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株式会社ヴィックの技術ブログです。

建築パース雑談会、日建スペースデザインのビジュアルチームの皆さんと#2

建築パース雑談会、日建スペースデザインさんの第2回です。今回は新人研修の内容や、パース表現の違いについてあれこれ伺いました。前回の記事はこちら:

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登場人物

日建スペースデザインさんから:
石井雄太さん: デジタルデザインチーム所属、テクニカルマネージャー。アトリエ系設計事務所、ベンチャー企業を経て現職。静止画、アニメーション、実写動画などビジュアル全般が守備範囲。釣りオタ。

齊田悟之さん: デジタルデザインチーム所属。ビジュアル全般担当。9年目。ガジェオタ。

横田芙実子さん: デジタルデザインチーム所属。ビジュアル全般担当。2年目。Youtubeオタ。


シンテグレート・ヴィックから:

渡辺: シンテグレート・ヴィックの代表。ソーセージ作りがマイブーム。

松谷: ヴィックスタッフ。前職もCGパース製作会社。東洋大学非常勤講師。最近は梨とブドウをよく食べる。

有澤: ヴィックスタッフ。新卒でヴィックに就職、現在6年目。リングフィットを始めて1か月目。

蒔苗: シンテグレートスタッフ、ブログ編集担当。元アトリエ系設計事務所勤務。今更進撃の巨人にはまっている。

新人研修

石井: 新人研修も行っています。会社に新人デザイナーが入ってくると、半年ほど僕らのチームで研修をするんです。

一同: へえー。

蒔苗: どんな狙いをもってやっているんですか?

石井: 一つはデジタルツールに強くなるため。もう一つは研修が終わった後に、僕らのチームとの連携を良くするためです。

一同: あー、なるほど。

石井: 僕らのやっていることを理解しないまま仕事をすると、意図せず無理難題を言ってしまうこともあるし、コミュニケーションでのロスも生まれます。アウトプットのクオリティを高くするためにはお互いのことを良く知らないといけないと考えて、半年ほど僕の隣で研修を受けて頂いています。

蒔苗: 割と最近導入された仕組みですか?

石井: 5年前くらいですかね。モデリングができる若い世代が入ってきてから始まりました。

蒔苗: やっぱり多少共通言語のようなものがないと、厳しいところはありますよね。

研修資料の一部

研修資料の一部

石井: これが新人研修用の資料です。結構量が膨大(150Pほど)で… ビジュアライズの考え方、我々の立ち位置や社内環境の話から、データマネジメント、カメラ知識、ライティング、レンダリングのノウハウまで、すべてを網羅しています。

蒔苗: 聞きたいことだいたい入っていそうだなぁ。

松谷: そんな気がしますねぇ。

蒔苗: この資料もらって終わりにしましょうか?(笑)

一同: (笑)

世界レベルの建築ビジュアル

石井: まず、トレーニングを始める前に僕らがやっている世界のレベルをまず知ってもらうところから入っていきます。皆さんも知っているMirとかBrick Visualなどの仕事を見てもらいつつ、インスタのおすすめアカウントも紹介しています。

ソフトウェアの初期設定

石井: あとはソフトウェアの初期設定など細かいところも…

有澤: わー、大変ですねこの資料作るの! 

石井: どうせ毎年やるんだったら作っておこうかってみんなで手分けして、必死だったよね。

齊田: 必死でした(笑)

蒔苗: 業務とは並行して?

齊田: そうですね。

一同: うわぁ…

石井: でもこれ作ったおかげで今は楽です。これに沿ってやってもらえばいいので。

齊田: 質問の大部分はこれを見てもらっています。

石井: 一回教えたところでいつか忘れてしまうので、忘れないためのものとして。

蒔苗: 資料になってると見返せますもんね。

カメラの設定

石井: この辺ではソファの作り方やカメラの概論、F値、シャッタースピードなどの明るくなる仕組み、基本的な構図のとり方などを教えています。そのあとは光の考え方。自分たちが主に描く、事務所や宿泊施設の照度がどれくらいになっているかを学んでもらう。ただ単にカッコいいものを作ろうとするんじゃなくて、理屈を理解した上で作ろうね、と若いデザイナーに教えています。

渡辺: 理屈の理解が進むことで、彼らのデザインのクオリティが上がることもあるんじゃないですか?

石井: 違ってくると思いますね。あと標準化、効率化ということだと、みんなが共通の標準Maxモデルから始めるようにしていますし、レンダリングの設定などもある程度決めています。そのために一度検証もやってみたことがあります。今はV-Ray5になって変わってしまいましたが…

レンダリング設定の精度比較

石井: レンダリング設定の精度が高いものと低いものとで、時間がどれだけ違うかを検証してみました。すると、どれもほぼ変わんないじゃんというのがわかりました。高ければ高いほどクオリティが上がると思っている人がいたので、実験をした上での標準化を試みています。ちゃんと調べれば、どの辺のラインで仕事をすればいいかが分かるものなんですよね。

蒔苗: これをみれば、プラス30分かける意味はないなとわかってもらえますね。

石井: この30分で新しいこと勉強するとか、早く帰って家族と過ごすとか、そういう違いは大きいと思います。

マテリアルの解説

石井: マテリアルの話もしています。例えば、実際の写真をみて何が反射しているのかを理解するとか。パースのクオリティを高くするには、光と反射のことを理解しないといけないです。加えて、一般的にインテリアで使われている素材を知ることも大事です。

レタッチの解説

石井: 僕らのチームの特色として、レタッチが少ないこともありますね。ポストプロダクションでは光の強弱の調整くらいす。あと、なるべくレイヤを増やさないというルールを決めています。なぜかというと、インテリアって修正が多いんですよ。仮に修正が来たときに丁寧にPhotoshopで処理していると、その修正にも膨大な時間が掛かってしまう。だからなるべくレイヤは作らないようにしています。

松谷: なるほど…

石井: 方法論としては写真の現像を参考にしています。写真のポストプロダクションではRAWデータをCamera Raw フィルタを使って現像しますが、それと同じようにレンダリングしたものを生データとしてとらえて、Camera rawをかけて最低限のレタッチをして終わり。これがルールとして共有されています。

蒔苗: 面白いですね、モデルの中で写真を撮っている感覚でしょうか?

石井: そうですね。

松谷: これは僕らとは全然違いますね。

石井: 会社ごとの違いというより、建築とインテリアの違いじゃないかと思います。

有澤: レイヤについてのルールって設けていますか?ヴィックでは名前についてのルールを作っていて、建築の要素をまとめるレイヤ、人レイヤ、空レイヤ等の基本的なレイヤ構成はチームで共有するようにしています。

石井: ルールを設けています。誰が引き継いでもどのレイヤで何が調整されているかわかるようにしていますね。例えば、レイヤーの色分けで人のレイヤーは赤くしたり、光に関してはオレンジにしたりです。あと、レイヤ名は基本的に英語でつけていて、Maxのテンプレートデータにもカメラ、照明のデータに加えてレイヤ名も先に仕込んでおいています。

横田: 海外の人と仕事をした時には中国語で名前が書かれていて、内容がわからなかった経験があります。そういう意味でも統一したほうが良いなと思いました。

 

デザイナーとのコミュニケーション

石井: 次はデザイナーとのやり取りについてです。とあるコンペの時は、Lumionをレンダリングのプラットフォームにして、僕らが3dsMax、デザイナーがsketchupでモデルを作成しました。この外壁など大きなところをデザイナーが、その中の店舗になる部分を僕らがモデリングするという形で協業しました。

設計者との協業

石井: また違うコンペでは、デザイナー5人、デジタルチーム5人が参加しました。時間もない中での大きいコンペで、静止画31枚、加えて動画も要求されていました。そのためデザイナーが一部パースを作るような状況になったのですが、そうなると個々のスキルによってクオリティの差が出てしまいます。

そういった事態に対応できるように、デザイナー向けのエフェクトプリセットを開発していました。まず、自分たちのインテリアならではのLumionエフェクトを絞ってプリセット化し、デザイナー向けのプリセット解説書を作ってデザイナーに共有していました。その結果、デザイナーが一人で作ったビジュアルもかなりクオリティが高くなっています。

蒔苗: さっきの研修もですが、すごくデザイナーさんを教育しているところがありますね。

石井: 社会のニーズに応えるためにはデジタルツールの活用が必要なので、会社としても力を入れているところです。それが僕らのところでの半年間の研修や、技術支援につながっているのかなと。

蒔苗: すごいですね。インハウスってこうあるべきだなという感じがします。ヴィックみたいな独立した会社だと、お客さんを教育することってできないじゃないですか?(笑)

齊田: ヴィックさんの場合、クライアントは設計事務所さんですか?

松谷: そうですね、組織・アトリエどちらもいますが、設計事務所がメインです。なのでここまで密にやりとりするのは難しいかもしれません。

石井: インハウスの場合はすぐ隣で会話ができるので、話が早いですね。

モニターでお互いの作品などを見せ合いながら話を膨らませていきました

モニターでお互いの作品などを見せ合いながら話を膨らませていきました


イラスト、フォトリアルの違い

石井: インテリアと違って、建築の場合、鳥瞰パースとかの違った大変さがありますよね。人の動線づくりとか賑わいづくりとか… 大変なんですよねー(笑)

蒔苗: どちらにも違った大変さがある、両方経験されてそう思いますか?

石井: そう思います。人の流れとか、塊をつくってみせるとか、そういったことって実は難しいんですよね。センスがいるものだと思います。

蒔苗: 確かに、先ほど見せていただいたインテリアパースだと人がたくさんいる状況はないですもんね。当たり前ですが…

渡辺: そのかわり、めちゃくちゃ1人の人を厳選しないといけないですよね。姿勢からなにからなにまで。

石井: その通りです!顔の表情まで重要です。

有澤: 会社内には撮影スタジオとかってあるんですか?点景に使えそうな人がいないなぁと思ったとき、うちの場合はスタッフの写真を撮って使っているのですが…

石井: 今のところないですね。

松谷: じゃあそこは同じなんですね、その辺の会議室で撮ったのを使おう、みたいな(笑)

蒔苗: 折角表現の話が出てきたのでお聞きしたいんですけど。ヴィックでやったパースには、まったくフォトリアルではない、イラストっぽいものがあるんです。インテリアのパースでイラストっぽいものってほぼ見かけないように思うのですが、そもそもそういうものはあるんでしょうか?

石井: ごくたまにあります。ホテルとかそういった用途ではなく、オフィスの場合ですね。それなりに大きい会社さんだと関係部署がいっぱいあって、意見や要望をまとめるためにワークショップをやるんです。その時に、使い方やアクティビティの説明にイラストを使うことがありますね。

交わる未来/イスナデザイン

「イラストっぽいパース」の例(交わる未来/イスナデザイン source: https://isnadesign.com/work/107 )

渡辺: やっぱりアクティビティを説明するのに表現をイラスト的な方に寄せるのには、何らかのメリットがあるってことでしょうか?

石井: ありますね。例えば、デザインまで行かない手前の企画のような段階で、どんなオフィスにしたいか、というふわっとしたイメージをイラストで描くことがあります。この場所はこういう雰囲気、ここでは社員同士が談笑してるとか、ここにはLEDのディスプレイがあって社内のなにかが流れてますよ、みたいなアクティビティをイラスト調で描く、というような。

蒔苗: なるほど。ホテルだと基本機能は固まっていて、機能の配置で起こることが変わる、っていう説明をする必要がないですよね。

石井: そうです。ホテルの場合は、リラックスできる雰囲気や、ある機能の中での体験の質の表現を求められることが多いです。例えばラグジュアリーな雰囲気のスパ、プールがあってそこに座ったら水面にきらきらと景色が映りこんでリッチな感じ、という設計をしたい場合、初めからマテリアルまでわかるようなフォトリアルなパースを作って見せた方が、デザインがスパッと決まるんですよね。

蒔苗: 機能はわかった上で、どういう雰囲気や質を作るのかをお客さんは知りたいですもんね。

マテリアルボードの例

マテリアルボードの例

石井: そして、インテリアの仕事ではこういう「マテリアルボード」というものが絶対、膨大な量で出てきます。お客さんによってはCGとマテリアルボードの色が違うっていう指摘さえ入るんですね。そのくらい忠実な再現が求められるし、逆に言うとお客さんもデザイナーもみんな、こういうマテリアル決めの所に命をかけてるようなところがあります。

渡辺: そういう世界だと、その前の白モデルの構成見せられても困りますよね…。そっち見せられても何も決まらないから、早くフォトリアルなパースの方を見せろってなりますよね。

石井: そうですそうです、この素材が例えばこのソファの張地に使われてますとか、ファーがこのクッションについてるとか、そういうのが入った絵が欲しい!っていう話です。

渡辺: だから、建築の外観パースみたいなものとは、お客さんが見てるところが全然違うってことですよね。

蒔苗: (ヴィックのイラスト調のパースを指さして)あんなんマテリアルなんか何もないですもんね。

渡辺: ないね。なんなら逆にそういうのなるべく消してくれって話だからね。

蒔苗: 白いペイント、ガラス、木?みたいな(笑)


クライアントごとの性質の違い

石井: やっぱりクライアントの性質というか、求められてるものが違うのかな。例えば官公庁とか自治体が発注してる建築って、エンドユーザーは一般市民じゃないですか。そのときに、いきなりこういうのができるんだっていうのをリアルに見せちゃうと、反発があったりとかいろんな意見が出てきちゃう。だから多分、ちょっと濁して出すことが多いと思うんですよね。

渡辺: なるべく判断しない、できないものがいいと。

石井: だと思います。僕も設計事務所にいた時にやった、官公庁とか公的な建物だと、やっぱりそんなにがちがちに作りこまずにちょっと柔らかくしましたし、逆に都心部のオフィスビルなどでしたら、ガラス張りを誇張して表現するとかしました。本当にクライアントや建物の性質によりけりだと思うんですよね。その点、インテリアって柔らかさとかごまかし的な要素とは真逆。ごまかすな!っていう要望が一番大きいと思います。

渡辺: 費用対効果はどうなるのとか、かなりシビアな話ですよね。

石井: そうなんですよ。例えばホテルの客室だと、そのグレード感一つで客室単価が決まってくるので。ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)っていうんですけど、その客室の平均単価がXX円だったとして、その金額に対してそのマテリアルは見合ったものなのか?グレードとして適正なの?という議論が設計の過程でされるんですね。その議論の材料として、パースの中でマテリアルをちゃんと表現しないといけない。これはインテリアのビジュアルならではの難しいところだと思います。

渡辺: ちなみに、公共建築のインテリアって仕事としてやるんですか?

石井: そうですね、例えば学校などはあります。

渡辺: プログラムが違うと表現の仕方を変えることはありますか?学校だから、マテリアルよりはもう少し雰囲気とか賑わいを見せよう、みたいな。

石井: そうですね。初期の段階ではイラスト調にしたりすることもあります。マテリアルが決まりだして、例えばフローリングはこの材料でとか、壁はこういうのですっていう段階になったら、ちゃんとフォトリアルで描くと思います。

雑談会の写真


フォトリアルな中での表現の違い

石井: ただ、テイストは多少変えてます。インテリアのパースで大事なのは影のコントロールだと思うんですが、ラグジュアリーホテルだったら入隅を濃くして、明るいところは明るく、コントラストをつけると雰囲気が出ます。病院だったらそんなにコントラストをきつくせず、白い所は本当に白く見せてあげる。壁や床がギラギラ反射していたり、ドラマチックな光が!みたいな感じにはしません(笑)そういうバランスのとり方をしています。

蒔苗: 確かに、コントラスト強い病院ってちょっと怖いですよね。お化けかな?みたいな(笑)

渡辺: それはフォトリアルの範囲の中で、表現の違いを出しているってことでしょうか。

石井: そうですね。技術的には、Vray上のちょっとした数値の違い、color mappingのDark mulitiplierをいじって影を弱くしてあげる、強くしてあげるっていうことをして調節しています。

齊田: 基本的には印象的になるようにビジュアルをみんな作っているので、コントラストが強めな設定になりがちではありますね。

蒔苗: 個人的には、公共建築でホテルくらいマテリアルコンシャスな設計があった方が、幅があって楽しいだろうなあと思うんですけどね。なかなかそういうことにはならなくて、パースもああいうイラストっぽいやつになる。

有澤: 設計者ってコントラスト嫌いますよね。

渡辺: 嫌うね。でもそれはうちのお客さんが外観の設計者だからかもしれないし、ホテルのインテリアとかをやってないからかも。オフィスとかだとやっぱり明るくしたいような風潮を感じるんですが、いかがですか?

石井: そうですね、オフィスは結構やっぱり明るくっていう要望がありますね。場所によって、カフェやリラックスゾーンはホテルっぽい色味にしよう、というのはありますが、執務室は照度の話があるので明るめに描くことが多いですね。

蒔苗: ヴィックだと、マテリアル感を表現するパースはあんまり描いてなくないですか?

渡辺: 坂さんのホテルの時は、基本設計段階だったけどそこそこマテリアル面を頑張ったよね。一番厳しかったのは三井嶺さんの茶室かな?白黒だから、どういう風に表現しようかって話をしたよ。

茶室 清風庵 Rei Mitsui Architects 2017

茶室 清風庵 Rei Mitsui Architects 2017

蒔苗: 白黒になっちゃうとわからなくなりませんか?マテリアルが…

渡辺: その時は「白黒だからって、マテリアルの感じが犠牲になっちゃいけないでしょ」と話していたよ。実物をカラー写真と白黒写真で撮るのと一緒で、素材感はみんな白黒からリアルなやつを想起するでしょ、と。

蒔苗: 確かに石の艶感とか畳の感触とかは表現されてる感じもしますが…

渡辺: まあ、うちはこういうことくらいです。そこまでマテリアルにこだわる仕事はないよね。こだわってるつもりでも、全然レベルが違う。

蒔苗: 建築の設計者はたぶん、現場監理の段階まで粘って、頑張ってマテリアル決めをやってる。ただそれを石井さんたちレベルのパースにして雰囲気を確認したり、さらにそれを設計にフィードバックできている人はほとんどいないと思います。時間や労力の問題で難しいとは感じますが、こういうことができるのが理想だなと思って羨ましく拝見してます。

今回は以上です。次回はVRと絵の違いについてお話しています。最後に実写動画制作の話も伺います。お楽しみに!