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株式会社ヴィックの技術ブログです。

海外BIM活用事例 Part2

前回のPart 1の記事では、モデルオーサリングとデータ管理について取り上げました。続いて今回のPart 2の記事では、干渉チェックから始めます。

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3. 干渉チェック (Navisworksを利用したコーディネーション)

干渉チェックは、設計BIMや施工BIMを問わず、BIM活用における重要なプロセスの一つです。本プロジェクトでは、EIR (Exchange Information Requirements) の要件に基づき、Navisworks を使用して干渉チェックとコーディネーション(調整)が管理されました。干渉チェックとそのコーディネーションプロセスは、プロジェクトオーナーがデザインマイルストーンの承認を行う上で重要な確認項目の一つであり、進捗はダッシュボードを通じて詳細に管理されました。

日本国内の多くのプロジェクトでは、干渉チェックの自動化があまり浸透していません。そのため、特定の複雑な部分のみ手動によるビジュアルチェックを行うケースが多く見受けられます。

一方、本プロジェクトではRevitから抽出したNavisworksファイルを活用し、全体的な干渉コーディネーションを実施しました。これにより、プロジェクトの品質管理がより体系的かつ効率的に進められました。

干渉チェックでは、設計段階ごとに「どの情報を」「どの詳細レベルで」進めるべきかが重要です。この内容は、コーディネーションの計画段階でデザインチームと十分に協議を行い、Clash Matrix にまとめます。もしBEP(BIM Execution Plan)やモデリング基準に従わない情報で干渉チェックを行うと、不必要な事務作業が過剰に発生する可能性があります。そのため、BIMマネージャーの役割は非常に重要です。

本プロジェクトにおいても、不適切な責任追及や不要な確認要求、設計段階に適さない要件提示といった非効率な要素が一部発生しました。しかし、プロジェクト全体を通じて、多くのチームがデザイン調整に積極的に取り組む姿勢が見られたことは、大きな成果の一つでした。

BIM Coordination matrix (または、Clash matrix) です。 このマトリックスは、BIMプロジェクトにおける 各要素間の干渉調整の必要性を評価するツールとして活用されます。このようなマトリックスを活用することで、プロジェクトの初期段階から干渉の可能性が高い主要な要素を特定し、効果的に管理することができます。

SINGAPORE、BUILDING AND CONSTRUCTION AUTHORITY, 「BIM Essential Guide for Collaborative Virtual Design and Construction」, Figure 6 - BIM Coordination Matrix

4. プロジェクトイシュー(Issue)*の管理

今回のプロジェクトでは、Autodesk Construction Cloud (ACC) をイシュー(Issue)管理のプラットフォームとして活用しました。イシューには設計上の課題だけでなく、専門工種間の干渉やモデリング品質に関する問題なども含まれます。

これまでの国内プロジェクトでは、PDFやPPTなどに指摘事項を記録する方法が一般的でした。しかし、この方法ではイシューの解決状況を追跡しにくく、未解決の課題を把握するのに多くの時間がかかるという課題がありました。また、メールでイシューを共有する際の資料作成にも大きな負担がかかっていました。

一方、ACCのようなクラウドベースのプラットフォームを使用することで、イシューの発行と履歴管理が正確に行え、これまでの作業時間と労力を大幅に削減することができました。

*「イシュー(Issue)」という言葉は「問題点」「指摘事項」と訳されることが多いですが、否定的なニュアンスが強くなる傾向があります。そのため、「協議事項」と表現すると、前向きな課題解決を意図するニュアンスに近づくかもしれません。

Autodesk Construction Cloud(ACC)のIssueマネジメント機能は、設計、調整、品質などのIssueを一元管理できます。ソートやフィルターを活用し、素早く検索し、進行状況をリアルタイムで追跡ができます。

Autodesk ACC homepage https://construction.autodesk.eu/tools/issues-software/

5. プロジェクトコミュニケーション

BIMは単なるツールではなく、プロセスとして継続的かつ密接なコミュニケーションが非常に重要です。本プロジェクトでは、Autodesk Construction Cloud (ACC)を活用したイシュー管理や、BIMミーティングの徹底した運営を通じて、プロジェクトの円滑な進行を図りました。

特に、BIMミーティングのスケジュール管理や参加者の調整は厳密に管理されました。限られた時間の中で多くのアジェンダを効率的に進めるため、ダッシュボードの活用が非常に効果的でした。また、本プロジェクトには多国籍のメンバーが関与していたため、公式言語として英語が指定され、すべてのコミュニケーションが英語で行われました。弊社の海外プロジェクト経験を持つメンバーが本プロジェクトに参加したことで、最新の海外BIMトレンドを実務レベルで再びアップデートする良い機会となりました。

今回のプロジェクトを契機に、社内の既存のダッシュボードのインターフェースを改善し、管理項目を柔軟に調整できるようにする予定です。このような経験を活かし、「BIMは業務負担が増える」という誤解を払拭し、BIMプロジェクト管理の効率を向上させることで、BIMコンサルタントとしてより良いサービスを提供できるよう努めていきたいと考えています。

結び: ISO 19650に準拠したBIMの実践

既に述べたように、本プロジェクトではISO 19650に基づいてEIRおよびBEPが作成され、これを実務を通じて直接経験する貴重な機会となりました。 しかし、EIRにはデザインステージの整合性が明確に整理されていなかったため、従来の設計段階区分(Concept Design – Schematic Design – Detailed Design – Construction Documentation)と、英国で採用されているより細分化されたWork Planの方式が混在し、各段階の成果物が明確に定義されていないことで混乱が生じました。*

*プロジェクトオーナーがこの部分を適切に整理し、プロジェクトに適用される設計段階を明確に定義したEIRの良い事例もあります。

BIMに関する参考文献を読まれている方ならご存じの通り、ISO 19650シリーズは多様なBIM標準、ガイドライン、EIR、BEPの中で欠かせないリファレンスです。弊社ではISO 19650の理解を深め、実務適用を推進するため、社員のISO 19650関連資格の取得を積極的に支援しています。また、社内ガイドラインとのクロスチェックを行い、クライアントに高品質なサービスを提供できるよう努めていきます。