株式会社ヴィックの代表の渡辺です。
今年もあっという間に年末になりました。皆さまにとって、今年はどんな1年だったでしょうか。
2025年は、ヴィックにとっても私個人にとっても、これまで積み重ねてきた時間がいくつも重なり合い、次のフェーズに進み始めたことを実感する1年でした。
株式会社ヴィックは今年で10周年を迎えました。私自身の原点を振り返ると、2008年にイギリスから帰国し、個人事業主としてCGや動画といったビジュアル制作を始めたところからスタートしました。2009年に日建設計の山梨さんが『BIM建築革命』という本を出され、日本の建築業界でBIMという言葉が広く流通し始めたのがこの頃です。その本を読み、CGで使い倒していた3Dという技術で、もっと凄いことができるのではないかと興奮したのを覚えています。
その後、「表参道けやきビル」のプロジェクトで、今で言うところの施工BIMの仕事に関わったことをきっかけに、BIMという技術と本格的に向き合うようになりました。そして2015年に法人化し、そこから10年。BIMへの理解も、3Dモデルで干渉チェックを行い、図面を出力する、といった段階から大きな進化を遂げました。各種シミュレーションの活用や、さまざまな業務プロセスの自動化が進み、CDEの導入によって、プロジェクト全体の業務フローそのものも大きく変わりつつあります。さらに現在では、建築のライフサイクルマネジメントを支える技術としてのBIMへと、意識が移りつつあります。その過程を実務の最前線で体感し続けてこられたことは、非常に幸運だったと感じています。
今年を振り返ると、弊社の仕事を通してBIMの変遷を見ることができます。以下、項目ごとに振り返ってみたいと思います。
- 複雑形状案件
- ゼネコンへの生産設計BIM支援
- 工業化施工という流れ
- データセンターと海外案件
- 事業主からのBIMコンサル案件の受注
- VIZチームの活躍
- 派遣スキーム
- レクチャー・イベント登壇など
- シンテグレート日本法人の買収
- まとめ
複雑形状案件
過去の当社の業務を振り返っても、やはり複雑形状の外装案件はアウトプットが明確で最も印象的かもしれません。素材も、木、金属、コンクリート系、ガラスなど多岐にわたります。一昨年は万博案件において太陽工業様のサポートを行い、「膜」という素材に対する理解も大きく進みました。
万博では、ヴィックおよびシンテグレートとして6案件*1をサポートし、いずれも形状が複雑でチャレンジングな仕事でした。参画した各プロジェクトチームは、「これまでにない建築をつくりたい」という強い熱気にあふれており、万博という歴史的なイベントに、自分たちの技術を活かして関われたことは、本当に素晴らしい経験になりました。
また、今年竣工した商業施設では、これまでにないガラスの複雑形状に関する生産設計のデータ制作をサポートしました。具体的な案件名は公表できませんが、これまでのガラス案件で培ってきた知見を踏まえ、さらに一段上の「最適化」作業に踏み込み、ガラスデザインの表現により一層貢献できたのではないかと考えています。
ゼネコンへの生産設計BIM支援
これまで生産設計に関連する業務の多くは、いわゆるサブコンからの発注が中心でしたが、今年からゼネコンからの発注や相談を受けることが多くなりました。背景には業界の人材不足もありますが、「サブコンに任せきりにした結果、技術がブラックボックス化し、建設コストの上昇が無視できなくなってきた」という声を、ゼネコン側から多く聞くようになったことが印象的です。
これにはさまざまな議論があると思いますが、当社の技術はどちらの立場においても有効だと考えています。引き続き推移を注視していきたいと思います。
工業化施工という流れ
設計の標準化を進め、工場でユニットを製作し、現場作業を減らしてコストを抑えながら品質を確保する、という考え方自体は決して新しいものではありません。住宅や集合住宅では以前から広く採用されていることは周知のとおりです。ただし、それ以外の建築タイプでは、「一品生産なので工場生産は限定的にならざるを得ない」という考えが一般的でした。
ところが、現代のBIMを含む情報技術の発達により、一品生産の建築であっても、一定の設計パターンをベースに必要に応じてデータを可変させ、設計から製作、施工、さらには維持管理までを効率的につなぐことが現実的になりつつあります。2月に視察に行ったフランスの大手施工会社ブイグ・コンストラクションでは、ダッソー・システムズと共同で「コンストラクション・ブロック」という概念をベースに、工業化施工にチャレンジしていました。
人手不足や資材高騰といった外部要因に加え、情報技術の進化がこの流れを後押ししていると感じます。弊社でも、グループ会社のシンテグレートが実案件を通じてこの変革を支援しており*2、来年以降、成果が見え始めることを期待しています。
データセンターと海外案件
データセンター案件の活況も、今年の特徴の一つです。 特に海外施主の案件では、非常に厳格なBIM運用が求められ、EIRを読み解き、BEPを作成し、BIM定例(もちろん英語)の運営まで含めて、設計会社のBIMマネジメントを代行する業務を複数受注しました。
また、海外で建設されるプロジェクトも受注し、海外の設計会社のBIMマネジメント代行を行う中で、これまでの海外BIMの経験を存分に活かすことができました。海外のBIM会社をルーツに持ち、数年前から海外でのBIM案件経験者を採用して準備してきたことが、ようやく形になった一年でもあります。国内でもEIRやBEPといった言葉が流通し始めており、弊社のアドバンテージを今後さらに活かしていければと思います。
事業主からのBIMコンサル案件の受注
今年、大きな転換点になったのは、事業主からのBIM導入コンサル案件を複数受注できたことです。私たちが掲げてきた「建設プロジェクトの全体最適化」において、事業主は間違いなくキープレーヤーです。BIMが本来、建築のライフサイクルマネジメントのための技術であるならば、事業主に理解を促し、情報活用による事業性向上の流れをつくる必要があります。海外ではこの考え方が先行していましたが、国内においても少しずつ追いついてきていると実感しています。
これまでは、設計や施工、生産設計といったフェーズごとのBIM活用に留まらざるを得ませんでしたが、今回の受注により、その流れを変える可能性が見えてきました。設計会社や施工会社という立場に縛られない私たちだからこそできるBIM推進であり、しかも業界を代表する企業からの受注であることを考えると、与えるインパクトは非常に大きいと考えています。
VIZチームの活躍
実は、ヴィックで最も長い歴史と実績を持つのがビジュアルチームです。個人事業主時代から、多くの著名建築家や大手設計事務所、ゼネコンのビジュアルを制作してきましたが、今年はVIZチームがさらに多くの案件を受注し、とくにコンペ業務では高い勝率と評価を得ました。
昨今のAI技術がどのような影響を与えるかは注視していますが、現時点では、設計チームとの濃密なコミュニケーションから生み出されるアウトプットには、やはり圧倒的な価値があるのは間違いありません。
派遣スキーム
社員の建設プロジェクトへの理解を深め、情報技術の正しい活用を進めるために、若手社員を設計会社や施工会社へ一定期間派遣するスキームを昨年から始めています。BIMオペレーターとしての派遣ではなく、あくまで設計や施工管理に従事させています。
現場を知ることで、頭でっかちなBIM推進に陥ることなく、現実を見ながら「半歩先」のサポートができるようになると考えています。弊社では5ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)が重要だと考えています。BIMは、形のない「情報」を扱うビジネスとも言えますが、私たちは建設プロジェクトや建築資産という実態のあるものの情報を扱っているからです。
弊社が今後、設計業務や施工業務を行わないとは断言しませんが、当面はこの派遣スキームを継続していきたいと考えています。
レクチャー・イベント登壇など
慶應SFCでの講義が5年目*3を迎え、他大学でのスポット講義も例年どおり行いました。それに加えて、企業研修の依頼をいただくことが増えてきました。とくに多いのは、企業の中間管理職層の意識向上を目的としたBIM講座です。
トップダウンの方針と、デジタル技術に長けた若手人材の間に立ち、両者をつなぐ役割を担う層として、中間管理職の重要性を改めて認識している企業が増えていると感じています。中間管理職が持つ豊富な実務経験を、デジタルというフィルターを通して整理し、BIMの業務に落とし込んでいくことが、これからますます重要になっていくでしょう。そうした層の理解と実践力を高めていくことが、結果として組織全体のBIM推進を前に進める鍵になりつつあるのではないでしょうか。
また、4月には芝浦工業大学 SIT総研のグローバル建築技術研究センターが主催する「DfMAシンポジウム」*4にも登壇させていただき、生産設計について改めて見つめ直す機会となりました。
そのほか、CM協会でのBIM関連のレクチャーや、建築雑誌*5など学会関連の記事への寄稿・取材にも関わらせていただき、徐々に業界でのプレゼンスを築けてきていることを実感しています。
シンテグレート日本法人の買収
最後になりますが、個人的に今年最も大きなニュースは、ヴィックによるシンテグレート日本法人の買収が完了したことです。シンテグレート日本法人は、私と私以外の代表2名との共同経営という形で運営してきました。
これまでヴィックとともに、両社の強みを活かしながら一体で事業を進めてきましたが、対外的には分かりにくい部分もあったのが正直なところです。今回の一本化により、これまで2社にまたがって蓄積してきた知見を整理し、サービスの向上はもちろん、経営体制の強化にもつなげていきたいと考えています。今後は、両社の事業統合をさらに加速させていく予定です。
まとめ
法人化10周年という節目の年に、業界のBIM活用の流れと連動するように、これまでの我々の積み重ねが、いくつかの方向で具体的な形になってきたと実感できる一年だったと思います。来年はさらなる会社の体制強化も進め、「建設プロジェクトの全体最適化」というテーマに愚直に向き合いながら、次の10年に向けた一歩を積み重ねていきたいと思います。
それでは皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください。
*1:パナソニックパビリオン https://vicc.jp/790/ や、いのちの遊び場 クラゲ館 https://vicc.jp/820/ など
*2:「工業化施工と3DEXPERIENCEプラットフォーム(Vicc Blog)」 https://blog.vicc.jp/entry/industrialized-construction-3dexperience
*3:「慶應SFC「建築技術論」5年間の実践と、次に見据えるテーマ(Vicc Blog)」https://blog.vicc.jp/entry/keio-lecture-2025
*4:DfMA シンポジウム_vol.1 https://sites.google.com/view/global-building-technology-res/discussion/dfma%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0_vol-1
*5:2025-11月号 特集= 11 デジタルが拓く建築のかたち―コンピュテーショナルデザインの現在地と可能性 http://jabs.aij.or.jp/backnumber/1807.php