10月24日に開催された Archi Future 2024 というイベントの 『建設産業から見た建築情報学 -企業と建築情報学会の関わり方と今後の期待-』というセミナーに登壇しました。
Archi Future は、建築建設分野におけるコンピュテーション活用についての講演会やセミナー、展示などが一堂に集まる国内では最大規模のイベントです。
『建設産業から見た建築情報学 -企業と建築情報学会の関わり方と今後の期待-』
このセミナーは建築情報学会が企画し、池田靖史先生(東大)、杉田宗先生(広工大)をホストとして、様々な建設産業にかかわる会社の中の人が建築情報学会の活動について話すという内容でした。
粕谷貴司さん(竹中工務店)、繁戸和幸さん(安井建築設計事務所)、清水将矢さん(梓設計)と、渡辺の4名が登壇し、杉田先生より事前に頂いていた質問に回答しつつ簡単にディスカッションを行いました。
Q1. 建築情報学会のどのような活動に注目していますか?
ヴィックでは、これまでも様々なメンバーが建築情報学会での活動の運営サポートとしての参画も含めて積極的に参加してきました。AIS Week(学会の年次大会)などといったイベントでは、建築学会や情報処理学会ではカバーしきれない学際領域の実務者や研究者と議論や交流ができる場として非常に有意義だと考えています。
また、若いメンバーが多いヴィックとしましては、業界を牽引する方々と一緒に活動する機会もあり、それについても非常に価値のあることだと感じています。
ほかの登壇者の方からは、学生レビューや AIS Fes といった活動などで活動する優秀な学生に驚いている刺激を受けているということや、学会の活動によって様々な情報に触れることができるということが挙げられていました。
Q2. 今後、建築情報学会が担うべき役割は何だと思いますか?
私の方からは、学会の活動として、調査や研究、広報などを進めて知見を体系化していくこと、行政・民間に対して専門的知見でサポートすること、そのような活動を通して職能団体として社会に対して責任を果たしていくということを挙げました。
ほかの登壇者の方からも、社会課題解決への貢献ということが挙げられていました。建築情報学という分野は建築という学問体系の中では歴史が浅い分野ではあります。しかしながら、今後直面するであろう社会的な課題に対して建設産業全体で立ち向かう上では、建築情報学という分野は非常に重要であると改めて感じました。
今回登壇のご依頼を頂き、建築情報学会、そして建築情報学、我々の会社、さらには業界全体まで、一度立ち止まって改めて考えてみる良い機会となりました。登壇を通じて、建築情報学の裾野を広げることに少しでも貢献できていれば嬉しいです。
セミナー4満員!ありがとうございます#ArchiFuture pic.twitter.com/QFE0yXteLS
— So Sugita (@sosugita) 2024年10月24日
気になったセッションと最近の業界の雰囲気
Archi Future では様々な講演会やセミナーが開催されているので、自分が登壇する以外の時間でいくつかのセッションを聴くことが出来ました。その中でも特に気になった2つのセッションを簡単に紹介します。
『デジタルで建設の現場を変革し会社を強くする取り組み』というセッションでは、鳥取のゼネコンの美保テクノス様より、大手ゼネコンを参考にした BIM 導入や、そこでの苦労や失敗、試行錯誤しながら自分たちが本当に嬉しい BIM に向けて取り組んでいる話などが語られていました。
『BIMの理想から現実へ -先進ユーザーによる辛口ディスカッション-』というセッションでは、国内で早くから BIM に取り組んできた会社から有識者が集結し、BIM 活用の現状や課題について ”辛口” で語られました。BIM 推進の資料に書かれている甘い話ではなく、実際に実践をしている現場サイドでの本音を聞きたいというという需要も多かったのか会場は満員でした。
これらのセッションから、数年前から BIM を推進しましょうというのが声高に語られ、各社 BIM の導入やなんらかの実践投入はできたものの、果たしてBIMは業務に貢献しているのかというBIM懐疑論的な現場の空気も感じました。
BIM 推進から本当の意味での BIM 活用へ
2009年のいわゆる BIM 元年から、多くの人が BIM に興味を持ち、そのメリットが語られてきました。実際に BIM を導入することで生産性の向上や品質の改善ができる部分もありますが、ソフトウェアベンダーのセールストークや BIM を推進する立場から発信する情報では、導入コスト(ソフトウェアの費用だけでなく、学習や悪戦苦闘して習熟するための時間)やなんらかの障壁によって実務上十分に BIM の力が発揮できなかったシーンにスポットライトが当たることはありません。
私たちは BIM の意義を心底感じている一方で、魔法の杖や銀の弾丸のように紹介されることに、不安や困惑を感じることもあります。実務には失敗や思わぬ誤算もあり得ます。
建築・建設業界全体として、未知の新技術として推進するフェーズから、「実務上の本当の意味で活用できているか」というシビアな問いが BIM に対して発せられるようになったというのが今年の Archi Future で得た肌感覚です。これは健全な進歩であるとともに、私たちのサービス内容もオモシロ新技術の紹介ではなく業務への貢献が問われているということで、襟を正して仕事に臨もうと思える機会になりました。
このような機会を作ってくださった主催者や運営の皆様に感謝を申し上げるとともに、来年の Archi Future にも期待したいと思います(また呼んでもらえるでしょうか)。(終)