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株式会社ヴィックの技術ブログです。

建築パース雑談会、日建スペースデザインのビジュアルチームの皆さんと#3

建築パース雑談会、日建スペースデザインさんの第3回です。最終回となる今回はVRと絵の違いについて議論し、最後に実写動画制作の話も伺っています。前回の記事はこちら:

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登場人物

日建スペースデザインさんから:

石井雄太さん:デジタルデザインチーム所属、テクニカルマネージャー。アトリエ系設計事務所、ベンチャー企業を経て現職。静止画、アニメーション、実写動画などビジュアル全般が守備範囲。釣りオタ。

齊田悟之さん:デジタルデザインチーム所属。ビジュアル全般担当。9年目。ガジェオタ。

横田芙実子さん:デジタルデザインチーム所属。ビジュアル全般担当。2年目。Youtubeオタ。

シンテグレート・ヴィックから:

渡辺: シンテグレート・ヴィックの代表。ソーセージ作りがマイブーム。

松谷: ヴィックスタッフ。前職もCGパース製作会社。東洋大学非常勤講師。最近は梨とブドウをよく食べる。

有澤: ヴィックスタッフ。新卒でヴィックに就職、現在6年目。リングフィットを始めて1か月目。

蒔苗: シンテグレートスタッフ、ブログ編集担当。元アトリエ系設計事務所勤務。今更進撃の巨人にはまっている。

VRと静止画との違い

渡辺: ちょっと話は変わりますけど、皆さんの中でVRってどういう風な位置づけになってるんですか?というのは、VRって最もリアルというか、その場にいる体験ができるものだと思うんですよ。だからホテルのような、空間の雰囲気の表現が求められているところでは活用できるのかなと。

石井: ホテルの場合だと、デザインを決めるときにVRを使ったことはないですね。施工段階ではありますが。その時はルーバーの本数がVEで減ったときの見え方確認にに使いました。

渡辺: あー、全く同じような使い方をしたのを思い出しました。ある仕事で、外装ルーバーのデザインを補助していた時です。CGで検討して3パターンほどに絞った後、最後にVRを見せてようやく決まったことがありました。

蒔苗: ほんとにほぼ同じような使い方ですね(笑)

渡辺: でも、最初のプレゼンからそれをやらないのはなんでなのかな?なぜパースはプレゼンで使われて、VRはプレゼンでは使われないのかな?とも思うんですよね。パースは二次元の絵だから、VRみたいな体験的なものと違ってまだ想像の余白が残ってるところがあるのかな、そんな余白がプレゼンではむしろ求められているのかな…とか。2次元のCGパースとVRの線引きはどの辺になるんだろう、と最近考えているんですけど。

石井: 今のところ、VRのハードルが見る側にとってまだ高い気がしています。例えばホテルのデザインの仕事だと、クライアントとのミーティングの参加者は10人とかになってくるんです。そういう場面では、1デバイス1人しか体験できないVRは使いづらいですね。

渡辺: それはハードウェアの使い勝手が今のところよくないから、ってことですね。もし良くなったらどうなるんでしょう?ハードウェアもインターフェースも良くなった時に、CGパースって残るのかな、VRに吸収されちゃうんじゃないかな、と。

石井: しばらくは残るのかなと思います。今の仕事での資料って紙でもPDFでも2次元で出回っていますし、クライアントによってもITの土壌が違ったりもします。お客さんの会社の会長にプレゼンするときにVRゴーグル被ってもらうってのも(笑)、今のところ難しい場合が多いんですよね。時代が進んで家庭にVRが一台ある世の中になったら、もしかしたらCGパースがなくなることもあるかもしれませんね。

高画質VRの体験

高画質VRの体験会で床テクスチャの再現度に驚く弊社代表

渡辺: なるほど…。ただ個人的には、VRに吸収される可能性を感じる一方で、吸収できないような要素もCGパースにはあると思ってます。例えば写真の場合、リアルなものをある枠に納めて表現しているわけですよね?フレーミングするところが独特の良さだったりするのかなと。

蒔苗: このあたり、松谷さんはどう思いますか?というのは、結構松谷さんって静止画が好きで、フレーミングの中でどういう雰囲気をつくるかを常に気にされてると思うんですよ。静止画とVRってどう違うと思いますか?

松谷: どう違うんですかね?(笑)静止画のいいところの一つは、イメージのいいとこどりができることじゃないかと思います。例えば劇的な瞬間や、周囲を見渡した時の風景や人だまり等のいろんな要素、空や雲なんかの変化しやすいイメージとか、全部の一番いいところを凝縮させて一枚の画を作れますよね。そしてそれをある視点で整理した状態で共有することができる。それはVRコンテンツと違うものなんじゃないかなと思ってます。

横田: 今お話聞いてて感じたのは、VRは体験はできるんですけど、写真とかCGって脚色ができると思うんですよね。VRってリアリティはすごくあるんですけど、リアルすぎて逆に「Wow感」がないと思うことがあります。体験を凝縮して脚色して、ピンポイントで伝えられるのが静止画だとすると、そちらのほうが「おーっ」って思いやすいのは何となく理屈は通るかなと。

渡辺: そうですね、VRは見る人に委ねられる部分が大きくて、見たい所で見たいように見る。2Dの画では我々がある程度見方をリードできるのが違いかもしれませんね。昔、手描きが無茶苦茶うまい人にパースのことをいろいろ教わってた時に、「視点をどう誘うか」を聞いて感動したことがあります。何をどこにどう置いて、こういうアングルをとると、こういう風に視点を誘える、みたいなことを教えてもらってびっくりしたんです。そんなこと考えたこともなかったから。

蒔苗: へえー…。

渡辺: 何をどういう風にこっちから見せたいか、ストーリーをこっちで作れるっていうのが、多分画の力なのかなと思う。VRになっちゃうとそれをもう向こうに渡しちゃうからね。

石井: それはおっしゃる通りですね、誘導するって結構大事ですね。僕らもカメラの構図とか、光の当て方とかで、人の視線を誘うきっかけを見つけているところはあります。そこはやっぱり2DとVRの違いでしょうね。

動画制作の話

石井: 最後に動画制作の話をしたいと思います。まずはCGアニメーションのスケジュール感について。

動画制作のスケジュール

石井: 仕事としてはコンペ案件が多いです。静止画が終わってから3日間くらいで制作します。静止画作りながら動画を撮るルート、シーン切り替えを想像してて、静止画の提出が終わった瞬間にLumionにデータ変換します。次の日の午前中に動画変換して、シーン設定して、エフェクト設定を整えて夜レンダリングかけて帰って、次の日の朝編集して終わり!っていうのがよくある仕事の流れですね。

渡辺: すごいスピード感ですね!時間かけりゃいいものができるってわけじゃないですからね。にしてもすごいなあ。

石井: 動画に合わせるBGMは、PremiumBeatで購入したり、GARAGEYOKOTABANDさんの楽曲を使わせて頂いています。GARAGEYOKOTABANDさんはWebデザイナーさんですが、iPhoneで作曲されているクリエイターさんです。映像に関しては物件の用途によって目指す映像が異なるので、YoutubeやVimeo、Instagramなどで類似用途の映像を参考にしたりしています。

実写動画の試み

石井: CGアニメーションに加えて、3年くらい前から実写動画の撮影もしています。

蒔苗: それはどういうことですか?実写…?

石井: 会社の物件が竣工するときに、その竣工動画を撮影しています。

蒔苗: ああ、なるほど!

石井: 用途としては自社のPRや、海外のアワードへの応募が主ですね。

蒔苗: じゃあ「こういう空間を作っています」というのを、同じ設計者向けにアピールするのが目的なんですかね?

石井: もちろんそれもありますが、それだけでなく「体験をどう伝えるか」を大事にしています。例えばインテリアのデザインを伝えるだけだったら、内部を広角のカメラでずっと見せていくだけになります。でも僕らの場合は、ホテル系であればエモいとか映えるとか、一般のお客さんがホテルに行きたくなる映像を意識しています。デザイナーのデザインを見せつつ、ホテル側のPRもする。その両方のバランスを狙っています。

蒔苗: すごいですね。デザイナーさんみんな自分の担当物件を撮ってほしくなりそう。

石井: やはり動画になるのは励みになるようで、デザイナーの隠れた目標にもなってきてるみたいです(笑)

蒔苗: いわゆる設計事務所だと、竣工写真は写真家さんに任せる、動画は外部のプロダクションに任せるのが普通だと思います。内部でそういうプロダクションができる体制があるのが面白いというか、それが一番やった側が言いたいことを表現できそうだなと感じます。

渡辺: 社内でやりだしたのはそういう理由からですか?

石井: それも理由のひとつですが、動画は費用が高いというところも大きいです。建築とインテリアではコスト感も違いますし、インハウスで撮れるコストメリットは大きいと思います。インハウス動画って巷ではよく聞きますが、建築業界でまだあまり流行っていない感じがしますね。

蒔苗: なるほどー。

石井: そして、始まりは実は会社の送別会で(笑)カメラを使ってクオリティの高い送別ムービーをつくったら、それがすごいと評判になって。その後とあるデザイナーから、「動きのあるデザインをつくったんだけど竣工写真だけじゃ伝わらない、動画を作ってもらえないか」と依頼を受けたのが発端です。

蒔苗: 新しい仕事が生まれる瞬間ですね(笑)

石井: その動画も好評だったので、他のデザイナーも撮りたい撮りたいとなっていって。今は毎年5、6本くらいになっています。

実写動画の制作スケジュール

石井: 実写動画の場合も撮影が1-2日、ショート動画だと0.5-1日くらいで、編集に1-2日くらいですね。クライアントによっては撮影前にストーリーボードを求められることもあります。

動画のストーリーボードの一例

動画のストーリーボードの一例

蒔苗: それは絵コンテ的な?

石井: 絵コンテというか、どういうことを伝えたいのかみたいなことですね。例えばバルミューダさんの店舗(バルミューダ ザ・ストア青山)の動画を撮るときに提示したものがこれ(上の画像)です。生活家電にはスイッチがあってON/OFFがあることから、「家電は人々の生活やモードをSWITCHする魔法です」というテーマにしました。最初は空間を自然光でニュートラルに見せていくんですけど、バルミューダさんの家電のスイッチを入れると、人工光でライティングされた空間を見せていきます、という流れにしました。

youtu.be

石井: 実は、こういう実写動画を制作する経験はCGアニメーションの作成にすごく活きています。実写動画ってもうできてる、実際にあるものを撮るので、色々な気づきがあるんです。

(0:55-などで、視点が動いている映像を見ながら)

石井: 例えば、このシーンって実は60cmの幅でしかカメラが動いてないんですよ。それでもシーンとしては十分です。むしろ余計な大きい動きをすると、ちょっと稚拙でアグレッシブになりすぎちゃう。

蒔苗: CG使いたての学生の時とか、はちゃめちゃに建物中走り回るようなウォークスルーアニメーションつくるのってあるあるだと思うんですけど(笑)でも現実の建物を撮ったものでそんな動画はないですよね。

スライダーにカメラをのせて動かしている様子

スライダーにカメラをのせて動かしている様子(石井さん)

渡辺: いまだにそういうことをやれっていう設計者、ごくたまにいるけどね…(笑)

石井: (笑)他にもこんなにシーン数いらないじゃんとか、この辺は広角で撮ればいいやとか、ボケの効いたレンズで撮ろうとか、いろんな気づきがあります。それを踏まえてCGアニメーションに行くと、作業の無駄がなくなるし、よりそれっぽい動画を作れるようになるんですよね。

実写動画撮影のCG上でのアングルチェック

石井: 撮り始めた最初の方は、やっぱり試行錯誤しながらやっていました。この画像の例だと実際にモデルがあったので、Lumionで同じようなアングルで検証してみたんですね。それで取りたいものや流れは確認できたんですけど、検証をやりすぎてしまって、事前に考えたものを撮ることに集中してしまった。そのせいで実環境での光や構図を見失ってしまったことがありました。晴れでシミュレーションしてても当日雨で、全然光入ってこないじゃん!みたいな(笑)それが悔しくて、もう詳細な絵コンテや事前検討はしない、その場のいいところを撮ろうっていうスタイルにしました。

渡辺: なるほど…。実環境でやってたことが活きるのって、静止画でも一緒ですよね。例えば建築写真を撮ってた人っていうのはその感覚があるから。

石井: ありますあります、やっぱりレンズの感覚とか、そういったところは役に立つ。

イメージ制作で大切にしていること

イメージ制作で大切にしていること

石井: やはりそういう意味でも、実際に見るのはすごく大事だなと思っています。例えば天井をCGでこんなにしたら暗いじゃんって言われるんだけど、現実でもこんなに暗いでしょ、みたいな。そういう実際を見て写真を残したりとか、自分の引き出しを作ることがすごく大事なんです。実際行ってみて、心地よかったとか、朝起きた時の光の入り具合が気持ちいいなとか、そんな実体験をCGで表現しないと、あまり説得力も生まれないし感動させられないなと思います。

自然光を最大限に、人口光を最小限に

石井: 僕らの共通のテクニックのようなものとして、まず自然光を最大限に使うことがあります。例えば日差しが入ってくるなら、それを一番気持ちいいと感じられる表現をして、それを損なわないように人工光を落とす。北側だったら北側なりの自然光を表現して、暗すぎるなら人工光で補完することを考えます。自然光をフルに活用するのは、僕らが一番こだわってるところですね。

人工光を最小限に

石井: そして人工光は最小限にします。本当はインテリアでの照明っていっぱい入ってるんですけど、その位置に全部入れると明るくなりすぎちゃうんですよね。だから、光を効果的なところだけにちゃんと当てることを考えます。例えば上の画像で、右手奥のカウンターの面発光が床に映り込んでいるところがありますよね。この状況で床にダウンライトが当たっていると、せっかくの印象的な床への映り込みがほとんど消えちゃうんですよ。

渡辺: それは設計とはあえて違うことをやってるってことですか?本当はここにダウンライト入ってるけど、表現はしない、みたいな。

石井: そうです。そもそも竣工物件の撮影で全部の照明を入れると、全然かっこよくないことがあるんですよ。そして実際に建物が使われているときも、照明を弱く調光してたりします。そんな経験を踏まえて、照明の調光具合は僕らの方である程度調整しています。パース作成の最中にも、「取り付けた照明がすべて使われるとは限らないし、使うとかっこよくなるとも限らないよ」ということは設計者にやんわりと、時にはアウトプットを通して伝えるようにしていますね。

まとめ

蒔苗: 今日のお話をするにあたって社内で事前打ち合わせをしたのですが、その時に一つ「フォトリアルかイラストか」みたいな対立軸があるのかなと話をしていました。そして、どちらを選ぶかは建築の中を描くか外を描くかで分かれるのかなと。でも実際にお話を伺ってみると…

石井: 意外とないんです。インテリアをやっていてもイラストっぽいものを求められることはある。フォトリアルにするかイラストにするかはそんなに明確に線引きはできなくって、お客さんや求める機能によってグラデーショナルに変わるものなんじゃないかと思います。

渡辺: そして特にフォトリアルの場合、実際の体験が根底にあるからこそいろんな振り幅ができて、お客さんへの提案の幅が広がるというお話でしたよね。これは建築の内装外装問わず同じだなと思います。

石井: やっぱりCGでいくら頑張って描いても本物には勝てないっていうのは、実写やってるとよくわかります。実写を見るとモノのディテールの凄さもありますし、何か物が動いたり影がちょっと動いただけで光、影のコントラストが変わるような、光情報の凄まじさを感じます。そんな観察の結果をCGのアニメーションで再現しようとしています。

蒔苗: 実体験や写真からすごい情報量、次の制作へのヒントを得られてるんだっていうのがわかりましたね。

石井: さらに、第1回の冒頭で触れたモーショングラフィックスみたいなものは、実写とCGの中間に位置づけられるような感覚を持っているんです。現実の空間に対して、バーチャルから影響を及ぼせる仕組みじゃないかなと。リアルとバーチャル、その中間を行き来していろんなことができたら楽しいなと思って、いろいろ研究中ですね。

編集後記

久しぶりに同業の方々とお会いしてお話することができてとても楽しい時間になりました。お話する以前は同じ業界にいながらも少し向かう先に違いがあるのでは?と感じていましたが、エモい、映える、Wow感と言われるような感情を動かすビジュアルづくりの視点はまったく変わらないと感じました。

石井さんのおっしゃる通り、ビジュアル制作には、光やカメラ知識、構図など基本的な部分も重要ですし、様々なところに訪れ、その場所を体感することはビジュアルづくりの引き出しになるのでとても重要だと思います。そしてそれを達成するために効率化や、社内での仕組みづくりもとても重要ですし、設計者とのコミニュケーションのとり方など、様々な角度からの少しずつの努力がより良いビジュアルをつくっていくのだと改めて感じる機会でした。

今後さらにVR、ARなど建築の情報を共有するための新しいツールが進化していく中で、建築ビジュアルに求められることも変わっていくと思います。ですが想像したものを伝えたい欲求はなくならないとも思います。僕らとしては僕らのフィルタを通すとより建築ビジュアルを豊かに伝えられる、そんな存在になっていきたいです。そのためにも、感性を磨きながら、テクノロジーをキャッチアップして、クライアントと対話をつづけていこうと思います。今後も建築ビジュアルに関わる方々と対話しながら考えを深めていければと思っています。

ですが今回も話したいことを言葉にうまく出来ずで、、今回のブログの文字起こしをしながら絶望していました。。(笑)また色々な方とお話するためにも喋れるようにならねば、、、日建スペースデザインの皆様、本当にありがとうございました。またぜひこのような会を開いて情報共有できれば嬉しいです。(ヴィック 松谷)

考える有澤、頑張って伝えようとする松谷

考える有澤、頑張って伝えようとする松谷