今回は鳥取県立美術館を巡る旅第2回目となります。 前回の記事はこちら↓ blog.vicc.jp
参加者
松田浩幸さん:株式会社槇総合計画事務所所属。鳥取県立美術館の設計及び工事監理主担当。
渡辺健児:ヴィック代表。最近はサウナ巡りにハマっている。
松谷一樹:ヴィック所属。最近休日は近くの図書館でのんびり過ごしがち。
有澤雄介:ヴィック所属、東洋大学非常勤講師。休日はデッサンしつつ市営プールに行ってダイエットをしようと目論んでいる(だけ)。
照井悠大:ヴィック所属、昨年ヴィックに加入。最近ブルーピリオドを一気読みした。
松田:槇建築ってなんとなく可愛らしかったりとか親しみやすかったりとかしませんか?緊張感少なくないですか?
渡辺:この建築単体で見るとエッジがとても引立っていて緊張感の方に行くのかなと思っていたんですよ。 実際パースを作ってる時もそうだし写真見てもそう思ったんですけど、やっぱりこの周辺のコンテクストと合わせて見るとなんか優しく感じて。それがなぜなのかちょっと今言葉が見つからないんですけど。 建築全体を通して場所に対する誠実さがあるから形からくる緊張感だけではない別の印象があるのかな。
松谷:それに近しいものを感じています。
写真とかで見ている時に、その建築の偉大さとか優雅さみたいなものを槇事務所の建物に感じるんですが、いざ実際訪れてみるとそれと少し違う周辺と調和した何かが…。
松田:槇事務所って建築単体としての主張をそこまで強く出していなくて、どちらかというと場の印象の方が強くて、例えばSPIRALも広告とかだとファサードをバーンと出していますが、でもスパイラルに行ったことがある人が思い浮かべるのはやっぱりスパイラルの中のカフェとその先のスロープだと思います。
松谷:刀剣博物館なんかもそうですよね。
松田:ですね。ちょっと緊張感あるのはエントランスの自動ドアまでだけで、中に入るとちょっとふわふわっとした照明とかあったりね。
渡辺:ジオメトリーのシャープやディテールの端正さはイコール緊張感ではないんですね。
松田:ディテールなどに対しては緊張感をもたらすような操作をしながらも実はどこかで居心地の良さをずっと追求してるような気がするので、そういったところがもしかしたらアプローチとしてチグハグなのかもしれないですけれど、でも結果的になんかこう緊張感を和らげてるんじゃないかなっていうのは思います。
渡辺:それもう槇さんの人柄そのもののような気がします。
松田:あ、それはそうかもしれないですね。
渡辺:すごい人じゃないですか。なのでこちらとしては勝手に緊張感を持つんですけど、あの隣にふっと座って「いや渡辺さんここはこうでね。」っていう風に語りかけていただいてことがあって、なんかそこでふっとこう…緊張が少し取れるというか。隣に座って大丈夫な人なんだというか。 今お話を聞いていて建築そのものだなと思いました。
松田:スケッチが柔らかいですもんね。
渡辺:柔らかいですね。優しいけど出来上がる建物の端正さはありますよね。
松谷:槇建築と対峙すると自分と向き合わされる感じがして、僕らのダメさが現れてくるのを感じたことがあります(笑)。
松田:そんな禅問答的なものではないですよ(笑)。
柔らかいという点で言えばあの壁面の白色がもっと明るかったら緊張感が更に出ると思います。
渡辺:確かにでもパースの時はもうちょっと白くなかったけ?
松田:オフホワイトっぽい色になってますね。やっぱりそれはここに来て実際現場をやる中で、改めて得た土地柄の印象から、そんなに真っ白ではなくても良いという印象になりました。 当然その汚れやすさとか目立つとかそういうのも加味してですが。
渡辺:やっぱりこれで良かったんでしょうね。
松田:そうですね。
渡辺:現地の風に吹かれないと分からない印象があります。
松田:あと、こっちに来ていただいて分かると思うのですが、東側のファサードの印象と西側の壁面の印象ってだいぶ違うんですよ。
松谷: 僕はこのアングルをしっかり描き切る事は絶対にコンペで大事だと思っていました。
松田:パースで左側に木を入れろって言われたりね(笑)。いや、本当に生えているんですよ。
松谷: 西側でのアクティビティや建築のプロポーションは現地の人達にとってとても重要なんじゃないかなって感覚を持っていました。
松田:そうですよね!多分これ…ヴィックさんからご提案頂いたアングルで、「ああこういう見え方もするね。」と採用したんだと思います。
渡辺:松谷の推しポイントは何だったの?
松谷:東側からの見え方に比べて西側からの面の見え方は多様な美しさがあって、それが立ち位置が変わったり視点が変わるだけで面の見え方重なり方が変わっていくんですよね。 同時に空間の連続性や内外のつながり、アクティビティを伝えられたりする事が出来る、網羅的に様々な要素を見せられるアングルだったんですよ。 そこをどうにか完璧な状態で描ききりたい気持ちが僕の中にあって…凄く大事にしてたアングルでした。正面のアングルより描きたかったんです。
松田:東側は世界中から人が集まってくる受け皿となるエントランスのプラザがあるので人が通過する比較的ハードでドライな空間になっていて、迎え入れるための構えとしての大きい開口になってます。 その中に象徴するアートが見えるっていうのがあり…ある種美術館のお作法かもしれませんけれども、そういった迎え方が東側にはあります。 最初から東側は都市的なゾーンっていうのを考えながら設計をしていました。
一方で西側のはどうかっていうと、壁面は凹凸があって陰影が深くて建物の輪郭がしっかりと見えてくる。これがメインファサードだったとすると入り口がどこか分からなくなってしまいます。 迎え入れる構えもなく迷路性が出てきてしまって足を踏み入れづらいかもしれない。そういう構えはエントランス側東側の空間としては求められないでしょうね。
でも西側で言うと屋外のバーンと開けた芝の空間があったり日陰の軒下があって内部に入るとちょっと子供たちがいるようなゾーンがあったり上に上がると階段から続くような3階の展望テラスがあったり…パズルのように、ジェンガのように積み重なっているのがわかります。 自然豊かで穏やかな林もあったりね。こう見ていくと西側は多様な空間が見えてくる場所になっています。なので陰影が深く軒が深かったり外壁の出入りが多かったりと、ちょっと複雑な構成になっています。
端正っていうお話をした時、槇事務所の建物って比較的建物の姿が出てくるなと感じました。 最近はフラクタルな形態というのか、全体の姿をあえて掴ませないように部分の積み重ねで全体を作っている建物が比較的多いと思うんですけど、この建物は大屋根あるいはその細い柱と水平性というメッセージがはっきりと出てきますね。
渡辺:複雑なヴォリューム構成を柱と屋根で秩序を作っている。
松田:そうなんです。おっしゃるとおり。
この辺だ、松谷さんここでしょここ!パースのアングルと同じ場所。
やらせじゃないでしょうこの木(笑)。
松谷:本当だ!!このアングルはどの高さで撮るかを凄く模索しましたね。 アクティビティをどれだけ見せられるとか視点が上がりすぎちゃうと軒裏が見えないとか…全体のバランス感を模索してました。
松田:描く期間も短かったですもんね。
松谷:このアングル以外はスケッチを頂いてからヴィック側で少し模索してくださいという感じでしたね。
松田:そうですそうです。
松谷:すごい僕夜中に探して「これだ!」ってもう完璧なものが見つかったのでちょっと強く推しました(笑)。
松田:そうですね。「素晴らしいです。」ってお答えしたのを覚えてます。 正面で見るとそんなに感じないんですけどが、やっぱりここぐらいまで近づいてくると屋根のテクスチャーとか非常に強く感じるようになってきますね。
渡辺:そうですね。これ先程のスケールの話じゃないですが、また見えてくるものが変わってきますね。
松田:そうなんですそうなんです。
渡辺:やはり優しい。この優しさは何だろうなと思います。
松田:どこかちょっとファニーですよね。
渡辺: やはりよく言われている槇さんの「寛容さ」なのでしょうかね。ちなみにここのガラスってカーブになっているんですよね?
松田:そう、カーブなんです。やっぱりこの敷地のこの美術館の最大の特徴は大御堂廃寺跡なのですが、大御堂廃寺跡を受け止めるように円弧を設けることで空間に中心性が生まれ、自ずとイベントもこの辺でやりたくなりませんか?
渡辺:これだけ懐が深いとやっぱりここにいてちょっと一休みできる。
松田:そうそう。
渡辺:こうやって振り返った時にやっぱり自然が気持ちよく入ってきますね。 静かですね。
松田:本当にもう都会には戻れないですよ。今まで外で話していましたが中に入って頂くとこれまで言った事が分かると思うので中に入りましょう。
以上、第2回はここまでになります。
次回は館内入って見学しながら引き続き話していきたいと思います。