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株式会社ヴィックの技術ブログです。

曲面形状座談会#2 曲面のスタディ手法とコストの問題

去る2023/4/12にVICCで行った「曲面形状座談会」の模様を、何回かに分けてお届けします。今回は2回目です。前回の記事はこちら(参加者紹介はこちらをご覧ください)。

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VUILD社内での対話: Architectsとfab

蒔苗: VUILDさんの場合は、形と作り方の両方を自分たちで提案されています。まさにSHoP、ZHAが試みているような、自社内での一気通貫型を目指されているのかなと思います。自社内で全部やってしまう場合の難しさみたいなものは、何か感じられたりしますか。

篠原: そうですね。僕はVUILD ARCHITECTSっていう部署に所属しています。実際の加工製作は、もう一つのVUILD fabっていう、製造部のようなところが担当しています。VUILD ARCHITECTSの方は基本的に建築学科出身者、設計事務所出身の人が多くて、「学ぶ、学び舎」のような形をどうやって製作していけばいいのかっていうのはあんまり分からないから、VUILD fabとの勉強会をしていたのですが、そこでのコミュニケーションが難しかったです。基本的には社内全体で案を出していき、ARCHITECTS側から一旦出した形に対して、fab側からフィードバックをもらって、それを元にしてまた形をARCHITECTS側で直してフィードバックをもらって徐々に擦り合わせていくような。そういうやり取りが大変でした。

石原: 私は、VUILDさんは基本設計のような初期段階から加工の話をされているのかなという先入観を持っていたんです。自社で加工機持ってるから。ただ、学芸大のプロジェクトでは、割とデザインはデザインとして一回やり切ってから加工の相談をされていましたよね。それが印象的でした。

篠原さんスライドより 意匠の検討

石原: 今の話を聞くと、そのような分担を意図的にされているのかなと思いましたが、いかがですか?制約条件を知ってしまうと、それを悪い意味で意識し過ぎてデザインの自由度が下がるから、意図的に初めからはコミュニケーション取らないようにしてるのかな、と勝手に読み取ったのですが。

篠原: どちらかというと、その辺りはリソースの問題が大きいですね。fabの人たちが話し合いに参加し続けると、他案件の製作が間に合わない、プレカットが間に合わないみたいなことが起きてしまう。だからfabが忙しい時には、社内で決めた案に基づいてできるだけ設計部のほうで進めていって、fabに相談をする流れになっていました。

石原: 相談するタイミングの社内常識みたいなものはありますか?

篠原: あります。形状を構成するユニットの話になり始めたら、改めて擦り合わせをしようか、みたいな感じです。例えば曲面をどう分割しようか、板の割り付け線をどう引こうか、みたいな段階ですね。

蒔苗: なるほど。先程は、fab段階と設計段階でのやり取りをより頻繁に行うことができるのではないか?というお話をしていたと思います。VUILDさんは、今後もまずはARCHITECTS発で強い形状を提案していくアプローチになるのか、それとも施工要件をどんどん取り入れて形を作るスタイルになるのか、どちらなのでしょうか。両立し得るものですし、分けられるものではないとは思いますが、敢えて言うとすれば…

篠原: そうですね…。そもそも設計を進める時に、デジファブを使った建築プロジェクトのリサーチをたくさんしています。そのリサーチを踏まえて、例えばさっきの「この部品の大きさなら機械の加工範囲に収まりそうだな」みたいな判断をしています。他のプロジェクトでも、建築の一部、1パーツがこれなら作れるな、という判断をリサーチを通してやっています。

蒔苗: なるほど。ARCHITECTS側がかなり勉強して、fabさんの知識みたいなものをがんがん取り入れていって、製作・施工にも理解のあるスーパー設計者になるようなイメージですかね。

篠原: そうです。学芸大のプロジェクトでも、難しい形状に対して、ARCHITECTS側からも「いや、この5軸加工ならできるんじゃないか」みたいにエンドミルの動きを提案して、「それならできそうだね」ということで加工する、ということもありました。

蒔苗: 設計者の立場で、製作機械の動きにまで踏み込んで提案することはなかなかないですよね。

スタディ手法が施工合理化に与える影響:モデリングソフトによっても違う?

蒔苗: 杉原さんに伺いたいんですけれども、アメリカの建築設計者ってどの程度、製作・施工に理解があるんでしょうか。MorphosisやSHoP Architectsなど、割と製作・施工のプロセスに切り込んでいるようなアーキテクトが多いようなイメージがありますが。

杉原: 例えばアトリエの事務所のトップのレベルの人たちは「技術をどんどん取り入れていこう!」と言いますが、彼らが実際に勉強していくことはほぼないです。彼らはみんな自分のアジェンダ、自分が生涯のうちにやっておかなきゃならない建築の達成のために頑張ってる人たちなので。もちろん、その周りにいる人たちの中で、どんどん勉強していく人、施工側の新しい技術と新しいマテリアルを学んで、建築に生かしたい人たちはいます。ただ、そういうことがトップにどうフィードバックされるかというのはオフィスごとにまちまちです。

私の場合一個ラッキーだったのは、Morphosisの場合はトップが結構協力的というか。形はむちゃなんだけど、ここをもうちょっと円筒にしたらすごい安くなるんですけど、っていう提案を割と受け入れてくれるんですよね。多分アトリエ的な事務所でそうじゃない、そういう操作に理解を得づらい事務所はすごくいっぱいあると思います。これが事務所ごとのマインドセットの話ですね。

そしてそれとは別に、使っているツールの特性のせいでやりやすい事務所、やりにくい事務所があります。例えば、Morphosisの場合はマイクロステーションを使っていました。これはソリッドモデラーで、直方体なり立方体なりを切ったりフィレットすることで曲面を作るんです。そういう操作だと、必ず形の中に円筒的な面が残るんですよ。そういった形だと、合理化が比較的やりやすい。

ファール・タワーの形態生成過程(設計:Morphosis )

杉原: ZHAとか、Coop Himmelblauとか、彼らの作品は違うんですよ。ああいった、自由曲面って言ったときにみんなが思い浮かべるような、雲型だったり、複曲面のすごいやつ。そういう形は合理化がやりづらいんです。それは形の作り方として、さっきのフィレットのような、合理化の取っ掛かりがどこにもないからです。

coop-himmelblau.at

杉原: 今回のVUILDさんのは、比較的やりやすいほうです。曲線をロフトしてるのが形から読み取れるでしょ?主軸は曲線だけど、副軸はすごく直線が連なってるんですよ。そして、実はフランク・ゲーリーもこっちなんです。紙や布を丸めてるから、全部Unroll、平面に展開できるんです。それぞれの事務所で使ってるプロセスに対して、合理化のやりやすさが強く依存している面がありますね。

(編注: こちらの議論についてはArchifutureの杉原さんのコラムが詳しい)

蒔苗: 伊東豊雄事務所は、比較的自由曲面的、クラウド的な曲面を使っているように思うんですけども、いかがでしょうか。作成にはRhinoをつかっていますか。

林: Rhinoですね。ただ、伊東事務所では、例えば壁と屋根が連続的につながったような形はあまりつくらない。「平面と立面を同時に曲面にはしない」みたいな、明確に決まってたわけではないですけど、何となく好みとしてそういうのがありました。台中はちょっと違いますが。平面を変形させることでできるものっていう要素が多分、作る上での取っ掛かりになってるんですよね。

あと特に日本の設計事務所の場合は、まず模型でスタディをするところがあると思います。そうすると、ゲーリーの事務所と同様に、模型の素材が持っている性質が建築に現れることがあるのかなと。最近は変わってきているかもしれませんが。

蒔苗: ここまでのお話でちょっと面白かったのが、いわゆる模型スタディをする事務所と、コンピュータ上で形を作る事務所、その二つで違いがあるのかなと思ったら、使うモデリングソフトでも違いがあるという感じなんですね。ゲーリー事務所・伊東豊雄事務所では模型っぽい成分が残っていて、Morphosisもソリッドモデラーの癖のようなものが残っている。それはほんとの自由曲面とはちょっと違ったものだと。VUILDさんはRhinoを主に使っていますか?

篠原: そうですね、Rhinocerosが主です。VUILDでは基本的に模型を作ることはほとんどありません。やるとしても、たまに3Dプリントで一部、試してみるか、ちゃんとパネルが収まるか試してみようかぐらいです。そういった中で作りやすい要素が見えたのは、XY軸を重要視してるからなのかなと思いました。最終的に大梁を通して渡しておきたい、大梁は通り芯に載っけておきたい、みたいなことを重視していたからかもしれません。

蒔苗: それは施工の要素がモデリング・スタディの中に取り込まれていると言えるのかもしれませんね。

コストの問題:製作・リスク・コミュニケーション

蒔苗: もう一点、まだ議論されてないトピックについて触れようと思います。基本的に、杉原さん、石原さん、押山さんは「オールドスタイルの工場で可能な形状を作る」という前提でお仕事をされているように思われます。例えば先程の杉原さんのお話では、昔ながらのプレス機・金属板を切る機械を使って、どうやってリーズナブルに形を作るのかを考えられた結果がエマーソン・カレッジのファサードなわけですよね。それによってコストが抑えられることになる。

対してVUILDさんは自前で高度な加工機を持っている。自前で自由に加工できるので、多品種少量生産になるコストは余り大きく感じられていないのでは?とか、コストを抑えるために部品種別を少なくしたり、形状を整えることには余り重きを置かなくていいのでは?と思えます。

石原: 学芸大のプロジェクトの補助をした立場からすると、そうでもないんじゃないかと思います。プロジェクトの中で、管理のために似ている部分をまとめよう、みたいな話が出ていた記憶もあります。ただ、設計・施工で最後まで責任を持つのが自社なので、多品種になるコストにあまりおびえていないように感じられました

設計と施工が明確に分かれている普通のプロジェクトだと、基本的にほとんどの部分を規格化されたものにして、ごく一部を役物にしたい、ということになりがちです。その場合、役物が増えちゃう、多品種になってしまうのは、設計や施工で抑えが効かなくなったときや管理が上手くいっていないとき、つまり何らかの失敗を意味する場合が多い。

篠原さんスライドより 部品の製造管理 多くの種類のパーツがあることがわかる

VUILDさんの場合、コストや工期を考慮しつつも、規格化ありきで考えてはいない、というのが大きな違いかなと。あるデザインを実現するときに、パーツを可能な限り規格化するというのではなく、あるラインを下回る所まで役物が減らせたらOK、という感覚だという印象を持ちました。実際のところはどうなんでしょう。

篠原: 加工機でパーツを作るときに一番お金がかかるのは、曲面の形状をエンドミルで滑らかに表現する所です。学芸大の場合はそれをがっつりやってしまいました。でも、できるだけ平面なところを残しておけば、おっしゃる通りあるラインのところまでは大丈夫だろうというふうに考えていましたね。

石原: あと、社内で打ち合わせができるので、コストのフィードバック頻度がすごく高かったと思うんです。普通は、設計が終わって見積もりを出して、見積もりが合わないとVEをしてまた見積もり、という手順を踏みますよね。でもVUILDさんは検討中に、「これはCAMの人と話しましょう」ということが出てきて、次週の打ち合わせで「どのぐらい工数増えますか」っていうのを質問されていました。そして1-2週間後にもう一回打ち合わせして、「すごい工数減りましたね」みたいな。そういうやり取りができるんですね。

設計・施工が分かれてると、「見積書の形式で出してくれ」とか「設計図書の形にしないといけない」とかってなっちゃうので、コミュニケーションコストが全然違ってくる。そこがVUILDさんの違いかなという気がします。

林: 今お話を聞いてて思ったのですが、先日3Dプリンターで、部材の接合部を50個ぐらい作るプロジェクトをやりました。プリントは自分たちでやったんですけど、外注すると多分、自分たちでやる3~4倍のコストがかかる。なぜかというと、3Dプリンターで作ると、もし壊れちゃったり不具合があったら、たとえ一つのパーツであっても作り直さないといけない。つまり、製作側で不具合ややり直しのコストも上乗せして考えないといけないですよね。

自分たちで製作を持ってると、リスクも自分たちの中で考えた上で、お金以外の形で吸収できるわけですけど、外に出すとお金という形でリスクを考えないといけない。そして一点物・一品生産の場合、リスクを正確に見積もることは不可能で、その分お金を多くもらわないといけなくなる。それがコストがかなり膨らんじゃう原因にはなると思うんですね。

杉原: 確かに自社でやるのは理想型ではありますが、自社でやらない、製作業者が外部になる場合は、そのリスクをなんとかして見積もってもらうことが重要になってくるなと。そしてそのためには、設計者側からなるべく情報提供をして、製作・施工者に自信をつけてもらう、こうしたら作れるって思ってもらうことが大事なんだと思います。説明だけだとわからないなら、模型作って持っていって、それでもダメなら、自動化したものを持っていってあげるとか、どんどんやっていくっていうことは今の業態でもできることです。

ファール・タワーのファサードパネル化処理の流れ(建築設計:Morphosis、 ファサード設計:杉原聡)

ファール・タワーのガラスパネル展開図(建築設計:Morphosis、 ファサード設計:杉原聡)

杉原: Morphosisのパリの高層ビルのプロジェクトでも、ゼネコンの入札前に、合理化はしてあるけど難しい窓の形もありそうで、よく分からないから高くなるかもと言われた。それで全ての窓の形状を展開したダイアグラムを作って、合理的なパネルは何枚、複雑な形はここの何枚ですって説明しました。可視化の技術やラピッドプロトタイピングなど、いろんな技術を使って、施工者が不明瞭だな、分かんないなと思っているところをできるだけなくしてあげる。それは現在の体制でも、いろんな事務所がやってることだろうなと思います。

蒔苗: なるほど。そして、そういう説明の労力が先程の「コミュニケーションコスト」だと言えそうですね。

会場からの質問

蒔苗: では、ここからは質問を募集しようと思います。まず、弊社から壁谷さん、いかがでしょうか。

壁谷: 僕もVICCで複雑形状のプロジェクトを担当していて、すごく皆さんの話で共感する部分が多かったです。まず杉原さんに伺いたいのが、先程から出ているパリのタワーのプロジェクトについてです。中止になってしまったと聞いたのですが、施工者としてはどの程度現実味を持って検討されていたんでしょうか。

杉原: あれは入札が終わってゼネコンも決まってたので、実現ができるレベルで止まりました。ほんとに工事が始まって、地面を掘りだしてから止まったので。確かにめちゃくちゃな形ではあったんですが、それはクライアントが、最もプレミアムな凄いものを建てたい、日本でいうところの森ビルさんみたいなお客さんだったからです。そしてファサード部分のコンサルタントとして、ゲーリー・テクノロジーズが入っていました。ゼネコンはそもそも入札してきたのが1社だけだった。ヨーロッパであのビルを建てられるのが1社しかなかったわけです。

壁谷: ありがとうございます。

蒔苗: チャットに質問が来ています。「皆さん、何が、どの部分が楽しくて今の仕事をされてますか」と。今日の締めくくりにふさわしい質問かなと思いますが…

杉原: 今日は主に合理化、建てるための話を中心にしてきましたが、私は設計も含めたコンピューテーショナルデザインをやっています。そこで僕が楽しいのは仕組みをつくること。どちらかというと数理的な形の仕組み、アルゴリズムとかですね。施工関連だと、形を安く作るためのちょっと新しい仕組みだとか。そういうような、仕組み自体をデザインするのが楽しくて僕はやってます。

林: 私にとっては非常に難しい質問ですね。仕事自体が設計者から研究、曲面の施工に関することなど多岐にわたっているので。ただ、根本的にはすごくプリミティブに、新しい建築を造りたいと思っています。その上で、形が複雑なものっていうのは分かりやすい新しさではありますよね。複雑なもの、多様なもののほうが単純なものよりもいい、建物が全部四角くなったらつまんない、ちょっとそれとは違うものを作ってみたいな、ということでやってますね。

石原: いろいろ楽しいことはあるんですけど、個人的に一番達成感があるのは、形状に関してであれ、プロジェクトの運営のような抽象度が高いものであれ、何が支配的なルールなのかっていうのを分析して、一番クリティカルなポイントを見つける瞬間が楽しいですね。

例えばガラスの形状の最適化の場合だと、Rや部材の長さをまとめて、どういう手法で何を見たらいいかを分析します。そしてこれを計算すると最適化がうまくいくんだ、というのを見つける瞬間が楽しい。会議でも、ここで誰の発言を拾ってどういうことを言うと一番うまく回るのかってのを考えて、それがうまくできた時が一番楽しいです。どんなプロジェクトでも仕事でも、いつもそんな決定的なポイントを探してる気がします。

杉原さんとの比較だと、杉原さんはルールを作っていく、割とアクティブな動きですが、僕はどっちかというと受け身で、既にあるものを見つけたい、みたいなところがあります。

押山: 僕はもともと形を作るのが好きで、ザハの作品や車、プロダクトなどの曲面モデリングをすごいやってて、その流れで建築をやっていました。今はどちらかというと、データや幾何学の情報が、建築のプロジェクトやプロセスの中でどういう役割を果たしているのかを調べています。かなり研究っぽい感覚で仕事をしています。なので、建築の闇を見るたびに、どうやったらその闇をうまく解きほぐしていくのかを考えるのが楽しいです。

そして、今3DやBIMと呼ばれるものが、たまたまそういう闇を見せてくれるものなのかなと。今まであまり見えてなかったものが、3Dのデータを使うことになってから、そのやり方おかしいんじゃないか?とか。そういう部分が見えてくるようになってきたのが、面白いなと思います。

篠原: 昔から漠然と図形に対する関心がありました。例えば、あるものがコーヒーカップみたいな形をしているけど、実はドーナツ型と同じ形だ、みたいな。そういう発見、分析をしたいなという思いがあります。最近は5軸CNCと触れる機会がすごく多くて、そこに対する関心も強いです。こういう複雑な形状を実現させるにはどういったエンドミルの動きが必要か、みたいなことを想像しながらものづくりをするのが楽しいと感じています。

蒔苗: ありがとうございます。幾何的な面白さ、物の作り方の仕組み、契約関係など、様々な新しさや困難さが現れてくる。そんな建築における交差点のような所が曲面の設計施工なんじゃないか、と今回のお話を聞いて思いました。そんなところでこの配信を締めたいと思います。ありがとうございました。

一同: ありがとうございました。

 

今回は以上です。ここまではオンラインで公開された議論のまとめをお送りしてきましたが、次回は懇親会で出てきた議論をいくつか抜き出して掲載する予定です。お楽しみに!