ヴィックの吉岡です。今回も実際のプロジェクトでの学びと反省、特に Fillet 等のディテールを表現に関しての振り返りなどを書いてみます。Grasshopper 反省会というシリーズとして書き始めましたが、今回は Rhino での作業も含めたモデリング振り返り会になりそうです。
前回の記事はこちら。
今回の記事では建築分野において、特に実施設計以降に情報の解像度を上げていくフェーズ(社内では生産設計 BIM ともカテゴライズしています)において、建築部材に対して Fillet でディテールを表現する / 表現しない、表現する場合にはどこで気を付けるか、ということを過去のいくつかのプロジェクトを下敷きにいくつかテキストを書いてみます。ひとつの答えはないという気がするので、結論が出なくてもあしからず。
大前提
図面や 3D モデルというのは設計を表現するものであって、現実のものを完璧にトレースするものではないというニュアンスのことを、学生時代から何度も言われてきた気がします(僕だけですかね?)。
具体的に言い換えると、ビスのねじ山を正確にモデリングするべきではないですが、詳細を書いた 2D の図面ではビス揉みの意図を伝えるためにビスの絵を書くことが必要という場合もあります。
3D モデリングにおいて、過度にデータ量が多いモデルは、開いたり保存したりの操作や、表示切替、切断などのジオメトリの処理などにも多くの時間がかかります。そのため Fillet などの細かなディテールの表現を最初からしすぎないほうが良いというのが前提になると思います。
上の前提に合わせ、概形でモデルを作成したうえで、後で一括でディテールを足すという処理も可能なはずです。しかしながら、それには相応の仕込みが必要なので、Fillet がいるのかいらないのかを予想し、作戦を立てるべきというのが大前提です。 作戦を立てずに、要らない細かなディテールの表現をして作業性が落ちてしまう、逆に、細かなディテールの表現は要らないということで進めていってあとでやっぱり追加というのが非常に辛いパターンになると思います。
(話がそれますが)、紙とペンを用いて、意図が伝わる簡潔なスケッチを書いてくれる建築関係者が多いですが、これがモデリングになった瞬間に細かな箇所までちゃんと作りこまなければという変なスイッチが入ってしまっている場合があるようにも思えます。
感覚的な部分を共有出来ているチームであれば何もしなくてもうまくいくようにも思いますが、場合によっては LOD(Level of Detail / Level of Development)の考え方などをもとに、モデリング着手の前にモデリングの進め方をチーム全員で考えてみてもいいかもしれません。
Fillet を表現しなくてよかった例
板金の曲げ加工によるアングルや曲げで作る角パイプなどでは、プレス機で曲げている以上、完全なピン角にはなりません(角に Fillet がある)。そのために、実際の形状をモデリングする場合は、Fillet があるモデルが現実に即しているように思えます。
しかし、ここに罠があります(僕もこの会社で働く前にはこの辺りあまりわかっていませんでした)。
罠というのは、曲げによる Fillet を完璧な精度でモデリングするのは非常に難しいということです。この理由としては、板厚やプレス機の先端形状によって、どの程度の Fillet になるのか設計段階では完璧な精度ではわかりません。内R が板厚と同じ程度が一般的な最小曲げ R(T=1.6 であれば、内Rで1.6)とも言われますが、実物は設計値と同じにはならないはずです(精度指定などで可能になるのかもしれません(製造費が高くなりそうですが))。
図面に書いた形状の精度を指定しないと(=問題なく組み立てできる範囲での多少の変更や誤差を許容すると)、CAD で作成した Fillet 有りのモデルの理想の寸法と、製作しやすい形状で作成した実際の部材で、Fillet の形状の違いで寸法が合いません。
たとえば、寸法を表示する際にはピン角の端部を押さえて寸法線を書きたいとの要望だったら、モデルとしてはピン角として作成します。
この画像の通り、寸法をピン角で押さえる場合には、Fillet を表現しないモデルで十分な場合があります。
Fillet を表現してくださいという要望
先の例とは逆で、溶接やビス揉み箇所、シール形状の確認などのために、理想寸法で良いので Fillet を表現したモデルを作成してくださいというプロジェクトもありました。
大前提の箇所で、正確なねじ山を書くべきではなく、設計を表現した絵を書くべきということを書きましたが、理想寸法で良いので Fillet を表現してくださいというのは、概形を表現することで設計として詳細な検討を進めたいという意味で納得できたので、なるほど!と感じました。
反省 / Fillet を表現したモデルを作成したときの失敗から
さらにもう一歩、Fillet を表現したモデルを作成していた実際のプロジェクトからの反省を書いてみます。
まずは下記の画像を見てください。これは鉄を曲げて作る角パイプのジオメトリのエッジをピンク色で強調したものです。
これらに違いはあるでしょうか?また、生産設計フェーズでモデルを操作するという視点でどちらが良いモデルでしょうか?
左と右を比べると、左の方がエッジが少ないです。左側は側面をぐるっと一周した切れ目のない1枚のサーフェスでモデルが作られています。
単純にモデルを作るという面では大きな違いはないように思いますが、生産設計フェーズでモデルを操作するという観点でモデルの良しあしを比較すると、明らかに右の方が使いやすかったです。
生産設計後の流れとしては、詳細の検討が終わったら、部材の延べ長さを求めたり、部材単品での加工図を書いたりするなどの後工程が予想できます。それらの作業には、四角形断面にそろった座標系が肝です。
オブジェクトを作成した時に UserText に情報を入れておくなどの手もありますが、部材そのものを修正する時に座標系を間違って消してしまったときなどに、右のモデルだと簡単に座標系を再作成することができます。そして、その視点で考えると明らかに右の方が使いやすいはずです。
下記のような処理をすると、四角形断面に揃った作業平面を後から簡単に計算することができます。ずらしてしまったり消してしまっても後から計算して復旧できるというのは非常に便利です。
角パイプや、C字の形鋼、 L字の形鋼など、断面によってアルゴリズムの細部が変わるのでここではヒントにとどめます。
- 面をばらす
- 小口の面を取り除く
- 平面部分と曲面部分を分ける
- 面の大きさで振り分ける
- 任意で面を選び出し、座標系を作る
逆に左のモデルであると、頑張って頑張って処理をしなければ、四角形断面に揃った作業平面を導出することはできません。場合によっては、ソルバーを用いて OBB(Object Oriented BoundingBox)を求めることもできますが、無駄に演算パワーを食ってしまうので、スマートな処理では無いように思えます。
OBB(Object Oriented BoundingBox) の Wikipedia はこちらです en.wikipedia.org
このように Fillet 等のディテールのモデリングの仕方ひとつで、大きな差が出るのがわかると思います。Rhino の角パイプのデータと座標系を求める GH のデータをアップロードしておくので、気になる人は触ってみて下さい。
まとめ
今回は、自分たちの過去プロジェクトの経験を踏まえて、次のプロジェクトに向けて作戦を考えたことと、過去プロジェクトでの技術的な反省の2本立てで、建築部材に対して Fillet 等のディテールを表現することに関しての記事を書いてみました。あのときは Fillet していない、あのときは Fillet してたという事実だけではなく、その選択をした理由こそが伝えるべきことだなと、記事に書いてみて改めて感じました。
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終わり