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株式会社ヴィックの技術ブログです。

かたちに詳しくなるための建築幾何学#2 「パラメータ空間」

こんにちは、新入社員の篠原です。NURBSが好きです。
NURBSの好きなところを紹介します。

建築に携わる皆さんにとって、「空間」という言葉は馴染み深いと思いますが、今回扱う空間は数学の言葉*1で、いわゆる3次元空間をイメージしてもらっても差し支えないです。

今回は、Grasshopperモデリングで空間の知識を応用する方法を紹介しようと思います。

宇宙と地球からNURBS曲面を見る

NURBS曲面を宇宙的にとらえてみましょう。
地球の地表面は宇宙から丸く見えますが、地球からは平らに見えますよね*2。ざっくりそういったものをイメージしてください。
CADの3次元空間を考えます。ここにある対象のNURBS曲面が地球で、3次元空間そのものが宇宙です。

次に、丸みについて考えます。
テーブルの上に置かれた紙を丸めようと思うと、紙をテーブルから離す必要がありますよね。紙の丸みは、紙本来の平面性からは見えず、紙を丸める人がいてこそ見えるものです。
つまり、地表面の丸みは宇宙からしか見えません。

CADで曲面を考えるとき、それを3次元か2次元とするかは、それぞれ宇宙か地球のどちらから見るかによります。
宇宙をXYZ空間と表現するとき*3、地球から見た地表面をUV空間と表現します*4。UV空間は2次元なので丸みはありません。

宇宙と地球

地球と火星を比べる

地球と火星は異なる天体ですが、ほとんど同じような形(球面)をしています。

これらは、任意の球面からぼこぼこと変形されたもので、変形前の球面は同一のものと考えることができます。変形前の球面(とその上に描かれたグリッド)をUV空間と考えてください。

UV空間でのひとつの移動を、地球と火星で表現できます(UV空間⇔地球、UV空間⇔火星)。
このことを別視点からとらえると、UV空間を介して、地球でのひとつの移動を火星で表現できます(地球⇔UV空間⇔火星)。これを曲面間の変換と呼びます。

UV空間を介した地球と火星の関係

曲面から曲面へモデリングする

では、Grasshopperを使って確かめます。

以下の図のように、曲面を並べられた円柱で切り抜きます。この曲面形状は、ひとつのUV空間を持つNURBS曲面に対して、切り抜き形状を曲線で持っています。
場所によってさまざまな傾斜で円柱と交差しているので、切り抜き形状は様々な形状を持っており、それがどんな形状をしているのかを1枚の紙で確認できるデータを作成します。

曲面上の情報を別の曲面に移す

Grasshopperアルゴリズムを確認しましょう。
読み込みのNURBS曲面と同じくらい(XYZ空間での形状)の大きさの曲面を作り、それぞれの曲面をSourceとTargetとします。Sourceのトリム情報(切り抜き形状)をCopy TrimでTargetに移します。これは曲面間の変換にあたります。
このとき、SourceとTargetの形状は大体同じくらいであり、切り抜き形状はそれぞれ異なることに注意しましょう。

Grasshopperアルゴリズム(上下ともに同じ)

GrasshopperのNURBSモデリングで宇宙を感じることができました。嬉しいですね。

UV空間を利用した処理は他にも考えられます。以下のコンポーネントは、その扱いにおいて便利なコンポーネントです。

  • Map To Surface
  • Closest Point On Surface
  • Evaluate Surface
  • Surface Morph
  • Sporph

また、似たような処理としてUnrollなどがあります。この処理では、先ほどの「同じくらい」を「ほぼ同じ」くらいにして、同様の曲面間の変換が施されていると思われます。

興味のある方はUnrollを自前で作ってみてください!(ぜひコメントなどでシェアしてください!)

実例で考える

実際の建築に当てはめて考えてみましょう。

EPFL’s Rolex Learning Center
[Bernard Vogel, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons]

Lou Ruvo Center for Brain Health
[Monster4711, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons]

上の写真(EPFLラーニングセンター)は例と同様、一枚のサーフェスに穴をあけたものと考えられそうです。

下の写真(Lou Ruvo Center)は、何枚かの紙のような面を組み合わせて作られていそうです。
このような形は、複数枚のサーフェスを組み合わせたBrepだと考えることができ、以前紹介したBrepを使ったモデリングと組み合わせて考えることができます。NURBS曲面のつながりに合わせて、UV空間を貼り合わせていくイメージです。

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BrepにUnrollを使う時は少し気を付けてください。サーフェスごとにばらばらになってしまい、望んだ展開図が手に入らないことがあります。

おわりに

今回は、NURBS曲面のパラメータ空間について紹介しました。

曲面のモデリングには取っつきにくい印象がありますが、パラメータ空間を使うと扱いやすくなるのでパラメータ空間が好きです。

ヴィックでは、生産設計BIMの仕事において、ときに幾何学的なエッセンスに基づきながら問題解決に取り組んでいます。複雑形状でお困りのことがあれば、ぜひ弊社にご連絡ください!

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*1:位相空間というものを指しています。位相空間 - Wikipedia

*2:地平線には思いを馳せず、自分が立っている周辺だけを見てください。

*3:宇宙から見た地球(の地表面)は、XYZ空間の一部を切り取ったものと解釈します。
別の表現をすると、宇宙のXYZ空間には粒状のもので満たされていて、その一部が地球になります。

*4:このことはおおよそ正しくはありますが、幾何学の議論において少しジャンプがあります。
詳しくは「多様体の基礎」を確認してみてください。

基礎数学5多様体の基礎