BIM実行計画には、文書内で使用する用語説明のための章があるのをご存知かと思います。
今後のBIMに関する記事をわかりやすくするためにも、BIM実務に必須の用語をいくつか把握しておくと便利です。今回は、主にAutodesk RevitとBIM 360を使用する際に必要なBIM実務の用語を選びました。
BIM (Building Information Modeling)
おそらく既にご存知かと思いますが、まずは最も簡単な用語からスタートしてみましょう。BIMとはBuilding Information Modellingの略で、簡単に言うと情報が埋め込まれた3Dジオメトリの要素のことを指します。これによって、設計を進め、可視化し、部品の属性を確認できます。この情報を元に、設計のチェック、エンジニアリング、解析、多数の分野にまたがる調整、2D図面作成、データ出力など、プロジェクト全体にわたって様々な活用することが可能となります。
(2024年5月1日追記。BIMの定義についてはこちらの記事もご参照ください。BIMの変化と国際標準 - vicc blog)
BIM要求水準(BIM Requirements)
BIM要求水準(書)は、プロジェクトにおける必要なBIMの要件を示す文書です。この文書は、事業主や建築主が、設計者/請負業者を採用するために作成するRFP(Request for Proposal: 提案要項)の一部となります。
以前参加した建設入札プロジェクトでは、BIM要求水準が様々な形で文書化されていました。その中には、事業主がBIM基準(BIM Standards)を設け、請負業者がそれに従う必要があるというものもありました。また、EIR(Employer Information Requirements: 発注者情報要件)*1が含まれたBIM要求水準もありました。BIM要求水準は、プロジェクト固有の文書である場合も、他のプロジェクトと共通する一般的な文書である場合もあります。
いずれにしても、BIM要求水準では、BIM技術要件、BIM管理要件、BIM設備、BIM成果物などが定義されています。適正なBIM提案書を作成するためには、BIM要求水準を理解し、曖昧な部分を明確にすることが必要です。
私たちは日本の設計者や施工者とも仕事をしていますが、日本ではプロジェクト遂行にBIMを利用することが一般的です(訳注:必ずしも建築主からの要求があるわけではありません)。その場合、設計者や施工者自身がプロジェクトのBIM目標とスコープを定め、BIM要件水準を設定し、BEPを作成する必要があります。
BEP (BIM Execution Plan: BIM実行計画)
BEPとは、プロジェクトにおいてBIMをどのように実施するかを説明する文書です。従って、プロジェクト毎に異なる内容となります。通常、クライアントから提供されるBIM要求水準に基づいて、BEPが作成されます。つまり、BEPを適切に作成するには、BIM要求水準を十分に理解していることが必要です。普通はBEPの作成には以下の2つの段階があります。
準備BEP (Preliminary BEP)
暫定的なBEPであり、BIM要求水準に基づいて部分的に定義された内容を概説します。建築主の要望に応じて、設計者や請負業者が技術提案の一環として提出する場合もあります。その場合は、BEPの完成は受注後になります。
BEP/詳細BEP
準備BEPを元に作成された、より詳細なものです。このため、"BEP"や "完全BEP"(Full BEP)、"詳細BEP"(Detailed BEP)と呼ばれることがあります(プロジェクトチームで名前を決めます)。BEPは、BIM要求水準書に従ってプロジェクト期間中に更新することができます。そして、BEPはプロジェクトの終了時に、BIMモデルや成果物の作成方法を記録する文書となります。
BEPのサンプルなどは、以下のリンクに掲載されていますので、興味がある場合はご覧ください。
BIM PROJECT EXECUTION PLAN VERSION 2.0 ( The buildingSMART alliance)
BIM Project Execution Planning Guide – Version 2.2
LOD(開発/詳細度のレベル)
BIMモデルは、3D形状に加えて、設計段階で追加された情報を含むものです。基本計画や基本設計の段階では、単純な3D形状と限られた情報で構成されていますが、実施設計の段階では、これらが進化します。LODは、各段階で異なる様々な建築要素の情報のレベルを定義するものです。LOD100は最も単純であり、LOD400まで情報が徐々に増加します。LOD500は、BIMを施設管理アプリケーションで使用するために最適化されたバージョンです。
LOD 350は他の建築要素との境目に関するものです。他の多くの部分がLOD 300にある時に、いくつかの建築要素をLOD350に指定することができます。例えば、設計者が構造部材同士の接合部を、細部に至るまで美しく設計しようとしたとしましょう。その場合は接合部とそれに関連する要素をLOD 350まで作りこむことになります。
世界的に広く参照されてあり、BIMフォーラムが発行しているものである「Level of Development Specification(LOD仕様書)」を参照することが多いです。最新版は2020年12月に発行され、無料でダウンロードできます。https://bimforum.org/lod/ ぜひチェックしてください。
MPS (Model Progression Specification)
MPSとは、MPSは標準化された建築部材を分解構成した表で、各作業スコープに応じて、設計段階と施工段階で要求されるLODを定義します。私たちは、プロジェクトの要件に応じて、MPSとLODをカスタマイズします。一部のサンプルは以下のようになります。
CDE (Common Data Environment)
CDEは、プロジェクトメンバーがモデルやデータにアクセスして共同作業を行うための環境で、BIMモデルとプロジェクトに関連する文書を保存することができます。これは、作業プロセスとしてのBIMのための核心機能になります。CDEには、クラウドベースのサーバーで運用されるものと、オンプレミス(自社運用)のサーバーで運用されるものがあります。
私たちが最近完了したプロジェクトでは、BIM 360というクラウドベースのCDEで運用しました。COVID-19の感染拡大により、リモートでの作業が必要となったため、チーム全体にとって非常に有効なツールでした。
プロジェクト開始時に、フォルダ構造を決定し、BEPで定めた「共同作業とコミュニケーションの計画」に沿って各メンバーにアクセス権を割り当てました。
「共同作業とコミュニケーションの計画」では、以下のことが決定されました。
・情報交換のプロセス(チーム内で特別なソフトウェアを使用していたため)
・モデルの公開とパッケージ
・調整モデルと衝突検出
・通信プロトコル
BIM オーサリング
BIMモデリングは、BIMオーサリングの一部に過ぎず、BIMオーサリングにはより広範囲な処理作業が含まれています。たとえば、各モデルの属性の入力や統合、設計情報(2D図面、スケジュール、データ)の抽出などがあります。これらの作業は、RevitやArchiCADなどのBIMソフトウェアのツールを使用して実行できます。
以下は『BIMのかたち Society5.0へつながる建築知』(日本建築学会編)からの引用です。読んでみましょう。
“ BIMオーサリング
建築の構成要素をオブジェクトとして、集積・統合し、その一部あるいは全体をBIMモデルとして構築し編集する作業。BIMモデルを基盤に新たな情報を加えたり、新たな価値を制作する行為全般。BIMモデルから各局面で必要とされる図面などのドキュメントを取り出したり作成することも含む。”
BIMのかたち Society5.0へつながる建築知, 日本建築学会 p220
セントラルモデル(中央モデル)
セントラルモデルとはRevitソフトウェアの用語で、RevitサーバーやBIM360に保存されるものであり、ローカルモデルはセントラルモデルと同期する必要があります。各分野の修正点や保留事項はこのモデルに記載されます。それぞれの分野のフォルダに保存され、権限 を持っているそのチームしかアクセスできません。
パッケージ
BIMコラボレーションプラットフォーム内の専用フォルダで、セントラルモデルを共有することです。このプロセスでは、各分野のリーダーによる設計検証とモデルのQA/QC(品質保証・品質管理)が行われます。
マスターモデル
マスターモデルは、パッケージされたすべての分野のセントラルモデルをリンクしたモデルです。マスターモデルに他の分野の修正点や保留事項が記載されます。又は、設計レビューや全体の進捗状況の確認などに利用することができます。
コーディネーションモデル
Navisworksで干渉チェックを行う時、セントラルモデルにリンクさせたコーディネーションモデルを用意し、ルールを設定して干渉チェックを行います。調整モデルには、シーン環境、保存されたビュー、干渉検出結果、コメントや書き込みを含むお気に入りビューを保存することができます。
干渉チェック
干渉チェックは、BIMプロセスにおける空間的な調整作業の中で最も重要なものです。単一分野のモデル内での干渉と、干渉マトリックスで設定された複数の分野間の干渉を見分けることができます。
ハード干渉
空間内の同じ位置に複数の物体があるときに、自動的に検出することができます。
ソフト干渉
一定の空間的/幾何学的許容差や、他の物体との一定のクリアランスを必要とする物を指す用語です。これは、安全性、メンテナンス、アクセス性、設置性、またはその他の理由から必要とされるものです。
BIM 次元 (4D BIM, 5D BIM など)
基本的なBIMモデルは(情報を含んだ)3Dジオメトリで、設計の調整や設計情報の作成を実行しますが、このBIMモデルを利用して次元を広がります。一般的な定義でのBIM次元は下の表のようになっています。
私の過去経験から見ると、BIM次元の定義がクライアントによって少し違うということがありました(特に5DBIM以上)。なので、プロジェクトでXD BIMが要求されている時には、BIM要求水準書で明確に定義することが必要です。関連する記事を読んでみましょう。 www.designingbuildings.co.uk
IFC (Industry Foundation Class)
異なるソフトウェア間で情報を 互換するためのファイル形式であるIFCが存在します。このファイル形式はbuildingSMARTから開発、運用されています。IFC形式のファイルは、多くのBIMソフトウェアでインポートおよびエクスポートが可能です。
building SMART
buildingSMARTは、BIMに関する国際的な組織で、BIM規格の開発やコンプライアンス、アワード、国際的なBIMイベントおよびその他のアクティビティの主催などを行っています。
https://www.buildingsmart.org/about/who-we-are/
COBie (Construction into Operation of Building information exchange)
COBieとは、設備管理で使用する資産データを転送するためのグラフィカルデータではなく、スプレッドシート形式のデータベースです。普段、この情報には、機器リスト、データシート、スペアパーツ、保証、メンテナンススケジュールなどが含まれます。
より詳しい情報は、以下のリンクを見てください。 What is COBie? | NBS
*1:EIR についての詳しい説明はこちらを参照してください。
blog.vicc.jp