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株式会社ヴィックの技術ブログです。

2026年 年頭のごあいさつ - 発注者主導で進むBIMと建設産業の構造転換

少し遅くなりましたが、皆さまあけましておめでとうございます。
ヴィック&シンテグレート代表の渡辺です。

年末の振り返りブログでは、設立10年目を迎えたヴィックの取り組み(複雑形状案件/生産設計BIM支援/工業化施工など)を整理しました。詳細は年末ブログ*1をご覧ください。

新年最初の今回は、発注者主導で進むBIM活用と、産業構造の変化・海外施主案件を背景に、本当の意味でのBIM運用が前提になりつつある潮流を整理します。あわせて、ボトルネックになりやすい論点(情報連携・人材)も取り上げます。


発注者視点で再定義されるBIM

ここ数年、建設業界におけるBIMの位置づけは大きく変わってきました。昨年、Autodesk University*2やRail Summit*3など海外のカンファレンスに参加し、各国の動向に触れる機会がありました。

特に印象的だったのは、発注者と受託者がBIMを「設計・施工の支援ツール」ではなく、事業判断とプロジェクト運営のための情報基盤として最初から運用設計している事例が多かったことです。そこではEIR(交換情報要件)が起点となり、BEP(BIM実行計画)で体制・運用・成果物要件が整理され、CDE(共通データ環境)で情報が一元管理されます。

この前提が整うことで、発注者は必要な情報を把握しながらプロジェクトを「事業」として運営でき、設計者・施工者も同じ情報を用いて品質と効率を両立させやすくなります。日本でも「発注者主導」の流れが見え始めており、実際にヴィックにもBIM活用に関する相談が増えています。

ヴィックでは、この潮流を「オーナーBIM」と呼んできました。オーナーBIMとは、企画・投資判断から運用・維持管理までを見据え、資産価値と事業性を最大化するためにBIMを活用する考え方です。

いわゆる「日本におけるBIM元年」とされる2009年から約17年が経ち、発注者が本格的にBIM活用に取り組むフェーズに入りつつあると感じています。

工業化施工を見据えたBIM活用

この流れは、単なるIT化やデジタル化の延長ではなく、建設産業の前提(人材・コスト・調達・品質)そのものが変わる中で、BIMがプロジェクト運営に不可欠な情報基盤になりつつある、という変化だと捉えています。

近年、技能労働者の減少と高齢化、生産性の課題、情報の分断、資材高騰によるコスト増など、複合的な制約がより顕在化しています。安全性確保や品質の安定化も含め、従来のやり方の延長では解きにくい課題が増えています。

その解決策として、工業化施工、デジタルファブリケーション、ロボティクスといった技術が注目されています。一方で、これらを再現性高く成立させるには、設計段階から製作・施工までを見据えた情報設計が不可欠です。たとえば部材のプレファブ化やユニット化、オフサイト製作を進めるほど、設計・製作・施工を貫く一貫した情報基盤が求められます。従来のように「設計が終わってから施工を考える」という分断型のプロセスのままでは、工業化施工をスケールさせることは難しく、品質や生産性の面でも限界が出やすくなります。

海外施主案件が加速させる「グローバルスタンダード」

現在、活況を呈しているのがデータセンターのプロジェクトです。総務省の予測によれば、日本のデータセンターサービス市場は2023年の2兆7,361億円から、2028年には5兆812億円に達すると見込まれています(「情報通信白書(令和7年版)」*4)。

データセンタープロジェクトでは海外事業者が施主となるケースも多く、グローバルスタンダードでのプロジェクト運営が求められます。その結果、EIRの発行、BEPの策定、CDEによる情報管理が前提となり、BIMは単なる設計ツールではなく「プロジェクトマネジメントの中核」に位置づけられています。

海外施主案件では「なぜBIMを使うのか」という議論はほとんどなく、BIMは使う前提で「どう使うか」「どう価値を最大化するか」が議論の中心になります。そこでは設計の可視化や干渉チェックにとどまらず、コスト、スケジュール、調達、施工計画、維持管理までを見据えた情報設計が求められます。

こうしたグローバルスタンダードは、今後日本の建設市場にも流入してくる可能性が高く、日本の建設産業が抱える構造的課題と相まって、BIM化の流れはさらに加速していくといった構図が、いま明確に見え始めています。


その先に見えてきた課題

この流れは、建設業界全体にとって非常にポジティブな変化だと捉えています。もちろんヴィックにとっても大きな追い風です。一方で、BIM活用が本格化するほど、これまで曖昧だった課題もより明確に浮かび上がってきました。

課題① ライフサイクルを貫く情報連携の不足

BIMが建築のライフサイクルマネジメントに資する技術であるならば、発注・設計・施工・竣工・維持管理の各フェーズで、建築情報が継続的に引き継がれ、活用される必要があります。一方で現実には、こうした情報連携が標準として実現しているプロジェクトは、まだ限られています。

その出発点となるEIR(交換情報要件)は、大阪・関西万博では発行されましたが、国内の一般プロジェクトではほとんど目にすることがありません。稀に発行されるケースもありますが、EIRとして不十分な内容であったり、受注側の体制や予算配分が追いつかず、形骸化してしまうプロジェクトも少なくありません。

このような状態では、BIMは本来の機能を十分に発揮できず、ライフサイクルマネジメントも実現できません。発注者と受注者が一体となって情報連携を推進していく意識は、まだ十分に根付いているとは言えないのが現状です。これは個別企業の努力不足というより、情報要求・体制・予算がセットで設計されていないことに起因するケースが多いと感じています。

課題② 求められる人材と教育のギャップ

仮に課題①への意識が高まったとしても、それを実行・運用できる人材が圧倒的に不足しています。

求められるのはモデリングスキルだけではありません。建設業界の構造理解、設計・施工の実務知識、プロジェクトマネジメント、さらにはISO 19650をはじめとする国際標準への理解までが必要になります。簡単に書いていますが、そのような人材はそう多く存在しません。

大学などの教育機関では、BIMソフト、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションといった教育は行われているものの、BIMを情報技術として「プロジェクト」や「事業」にどう活用するかを体系的に学べる場は限られています。 私たちは慶應SFCにて、建築構法とデジタル技術を統合して学ぶ実践的な講義*5を展開していますが、同様の取り組みが広がるなら、ぜひ協力していきたいと考えています。

まとめ ― 産業としての進化に向けて

BIMを取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化し、大いに希望を持てる状況になってきました。とくに、発注者主導でBIM活用が設計される流れが見え始めたことは、建設業界にとって極めて重要な転換点だと感じています。

一方で、BIM活用が本格化するほど、「ライフサイクルを貫く情報連携」や「運用を担う人材・教育」といった課題もより明確になってきました。

これらを乗り越えるためには、設計者・施工者・専門工事会社・ITベンダー・事業主がそれぞれの立場で役割を担い、業界全体として標準化と運用力を高めていく必要があります。 BIMは単なるデジタルツールではなく、建設産業が次のフェーズに進むための基盤技術です。

ヴィックとしても、これまで培ってきた知見と経験を活かしながら、この大きな構造転換の流れの中で、建設産業の進化に少しでも貢献できる存在でありたいと考えています。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

*1:10年を経て見えた景色 ― 2025年の総括 - https://blog.vicc.jp/entry/vicc_10th_anniversary

*2:Autodesk University 2025 - https://www.autodesk.com/autodesk-university/ja

*3:Autodesk Rail Summit 2025 - https://events.autodesk.com/flow/autodesk/railsummit25/mainevent/page/home

*4:令和7年版 情報通信白書 - https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd218100.html

*5:慶應SFC「建築技術論」5年間の実践と、次に見据えるテーマ - https://blog.vicc.jp/entry/keio-lecture-2025