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株式会社ヴィックの技術ブログです。

データセンターというビジネスチャンスと設計事務所でのBIM活用(Part 2)

データセンターの需要が急激に高まっている中、設計事務所がこの成長する市場で新たなビジネスチャンスを掴むためには、データセンターの設計におけるBIM(Building Information Modeling)の活用が重要なカギとなります。

データセンターにおける BIM 活用シリーズとして、前回の概要編ではデータセンターのプロジェクトの特徴を紹介しました。今回は第2回として、外資IT企業というオーナーとの向き合い方や、EIRから始まるBIM実行計画とBEPについて解説します。

前回の記事はこちらをご覧ください。
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ハイパースケーラーと従来型コロケーション

データセンターにはハイパースケールと呼ばれる大手事業者が建物を丸ごと利用するものと、従来型コロケーションと呼ばれるデータセンター運営事業者がいくつかの事業者にサーバーを貸し出すものの2種類があります。多くの場合、ハイパースケーラー(ハイパースケールの利用者)は巨大クラウド事業者か、自社で大量のデータを扱うようなIT企業(非IT企業であってもDXによって事業のITインフラ依存度が高まっている企業)です。

オフィスビルに例えるなら自社ビルを抱えているのがハイパースケールで、貸しオフィスのフロアを借りているのが従来型コロケーションに当たります。近年では低金利で融資を引けるという市場環境などを背景に、BTS型施設(Build to Suit / ある会社が定期借家で入居する前提で不動産事業者によって建設される施設)として、自社所有ではないデータセンターを自社基準で建設してもらうというケースもあるので、完全な自社ビルではありませんが、自分好みで設計した建物を独りで使うというのがハイパースケーラーです。

実務者の肌感覚としても、統計的にもハイパースケーラーの存在感が年々増しています。
参考記事↓によると2023年にハイパースケールデータセンターがラック数で従来型を追い抜いているようです。

prtimes.jp

国内にも以前からデータセンターというのはあるわけですが、近年外資ITがハイパースケーラーとして日本参入したことが、データセンター設計の中でBIMの存在感が増す要因になっています。

様々なデータセンターのイメージ(Generated by Adobe Firefly)

アメリカ式を世界で展開する米系外資IT

ハイパースケーラーは自社の基準でデータセンターを建設するため、施主が米系外資企業の場合、アメリカ式をグローバルスタンダードとして求めてきます。
極端な類型化をしてしまうと日系企業では施主は設計事務所やゼネコンに与件定義から任せてしまうのに対して、アメリカ企業は発注側の責任としてプロジェクトマネジメントの一部に積極的に関与し、場合によってはインハウスのエンジニアや(受託業者とは別の契約で)レビューエンジニアも配置してプロジェクトを他人任せにしません(この対比にはもちろん例外もあります)。
グローバルスタンダードにのっとり、発注者側でマネジメントを主導する際にBIMが出てきます。 この考え方はISO 19650のなかでBIMとOIR, AIRの関係として示されるものとつながるのですが、BIMは設計の道具ではなく施主企業の経営の一部として行われる情報マネジメントのピースであり、発注者側のマネジメントを実現するために設計フェーズでも求められています。

ISO 19650 の枠組み(ISO が作成し著作権を有する画像を基にヴィックにて作成)

ISO 19650 における情報要求の階層構造(ISO が作成し著作権を有する画像を基にヴィックにて作成)

このような発注者視点での情報マネジメントに関する受託者への要件はEIR(情報交換要件)として発行され、その中で発注側が設計者や施工者に求める情報が明示されます。
多少の地域性は加味されるものの、多くの場合、EIRはアメリカ基準を世界各地で達成するような書き方をされています。地域固有の情報を多少直す程度のカスタマイズしかされないため、これに応えながら日本でも仕事を進めることになります。

これによって苦労する面ももちろんありますが、良い面もあります。
日本企業の建設プロジェクトでは、仕事の進め方をリードすることがある意味で設計事務所の腕の見せ所で、特に組織事務所ではプロジェクト実施方針を提案したりや施主のよき伴走者であることが提供価値の中核にあるかもしれません。しかし、一言も言われていない要望を察して、完全に相手の理想の形で進めるというのはなかなか難しいもので、「基本設計で様々な形で説明資料をつくり意思決定をしたのに、実施段階でも基本設計やり直しをやっていて…」というようなことにもなりがちです。その点、仕事の進め方に関して施主要望が明確に示され、どのような情報があればプロジェクトが進められるのかがはっきりするEIRは健全なコミュニケーションの起点になるわけです。

「星条旗を掲げている」という一文をプロンプトへ追加したデータセンターのイメージ(Generated by Adobe Firefly)

EIRから始まるBIM実行計画立案とBEP

EIRではBIMに関しての様々要望が示され、どのような形式で、どのような情報を、いつ、誰が誰に対して示すのか、発注者側の要望が示されます。設計契約の中でBIMがどう位置づけられるのかにもよりますが、最終納品物にBIMモデルが含まれる契約であれば、EIRは成果品に関する仕様書の位置づけにもなります。重要なのはEIRはALL or NOTHING(全面的に受け入れるか完全に拒否するか)で回答するものではなく、受託側でBIM実行計画を立案し、準備BEP(BIM実行計画書)として対応方針を示すことが想定されている点です。BIM実行計画の立案に際し、EIRの内容を理解するともに、そこで求められている技術的解決策を把握して、対応方針と人員の能力や容量を検証して、BEPに表現します。
例えば、プロジェクト開始時点では求められる技術がまだ習得できていないこともありえるため、初期にワークショップ形式でBIM360使い方講座のようなオンボーディングを行い、プロジェクト参加者の技能を向上させる計画を含めたりします(ISO19650の用語では動員計画と言われています)。

EIRに対して代替案を提示したり、追加的な提案を行うこともBEPでは一般的です。例えば、一部の建材に米ドルでの参考価格の入力が求められていたとしたら、日本円での入力を提案するというようなことは理にかなっています(為替で毎日変わってしまうので)。

もちろん代替案が必ずしも受け入れられるわけではありませんが、一般的に設計者選定においてBIMは一つの要素でしかなく、BIMの対応ができないからと言って他の事務所との契約に切り替えるということは考えにくいので、発注側と受託側で相互にすり合わせてベターな落としどころを探ります。

時折、誤解されていることがあるのですが、BEPは一回出したら最後まで不変なものではなく、プロジェクトの進行に合わせて加筆修正していくものです。着手時とは異なる状況がプロジェクトの進行によって明らかになれば、その際に設計者から提案して発注者と協議し、更新していくことが前提となっています。特に基本設計完了時、実施設計完了時など、プロジェクトのマイルストーンでは意識的に見直し、実際と計画にズレがあれば改訂履歴を明示しつつ計画の修正を行います。

最終的にBEPはBIMモデルの説明書となり、次のフェーズで別の受託者に引き渡す際にはBIMマニュアルという添付文書になります。設計者から施工者への図渡し、あるいは基本設計者から実施設計者への引継ぎの際に適切に表現されたBEPがあることでモデルが読み解けるようになります。

(BIM に関する用語など以前解説したので適宜こちらも確認ください。↓)
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BIM実行計画案の上で進められる建設プロジェクトのイメージ(Generated by Adobe Firefly)

BIMはプロセス

EIRを起点としてBEPをやり取りし、最終的にBEP(BIMマニュアル)を引き渡すという一連のマネジメント文書のやり取りは、BIMマネジメントの基本形であるとともに、プロジェクトを前に進める有効なアプローチです。書類仕事が増えたという考え方ではなく、手戻りを防いだり、設計の品質を高めるための土台作りと思って、前向きに取り組みたいものです。
特に外資IT企業が発注者の場合は英語でのコミュニケーションも必要で、負担はありますが、このプロセスはある意味で型になっているので、はまり方を覚えてしまえば似たような応答の繰り返しです。プロジェクトの特性に応じたカスタマイズはもちろん必要ですが、そのようなプロジェクトの特性を加味した計画の立案に集中するためにも、文書の形式や位置づけになれるか、詳しいプロの力を借りるとよいでしょう。

建設途中のデータセンターのイメージ(Generated by Adobe Firefly)

中間まとめ

今回はデータセンターのプロジェクトで外資IT企業との向き合い方やEIR・BEPについて書きました。次回はEIRに寄与するAIRについて触れてみようと思います。EIRとの向き合い方に悩んでいる皆さんからのご連絡お待ちしております。

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