vicc blog

株式会社ヴィックの技術ブログです。

ジオメトリエンジニアの複雑形状建築探訪#3 「高雄衛武営国家芸術センター」

高雄衛武営国家芸術センター

こんにちは。Irisです。今回の題材は私が台湾に帰った時に訪れた高雄衛武営国家芸術センターです。この建物の特徴的な曲面形状サーフェスの作り方について考察してみたいと思います。

一、前書き

大木の下で人々が集まり、楽しげに語り合いっています。 台湾や東南アジアに近い国々では、日本と比べて木陰の必要性が高い傾向にあります。 ここ数年の暑い夏では、日本にとっても同様かもしれませんが。 亜熱帯の気候下では、樹木は上に向かって伸びずに水平方向に成長し、木陰を形成します。 これが高雄衛武営国家芸術センターのデザインの考え方でもあります。

国家芸術センターの曲面屋根を幾何学的に考察することは非常に興味深いことです。 まず第一にこの建物は2023年現在、1枚の屋根で構成された世界最大の建造物で、約35,000㎡の屋根は1枚のサーフェスから分割した膨大な数のパネルによって構成されています。

一定の面積の自由曲面を所定のプログラムを満たした平面計画と組み合わせる場合、連続した曲面のUV分布、屋根の開口部、分割方法などを考慮する必要があります。

高雄衛武営国家芸術センター by ArchDaily

National Kaohsiung Center for the Arts / Mecanoo | ArchDaily

二、曲面の作り方

高雄衛武営国家芸術センター-2

このような大規模な曲面を扱う際に何を取っ掛りにすべきかという疑問がまず浮かびました。 私は公開されている図面から、基本設計の発展を考慮しながら目的の曲面を構築するために以下のいくつかの段階を経て最適化を行うことができるのではないかと仮定しました。

私の考え方は:

基準ボリュームの配置

基準ボリュームに基づいたサーフェスの高低をメタボールで仮に作成

メタボール上のポイントに従ってSubDで曲面を再作成

SubD曲面をKangarooで自然な曲面に調整

0. ボリュームプランニング(与条件)

国立芸術文化センターは設計競技で選ばれたデザインに基づいており、基本設計段階で基本的な体積要件が既に決められていました。

  1. 国際的な音楽ホール(2,300席)

  2. 劇場(2,000席)

  3. 中劇場(800から1,000席)

  4. 2つの小劇場(200から500席)

  5. その他関連施設

基準ボリュームの配置

1. メタボール

異なる面積・天井高・容積の劇場配置や外部アクセス経路などによってボリュームの条件が与えられます。 求められるボリュームを守りながら、ボリューム同士の関係をどのようにモデル化するのかを検討するために、私はメタボールを使用して空間の関係・繋がりを構築しました。

2. SubD

メタボールの上のポイントをガイドとしてサブディビジョンサーフェス(SubD)で曲面を作成し、微調整を行いました。

3. Kangaroo

Kangarooの物理演算を使用し、より自然で滑らかな曲面を作成しました。

上記のような検討によって、目的の曲面形状の作成を進めていったのではないかと想像してみました。

もちろん、完璧な作成方法ではありません。現実的には何十回、何百回とモデルを更新し、与条件の変更にも対応しながら作っていったのでしょう。このような曲面形状の作り方を、頭の中で想像したりモデルを作ってみたりするは楽しいですね。

三、現場での予想外の喜び

2018年に竣工し開館したこの建物に、私は2023年に訪れる幸運に恵まれました。 地下鉄の駅から歩いて近づいていくと、建物のボリュームが非常に大きいにも関わらず、設計者による形状の工夫により圧迫感を感じませんでした。 周囲の公園の木々を抜けて、低い屋根の部分から半屋外の通路に入ってみると、夏の高雄での熱さを感じさせない涼しい空間が広がっていました。 更に驚くべきことに、そこでは鳥の鳴き声が絶え間なく響いていました。注意深く見てみると、照明設備や音響設備のメンテナンス用の天井開口部に鳥の巣がつくられ、暮らしていました。

高雄衛武営国家芸術センター-3

建物の施設運用の観点からすると、おそらくこれは非常に厄介な問題でしょう。 しかし、夕暮れになると鳥たちは飛びまわり、鳴き声がドーム状の通路に響き渡ります。 周囲の森から鳥たちが巣穴に戻ってきて、外部空間、人工空間、自然との境界が消失し、まるでジャングルの中に身を置いているように感じました。

建物の目的は人々の生活や社会活動の場を提供することですが、過度な開発が進む現代においては自然との共存の仕方が問題となります。 設備メンテナンス用の天井開口部が鳥たちのコロニーとなるのは、まさに予想外の出来事です。 しかし、この予想外の出来事は、設計者の最初の設計理念と合致しています。 建物の完成から5年の月日が立つことで、時間の経過とともに建物の状態が変化し、偶然にも建築物の設計理念が実現したのです。

高雄衛武営国家芸術センターの工事記事動画:www.youtube.com

今回使用したGHを共有しますので、ぜひ試してみてください。 github.com