今回は鳥取県立美術館の館内を巡りながら話していきます。
参加者
松田浩幸さん:株式会社槇総合計画事務所所属。鳥取県立美術館の設計及び工事監理主担当。
渡辺健児:ヴィック代表。最近はサウナ巡りにハマっている。
松谷一樹:ヴィック所属。最近休日は近くの図書館でのんびり過ごしがち。
有澤雄介:ヴィック所属、東洋大学非常勤講師。休日はデッサンしつつ市営プールに行ってダイエットをしようと目論んでいる(だけ)。
照井悠大:ヴィック所属、昨年ヴィックに加入。最近ブルーピリオドを一気読みした。
渡辺:パースを見ていたからすごい既視感あります。カッコいい。
全部の線と面が完璧に現れてきているんですが、そんな建築ないんですよ。
一階の視線の抜けがどこまでも見えている。左右の抜けも見える。縦方向も抜けている。
動線もとても分かりやすい。 奥の屋根ルーバーまで抜けている。
松田:頑張りました(笑)。
照井:空間の検討はどのように行うのでしょうか?
松田:検討する時は模型や3Dモデルなど同時ですね。 平面や立面を図面で描いていると次第に想像しながら空間のヴォリューム感を把握できるようになるんですよ。
渡辺:脳内3D化能力ですね。
松田:そうそう、でもviccの皆さんもありますよね。
渡辺:確かに我々もずっと3Dを見てるからその能力は多分凄く高いと思うんですよね。なので、やっぱり図面でプランを見るとこれはこう見えてくるだろう、この壁はここで多分アングルの視点で見たときに視線的に当たっちゃうだろう、みたいなとこは比較的かなりの精度を持って理解できていると思います。
これまで多くの建築家の仕事に関わってきましたが、その点で最もコンフリクションがないのが槇建築だと感じています。視線を移動してもすべてのボリュームやオブジェクトが気持ちよく重なっていきます。
松田:そうですね、構成はかなり意識して考えています。
渡辺:別の方向に進むと他のものが見えてきて、常に気持ちの良い距離感を持っている。「抜け」もいつも気持ちの良い位置に出てくる印象です。これは深圳の美術館を訪問した際にも感じたのですが、エントランスに入ったところに変形X字柱があるじゃないですか。あれも単なる丸柱だったら視線移動しても空間体験にそこまでの変化を生まないと思いました。槇建築を体験するといつもそのようなイメージを持ちます。
松田: ありがとうございます。
渡辺:建築によっては視点が定まらないという意味で見る場所が多くて何が言いたいんだろうと感じるものがあるんですけど、槇さんの建築は心地いいんですよ。見えの出方が。 やっぱりこの動線のわかりやすさが感覚的にすぐ分かるっていうのもあるし、それがもちろん視覚的にもちゃんと分かりやすく抜けて見えるっていうのもあると思うんですよ。
松田:そうなんですよね。
渡辺:ここもパッと見ても色んな要素があるじゃないですか。 この内側の空間と中間領域的な空間、外の景色とエスカレーター、右側の展示室といった関係がわかりやすくて同時に綺麗に入ってきていて。
渡辺:それと槇建築は階段がキマるじゃないですか。 階段の端正さにいつも立ち止まって見とれてしまいます。
松田: みんな階段大好きです。階段を納めるのはピカイチですよ、難しいのですが。刀剣博物館の階段なども見てほしいですね。
渡辺:槇事務所のパースを描いてるといつも階段が気持ちよくキマっていつもきちんと適度な存在感を出してるんですよ。
松田:またこの壁柱は外から内へと繋がっていて、見た人が無意識に認識する一つの建築の特徴なんです。3階の展示室の壁面ともが連続しているんですが、ここが広間のゾーンと美術館のプロパーのエリアとを隔てる境界にもなっているんです。壁を設けずに壁柱を使う事で隔たりを感じずに空間を緩やかに分節しています。
渡辺:なるほど。
松田:例えばこの美術館で使っている木でも杉の練り付けパネル、杉の複合フローリング、手すりはタモの集成材、棚はCLT というように様々な種類があるのですが、カラーコントロールをすると意外と違和感がないように見えるんです。
渡辺:そうですよね、針葉樹、広葉樹も入ってる。 CLTも入ってる。
松田:要素、ボキャブラリーを限定しながらデザイン的に工夫をしていくとある程度秩序を持ったものになる。槇事務所はそういう操作が上手な人が比較的多いのだと思います。
渡辺:なるべく要素をシンプルにするというお話がありましたが、シンプルにすると粗が隠せないのでプロポーションが悪いとより顕著に現れてきますよね。
松田:ササラが手すり子とばっちり合ってるのかとか、そういうお話ですね。 本当に細かでテクニカルなお話を積み重ねていくと全体として端正な印象が出てくると思います。 それでは上へ行ってみましょう。
松田:先ほどまではアイレベルからこの場のいろんな空間を見てもらっていましたが、階段やエスカレーターで階を上がる度に視線の変化によって空間の体験がめまぐるしく変わるんですよね。
次は2F展示室です。彫刻の部屋になっていまして、ライトアップしたものよりも自然光の方がより綺麗な陰影が出るということで、ここの窓は彫刻のための開口です。
渡辺:直接光が落ちる時間帯もありますよね。
松田:あります。
でも屋根があるから展示室の床には直接は入らないです。
松谷:室内の暖色系の照明と通路に環境光の青い色が広がっているんですが、僕らがレタッチワークで自然光と室内の光を意識して描き分けているものがリアルに現れていて驚きます。
松田:やはり展示室と展示室の間を明るくするのは大事だという事が今回身に沁みました。 展示室と展示室の間を行き来する動線って一般的に廊下になる場合が多いんです。
渡辺:そうですね。
松田:本当に通過するだけの空間だったりするんですけど、今回は展示室と展示室の間に居場所を作っていくことを意識しました。
渡辺:仰る通りで、閉じられた感覚や細い通路を歩いてる感覚は一切ないです。必ず抜けたところには開口があるから心細さもありません。
松田:大体行った先が暗がりになってたりどん詰まりなのが常じゃないですか。今回そういうのがないように意識しました。
渡辺:この天井のパターンはどのように決まったんですか?
松田:このルーバーの向きは鳥取砂丘の風紋やこの地元の伝統工芸品の倉吉絣(くらよしがすり)っていう旗織りの布があるんですけど、そのかすりの伝統的なパターン を思い起こさせるようなモチーフです。 当初は縦方向に流す想定だったのですが、ひし形を組み合わせて単調にならないようなパターンを探しているうちにこのような動きがあるパターンに辿り着きました。縦使いと横使いで縦横横縦横横っていうルーバーになっていて全部平置きだとのっぺりとするので、凹凸感を感じるような立体的なパターンを模索したという流れです。
渡辺:また絶妙な流し方ですね。
松田:この木のルーバーを見ているときに設備が邪魔だねってあんまり感じないと思うのですがいかがですか?
渡辺:全然設備を感じませんでした。
松田:スプリンクラーや非常照明などの防災機器や放送設備、空調設備など必要な機能は山ほどあるのですが、ルーバー自体や下地鉄骨と設備の調整などを専門業者さんと一緒になって検討して納めました。それと、この辺の壁もペンキ仕上げにしてはとても綺麗にやってもらったんですよね。 職人さんと細かくやり取りしてここはどうしても大事なんだと何度も伝えて何回もやり直してもらいました。 非常に多くの箇所で素晴らしいクラフトマンシップが発揮されています。
以上、内観編の第3回でした。 次回の第4回がラストとなります!どうぞ最後までご期待ください。