあります。
現場の意識が依然として2D時代のままであると、「BIMは2Dより修正に時間がかかる」という不満に繋がりがちです。これは、データを「修正可能かつ繰り返し使える資産」としてではなく、単なる「図面の代わりとなる絵」として捉えてしまっていることに起因しています。
さらに、下流工程ほど情報連携に対する意識が低い傾向にあり、CDE(共通データ環境)といった概念が浸透していないため、情報の行き違いから結局「リア・ローディングの嵐」が吹き荒れることになります。これらを打破するには、単なる早い決定を促すだけでなく、情報の質と流し方を変えて管理する、情報の管理者の存在が不可欠なのです。
4. 終わりに:ヴィックが担う「情報の通訳者」としての役割
今回のシンポジウムを通じて再確認したのは、DfMAは単なる技術的な手法ではなく、建設産業のプロセスそのものを再設計するための思想であるということです。しかし、前述した通り、現在の日本の建設業界独特の商習慣による情報の断絶が、その実装を阻む高い壁となっています。
前セクションで触れた通り、各フェーズで様々な会社が協働しながら進んでいく建設プロジェクトでは情報の不整合は避けられません。これを本質的に解決するには、上流工程(発注者や設計者)の意識改革が不可欠です。ヴィックとしても近年、発注者側へのコンサルティングやアクセスを増やし、上流からの情報整備を働きかけています。
しかし、発注者の意識が変わったとしても、具体的にどう作るかという細部の製作・施工条件までは、発注者が直接コントロールできる領域ではありません。やはり重要となるのは、設計の初期段階から我々のような生産設計と情報の流通の知見をもつ存在がチームに加わることです。 実際、一度生産設計のフェーズで共に汗を流した設計者の方は、我々の持つ「製造・施工の勘所」と、それを高精度に反映する「データ制作能力」が、設計初期の意思決定においても極めて有効であることを理解してくださいます。そうした信頼の積み重ねが、「次は早い段階から一緒にやってほしい」という依頼に繋がっています。私たちは引き続き、実務を通じてその価値を証明し、設計の早期参画を当たり前の文化にしていけるよう努力を続けます。
DfMAの実現そのものがゴールではありません。その先にあるのは、職人不足の解消、生産性の向上、そして何より建設という仕事がよりクリエイティブで魅力的なものになる未来です。
契約形態や慣行といった大きな構造を変えるのは容易ではありません。しかし、まずは我々実務者が情報の流し方を変え、実利を示していくことからしか変革は始まらないと確信しています。今回のシンポジウムでの貴重な学びを糧に、明日からの業務に真摯に取り組んでまいります。