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株式会社ヴィックの技術ブログです。

工業化施工と3DEXPERIENCEプラットフォーム

工業化施工への取り組み

皆さんは「工業化施工」という言葉に対してどんなイメージを持たれているでしょうか。すでにこうした取り組みはいろいろなところで行われていて、耳にする機会も多いかと思います。

工業化施工とは、建築で一般的な「一品生産」という考え方に対し、製造業の「システム化」された仕組みを建設に取り入れた施工を意味しています。製造業で培われてきた、標準化・システム化・自動化のノウハウを取り入れ、設計・施工の仕様を繰り返し使えるモジュール単位にすることで、設計の効率化・施工の効率化・品質の安定化を図ることを目的としています。

こうした取り組みが求められている背景には、皆さんもご存じのとおり、昨今の人手不足、人件費の高騰や建材の高騰が深刻になっているなかで、これまでのやり方から抜本的な変革を起こすことが急務となっているからです。

今日は私たちが関わらせてもらっているこの工業化施工への取り組みと、そのベースとなっている3DEXPERIENCEプラットフォームの話をご紹介しようと思います。

製造業のシステム化されたノウハウを建築プロジェクトに適用する (Generated by Gemini)

3DEXPERIENCEプラットフォーム

知っている方もいるかと思いますが、建築業界ではまだそこまでメジャーではないので、まず3DEXPERIENCEの紹介を簡単に。3DEXPERIENCEとは、フランスの Dassault Systèmes(ダッソー・システムズ) が提供する、設計・製造・運用を統合的に管理できるクラウドベースのプラットフォームです。

このプラットフォーム上では、設計データ、解析データ、工程情報、ドキュメントなどをすべて一元管理でき、CATIA(設計)、DELMIA(施工・製造計画)、ENOVIA(プロジェクト管理)、SIMULIA(解析)といった各アプリケーションを横断してデータを共有できます。

もともとは製造業向けに開発され、自動車・航空機業界などで広く使われてきました。PLM(製品ライフサイクル管理)に強みを持ち、近年では建築・土木(AEC)分野でも導入が進んでいます。

www.3ds.com

建築は効率化できそうでなかなかできない

建築は見た目が似ていても、ひとつとして同じ建物は存在しません。たとえ毎回同じような設計、同じような納まり、同じような施工だとしても、敷地形状が変われば配置計画が変わり、関わる協力会社が変われば製品が変わり、納め方も変わってきます。

また、施工工程は現場所長のノウハウや経験値によっても大きく異なります。毎回同じようなことをしているように見えたとしても、そこにはいくつもの現場での判断の積み重ねがあり、現場が成り立っています。またそのやり方も現場ごと、建物ごとに違うため、変数が多く正解が一つではありません。こうした状況から、設計や施工の標準化は非常にハードルが高いのです。

その結果、「効率化できそうなのに、毎回ゼロからやり直している」──これが現場の実情だと思います。

同じような建物なのに標準化が出来ない (Generated by Gemini)

個別解としては対応できている

そんな中でも、近年はフロントローディングにシフトし、BIMモデルを基本設計段階から作成し、それを元に数量表などを作成、工程がわかるようにモデルを用いて4Dシミュレーションなど、モデルの利活用がされるようになってきました。

しかし課題もあります。たとえば4Dシミュレーションを行うには、BIMモデルを一度書き出す必要があり、その間にBIMモデルが更新されてしまうことが多々あります。 これにより、設計モデルとシミュレーションの整合性が取れないという問題が生じます。

つまり、BIMモデルを使った設計も、4Dシミュレーションもそれぞれ個別解としては機能しているものの、データ連携の面ではまだ十分に統合されていないのが現状です。

BIMモデルと4Dシミュレーションの整合性がとれず困っている様子 (Generated by Gemini)

経験とノウハウをデータ資産にする

設計では、BIMモデルやRevitのファミリーなどを社内共有することで、ある程度データを資産化することができます。属人化した知識をアウトプットとして共有可能な形に変換する──これがナレッジ資産化の基本です。

一方で施工は「生もの」です。日々の様々な問題に対処しつつ、現場の経験や勘、言語化しづらいものがたくさんあります。しかしそれが現場の成功を左右する大きな要因で、ベテランの人たちが持っているノウハウが確実に存在します。これらをどうやってブレイクダウンし、データ化して再利用可能な形で蓄積していくかが大きな課題です。

現場でのノウハウが資産として蓄積される (Generated by Gemini)

3DEXPERIENCEによる試み:CATIAとDELMIA

現在、CATIAでは建物をモジュール化し、「コンストラクション・ブロック」として再利用可能なデータを構築しています。想定される全要素を取り込んだ“150%BOM”を作成し、複数プロジェクトで再利用することで、データを蓄積しながら生産性を高めます。

このブロックはLOD350〜500の高精度モデルで、テンプレート化・パラメトリック編集が可能です。数量・重量の自動算出や、サプライヤー管理の効率化にもつながります。

一方、DELMIAではこれらのブロックを用いて4D施工計画を作成しています。工程、歩掛、クレーンなどのリソース情報を統合し、根拠に基づいた施工シミュレーションを実現しようとしています。 これにより、着工前の準備作業や工程検討を大幅に削減し、若手現場所長がベテランの知見を継承できる仕組みを目指しています。

まとめ

現在取り組んでいるのは、これまでのBIMでは扱いきれなかった詳細度の情報──サプライヤーが持つ詳細情報、もしくはこれまで設計段階では必要とされていなかった詳細度の高いBIMモデルを作り、それを活用していくことで、建築プロジェクトの全体の効率化を図ろうというものです。

3DEXPERIENCEというプラットフォーム上でデータ連携をスムーズに行うとともに、施工プロセス・リソース情報などをデータ化しづらかったものや、属人的だったノウハウをデータ化し、現場での変革を起こそうと奮闘しています。

今まさに、実際の現場での検証フェーズに入っています。こうした取り組みを現場を巻き込んで出来ることの意味は非常に大きく、何かが変わろうとしている瞬間かもしれません。CATIAユーザー、DELMIAユーザー、そしてこのプロジェクトに興味を持った方──ぜひ一緒に挑戦していきましょう。