大阪万博も開幕前のネガティブなイメージを完全に払拭して盛り上がりを見せており、気が付けば10月13日の閉幕が近づいてきました。私も最終日とその前日を慌てて予約しました。
少し時間が空きましたが、7月初旬に建築情報学会(https://ais-j.org/)が主催した万博建築ツアーについてレポートします。
万博と建築の関係性
ご存知の通り、万博は、建築の実験場としても知られています。各国が自国の技術力や文化を世界に発信する場であるパビリオンには、その時代の最先端の建築技術やデザインが導入され、建築史に残る名作が数多く生み出されてきました。
鉄やガラス、膜構造、木造といった新素材や構法が、初めて万博の場で試されることも多く、それらは後の建築の進化に大きな影響を与えてきました。つまり、万博は単なる展示の場にとどまらず、建築技術の革新と普及の起点となってきたのです。
そんな貴重な機会が今、大阪の夢洲で開催されており、ここから学ばない手はありません。
ツアーの概要
今回はNOIZの豊田さんの呼びかけのもと、建築情報学会にプロジェクトチームが発足し、私も運営チームの一員として活動させていただきました。
万博の花とも言われるパビリオンは、多くのメディアでも紹介されていますが、建築情報学会の企画する今回のツアーでは、コンピュテーショナルデザインやBIMといった「情報技術の活用」にフォーカスした内容になりました。
計13件のパビリオンを選定し、設計者や技術支援に携わったエンジニアの皆さんから現地で直接解説をうかがいながら巡りました。以下がその一覧です。
- パナソニック館「ノモの国」 解説:美村祥臣(三和ファサードラボ)
- ウーマンズパビリオン 解説:天野裕・椎見敦也(ARUP)
- 中島館・クラゲ館 解説:石川陽一郎(Tom Architects)藤井新也(フジタ)
- トイレ2 解説:竹村優里佳(Yurika Design Architecture)
- トイレ4 解説:浜田晶則・井上悟郎・栗脇剛(浜田晶則建築設計事務所)
- トイレ7 解説:鈴木淳平(PONDEDGE)
- サテライトスタジオ東 解説:三谷裕樹・野中あつみ(ナノメートルアーキテクチャー)
- シンガポール館 解説:林盛・Julia Li(HUNE)・中倉徹紀(中倉徹紀建築都市設計)
- ポップアップスタジオ北 解説:佐々木慧(axonometric代表)
- 落合館 null2 解説:豊田啓介(NOIZ)
- 飯田グループ×大阪公立大学・共同出展館 解説:平郡竜志(太陽工業)
- 森になる建築 解説:山崎篤史(竹中工務店)
- 大屋根リング 解説:林瑞樹(竹中工務店)



万博で見えた情報技術活用の実像
個々の詳細な内容は他の取材いただいたメディアでも掲載されると思いますのでここでは割愛します。今回のツアーの意義は、いわゆる建築的な解説や万博イベント的な解説とは一線を画し、前述の「情報技術の活用」という視点での解説であったことだと思います。
なぜなら、万博がその時代の最新の技術の実験場であるならば、現代の最新技術は「情報技術」だからです。
1970年の大阪万博に関連する書籍などを最近見ているのですが、「情報化社会」といった言葉は使われていますが、「情報技術」という言葉は使われていなかったようです。この半世紀で、建築における「情報」の意味は大きく変わりました。
建築が実体のあるものとして語られ、その成立のプロセスにおいても常に様々な技術の革新が連綿と続いて今日の建築技術体系があると思います。情報の観点でも、太古から建築には、多様な情報伝達が欠かせなかったことは間違いありません。
しかし、近年の情報技術の発展は凄まじく、設計・施工のプロセスのみならず、アウトプットとしての建築そのものの概念や運用までも大きく変え始めています。そういった意味でも、今回のツアーは各所の実践を横断的に観察できた意義深い機会であったと思います。
これからの情報技術の活用に向けて
一方で、建築における「情報技術」はまだ体系的に整理がされているとは言えません。BIMという分野だけを見ても、今回の万博ではEIR(Employer’s Informatuon Requirement)の発行といった新しい試みがありました。個人的には、国家レベルのイベントでEIRが出たのは日本の建設業界にとって、大きな意義があると考えています。本来であれば、これを受けて設計者・施工者はBEP(BIM Execution Plan)を策定し、発注者の承認を得たうえでプロジェクト運営を行うべきでしたが、少なくても私の周辺ではそのような動きは見られませんでした。発注者側もEIRを発行した以上は、本来であればBIMの納品物やプロジェクト運営をレビューし、EIRに掲げた目的に則してデータを活用されているかを検証する責任があります。
また、プロジェクト単位で見ても、発注者と設計者、施工者の関係においてBIMやコンピューテーショナルデザインがどのように活用されたかを精査すべきではないでしょうか。BEPの内容やBIM関連チームの体制、CDE(Common Data Environment)の活用、使用したソフトウエアなど、検証すべき点は多岐にわたります。 繰り返しますが、「情報技術」を建設業界の最新技術と位置づけるなら、万博という国家レベルのプロジェクトでそれがどう活用され、どこに課題があったのかを総括してこそ、「ポスト万博」に向けた建設業の具体的な方向性が見えてくるのではないでしょうか。