vicc blog

株式会社ヴィックの技術ブログです。

海外BIM活用事例 Part1

海外でのBIM適用事例やトレンドを直接確認できる機会は、やはり実務を通じて得られるものだと思います。そこで、弊社が担当した海外プロジェクトの事例をご紹介します!

その前に一点、皆さんの記憶を呼び起こしたいと思います。 https://blog.vicc.jp/entry/eir_explanation_2024
さまざまなBIM標準やプロジェクト専用のEIR(Exchange Information Requirements)、政府発行のBIMガイドラインなど、これらの参考資料を見ると、海外ではISO 19650シリーズ*が基本に据えられています。日本でも同様に、ISO 19650は国際的なBIM基準としての役割をますます強めています。この点を念頭に置きながら、海外と日本でのBIM活用にどのような違いがあるのかを考えてみたいと思います。

* ISO 19650シリーズは、建設情報モデリング(BIM)を活用した情報管理のための国際規格です。この規格は、建設・設計・運用段階を含む資産のライフサイクル全体にわたり、情報の組織化とデジタル化を支援します。また、プロジェクト関係者が効率的かつ正確にデータを共有し、協力できる基盤を提供します。
ISO 19650シリーズ:
ISO 19650-1:2018、 情報管理の概念と原則を詳細に説明 / ISO 19650-2:2018、 資産提供段階における情報管理の要件を規定 / ISO 19650-3:2020、 資産運用段階における情報管理の要件を規定 / ISO 19650-4:2022、 情報交換の仕様と要件を規定し、プロジェクトにおける信頼性の高いデータ共有を実現 / ISO 19650-5:2020、 デジタルセキュリティと情報管理に関するガイドラインを提供し、サイバーセキュリティリスクを低減
これらの規格は、CDE(Common Data Environment)の活用を推進し、SSoT(Single Source of Truth)の実現を目指すことで、プロジェクトの生産性向上や情報の信頼性確保に寄与します。

ISO - International Organization for Standardization

背景

本プロジェクトは中東地域の大規模レジデンシャル施設であり、海外建築設計事務所の基本設計段階で意匠分野のBIMを支援するものでした。発注者が提供したEIRに基づき、Lead Design Consultant(LDC、本プロジェクトではグローバルレベルのデザイン総合コンサルティング会社)が以下の業務を行いました:

  1. BIMモデルの構成と作成(非グラフィカルデータを含む)
  2. BIMモデルの統合戦略と統合
  3. 干渉チェックおよび進捗管理
  4. BIMベースのデザインレビューとコミュニケーション
  5. 継続的なQA/QC

1. モデルオーサリング*

本プロジェクトのモデリングは、EIRの要件に従い、設計段階ごとに想定された使用目的に合わせて、グラフィカル/非グラフィカル**を作成・活用しました。これは、設計と調整作業がBIM環境でSSoT(Single Source of Truth)*** として管理され、図面やスケジュール、数量データを抽出できるようにするためです。

一方で、日本のBIMプロジェクトは、ほとんどが単純なモデリング作業に集中しています。2D図面を3Dに変換する作業が主流であり、3Dモデルを用いて数量算出や分析を行う事例は非常に少ないのが現状です。一部のプロジェクトではBIMを活用して確認審査が行われることもありますが、SSoTとして管理されたBIMを経験する機会はほとんどありません。この背景には、モデルオーサリングの活用目的が明確でないことも一因ではないかと考えられます。

モデルオーサリングはプロジェクトデータ構築の基本であるため、モデリング標準に従ってデータを作成することが、計画通りの活用を可能にします。モデリングルールが欠如している場合、後に再モデリングなどの無駄な時間が発生してしまいます。

* (数年前までは「オーサリング」という言葉自体がうまく理解されず、拒否感を示される場合もありましたが、最近では日本でも徐々に普及し、定着しているように見受けられます。親しみやすい言葉で言い換えると、「モデルオーサリング」は「モデリング」または「モデル作成」、「BIMオーサリング」はBIMモデリングと統合、コーディネーションを含む広義の意味で使用されています。)

** モデル情報(視覚的情報)/属性情報情報(非視覚的情報)

*** SSoTとは, 組織内の全員が同じデータに基づいてビジネスの意思決定を行うことを保証するために使用される概念です。 https://blog.vicc.jp/entry/data-center-4

  

2. BIMデータ管理

大規模なレジデンスプロジェクトのデータ管理において、LDCのBIMマネージャーは建築設計事務所と協力し、BIMモデルファイルの構成および統合方法について協議を行いました。この過程では、標準ユニットモデルの配置戦略や共有空間モデル、ファサードモデルなどの予想されるファイルサイズ、モデルの責任分担表といった大容量データを体系的に管理するための事前準備が行われました。このような体制を整えることで、基本設計段階からすべての専門分野のコンサルティングチームがBIMデータを効率的に作成することが可能になりました。

特にBIMマネージャーはPower BIを活用して膨大なデータを効率的に管理し、管理者やプロジェクト関係者はこれらのデータをリアルタイムで確認できました。例えば、ファイル名、容量、ファイル内の警告、要素数、ワークセット設定の状態など、さまざまな情報をBIMモデルから抽出して可視化し、プロジェクト関係者に共有することで、ISO基準に準拠したEIRおよびBEPが正確に順守されているかを即座に把握できる仕組みを整えました。このような準備が整っていなかった過去のプロジェクトでは、QA/QCのために数十個のRevitファイルを一つずつ開いて確認する必要がありましたが、今回のプロジェクトではその手間が大幅に削減されました。

また、これらのプロセスの多くはAutodesk Construction Cloud(ACC)を通じて実施されました。ACCはファイル共有、レポートの更新、課題管理などを統合的に行えるプラットフォームであり、関係者間のコラボレーションをさらに円滑に支援しました。このように、データ管理および協業のためのデジタル環境が整備されたことで、プロジェクトの生産性と品質が向上していることを実感することができました。

こちらは、ISO 19650-1で定義されているCommon Data Environment (CDE) の概念を示す概念図です。CDEを活用することで、データを体系的に区分・整理し、EIR(Employer’s Information Requirements)やBEP(BIM Execution Plan)を満たす形で、円滑なデータ運用が可能になります。 例えば、明確なファイル名を設定することで、ファイルの内容が一目で分かりやすくなり、プロジェクト関係者間の誤解やミスを減らすことができます。また、統一されたルールや基準を設定し、これを遵守することで、協力関係がさらに強化されます。

INTERNATIONAL STANDARD. ISO 19650-1 Part 1: 2018(E) 12 Common data environment (CDE) solution and workflow,
Figure 10 - Concepts and principles

次回予告:Part 2について

文章が長くなるため、本ブログはPart 2に分けて記載します。 次回のPart 2では、干渉チェック、プロジェクトにおける課題、そしてコミュニケーションに焦点を当てて詳しく解説していきますので、ぜひご期待ください!