viccと建築プロジェクトのステークホルダー
私たちviccでは幅広い仕事を手掛けています。 関わる業務を整理する方法はいろいろとありますが、顧客セグメントというのは業務内容を分類する際に有効な基準の一つではないでしょうか。
建設プロジェクトにおいては、一般的に発注者・設計者・施工者・維持管理者・利用者という5分類がステークホルダーの大項目として違和感なく受け入れられるかと思います。 私たちのお客様の大部分は設計者・施工者に当たる方々ですが、少数ながら重要な顧客として発注者企業のお客様も存在します。
現代日本でBIMに関する取り組みをしてるという建設プロジェクトの発注者は非常に少なく、需要とともに供給の側、コンサルティングを行える企業も稀有な存在だと感じています。
今回は発注者というお客様を、私たちがどうとらえているかについて書いてみようと思います。
なぜBIMで発注者が重要なのか
発注者という大くくりにしてその位置づけをとらえると、建設プロジェクトに関する設計契約や施工契約を受託者・請負業者とむすぶ主体で、建築確認上の建築主として書類に名前が載る人(自然人・法人)ととらえることができます。
さて、現代的なBIMの実践でしばしば参照されるISO 19650やその源流にあたるPAS 1192では、発注者を起点としたBIMプロジェクトが想定されています。
EIRは発注者から発行され、そこから設計者や施工者がBEPを書き、BIMが始まり、維持管理者にAIMがわたり、ライフサイクルを通じたBIMの活用と受益が期待されているわけです。
日本における実務では、まだまだ設計者や施工者の自発的な取り組みでBIMが導入されることが多いですが、利害の対立や、BIMの効用が発揮されるタイミングとBIMの負荷がかかるタイミングのズレ(いわゆるフロントローディング)が発生する場合、その調停を行えるのはプロジェクトに一貫して関わる発注者の立場です。個人的に、この辺りは過去に日本建築学会のwebメディアでも書いています。
建設プロジェクトのビジネスインテリジェンス - 建築討論 - Medium
設計に閉じたBIMの活用にももちろんメリットがないわけではありませんが、ライフサイクルを通じた活用を目指せば、全体のパイが大きくなる分、効果も大きくなることが期待できます。
「社会に対して与えるインパクトは、発注者を起点としたときに最大化される」という俯瞰的視点があればこそ、ISO 19650で規格化される際にも、実務の現状はさておいて発注者が重要視されたのだと考えられます(ただし、多くの発注者は設計フェーズ・施工フェーズにおいて建設プロジェクトを委託するわけで、ISO19650のBIMマネジメントに関しても、「内製しなければいけない」というスタンスは取っていません)。
ここで、発注者をその管理対象となる建物の特徴からいくつかに分けて議論を進めてみたいと思います。
発注者の5類型
先ほどの5分類のそれぞれ(発注者・設計者・施工者・維持管理者・利用者)は細分化可能で、発注者の中にもいくつかの立場があります。
自己資金で発注する場合もあれば、融資を引いていたり、組合を構成していたり、お金を出すとは限りません。 また、発注者と利用者・維持管理者は同一の場合もありますが、工事を発注した人が維持管理を委託するケースや、テナントに入居してもらい自分では利用しないケースもあることは意識しておいた方がいでしょう。
このように発注者というくくりには共通項が当然あるものの、いくつかの切り口で見る大きく異なる志向を持っている場合があります。
これまで、BIMの立場でプロジェクトを見てきた経験から、3つの軸で発注者を区分することが有効だと感じます。
- 竣工後の建物のオーナーシップ(自己所有vs売却もしくはリーシング)
- 保有する建物の数(一棟vs多棟群)
- 所在地(キャンパスに集積vs複数拠点に分散)
いくつか理論上存在しない組み合わせがあるので(一棟の建物は一か所にしかないとか)、実際に存在するのは5類型です。
| 類型 | オーナーシップ | 建物数 | 所在地 | 具体像 |
|---|---|---|---|---|
| A | 自己所有 | 一棟 | 一か所 | 自社ビルオーナー |
| B | 自己所有 | 多棟群 | 一か所 | 学校・生産施設 |
| C | 自己所有 | 多棟群 | 複数拠点 | チェーン店・自治体・公社 |
| D | 売却またはリーシング | 多棟群 | 一か所 | 地主型ディベロッパー |
| E | 売却またはリーシング | 多棟群 | 複数拠点 | ディベロッパー |
このなかでviccに引き合いが多いのは自己所有・多棟群・複数拠点の組み合わせとなる企業です。 チェーン店・自治体をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
現状と今後の展開
なぜ、C:チェーン店・自治体・公社がアーリーアダプターとなっているのでしょうか? 必然的に企業規模が大きくなることから、BIMに投資する資金力があるという面も否定はできないでしょう。
しかし、統計的な検証をしているわけではありませんが、BIMが業務の標準化と表裏一体となっていることが、大きな理由だというのが実務者の肌感覚です。 定期的に新規のプロジェクトが立ち上がり、フィードバックサイクルを回せるため、効果を検証しやすいうえ、別拠点で類似業務を繰り返すために属人化を避けたいという企業ニーズにBIMはマッチしています。
AやBの累計では一品ものという性格が強いので標準化という要請は強くありません。 D、Eの場合は運用フェーズに対する課題意識が薄く、設計事務所やゼネコンに委嘱したらそれ以上は踏み込まない傾向が強いのかもしれません。
前述のどの類型でもBIMによって何らかの生産性向上は可能ですが、わかりやすく効果が出るのはCのタイプなのだと思います。
今後、アーリーアダプターから公表される成功事例が増えていくと、アレンジを加えながら、一か所に集積しているB類型や、自社で保有し続けないE類型などに利用が広まっていくのではないかと推測されます。
発注者起点のBIMの一般論が枯れた技術として受け入れられるようになってはじめて、AやDのようなタイプのオーナーに受け入れられると考えると、発注者にとってのBIMの一般化は10年単位で先になるかもしれません。
viccではこれまでC:チェーン店・自治体・公社を中心とした発注者の皆さんのBIMを支援してきました。 もちろんAからEのどのタイプのお客様も歓迎しています。
まだ事例がすくない発注者のBIMに一緒に挑戦したいという企業の皆様からのお問い合わせをお待ちしています。