皆様明けましておめでとうございます。
ヴィック・シンテグレート代表の渡辺です。年頭ですので、昨年の振り返りと今年の展望について、2回に分けて書いてみたいと思います。
事業モデルの整理
昨年の秋頃から、コンサルタントの方に会社経営についてご教授いただいています。
いくつかコンサルティングを受けるに至った理由はありますが、一つ目は会社の規模が大きくなってきたことにあります。この数年で社員も20人を超え、クライアントも増え、プロジェクトの規模も巨大化・複雑化しました。その結果、もはやこれまでのやり方では会社を円滑に運営していくことができないと考えるに至りました。
二つ目の理由は、会社の役割を自覚するようになったことです。若干口幅ったい言い方にはなりますが、日本の建設業界でBIMの推進役として重要な役割を担っていけるポテンシャルが私たちの会社にはあるのではないか、と昨年から考えるようになりました。そのためには、ある程度の会社の規模が必要です。まだまだスケールアップし、社会にBIMの実効性を広めなくてはならないと考えています。
コンサルティングの中で、私たちはこれまで、そしてこれからどのような事業を展開するのかを整理しました。そして下記の5つに集約しました。
- 生産設計BIM
- 複雑形状の生産・施工支援のためのBIM。これまでの「ファサード事業」はだいたいここ
- 設計・施工BIM
- 設計者・施工者対象のBIM。RevitやArchiCADを用いて、設計・施工の生産性を向上する
- ビジュアリゼーション
- 主に建築パースや動画、VR,MRのコンテンツを作る事業。必要に応じて前2つの事業とも連携する
- プレファブBIM
- プレファブメーカーをはじめとする工場生産の建築の設計から生産をサポートするBIM。これまで弊社が培ってきたCATIAなどの製造業系のソフトウエアの知見が活用できそう
- オーナーBIM
- 建築主対象のBIM。BIMを有効活用して建築主の利益を最大化することを目指す
前の3つはすでに私たちの事業として確立されています。後の2つは今後事業としてぜひ育てていきたいと考えている分野です。
それぞれの事業の見通しは次回のブログでお話しするとして、今回は各事業の2022年の総括をしたいと思います。
生産設計BIM
この分野では2年以上にわたる超大型案件がほぼ終了しました。結果、大規模プロジェクトの経験値が格段にあがりました。これまでは1プロジェクトあたり2~3人で対応していましたが、今回のプロジェクトでは最大で10人程度のチームになり、データの管理手法を含めたマネジメントスキルを向上させることができました。複雑形状の生産設計支援を行う会社として、これだけの大型案件を経験できた所は日本では他にないのではないかと思います。
大阪万博のパヴィリオンについてもいくつかご依頼をいただいており、複雑形状についての支援を弊社に依頼していただく流れが出来つつあるように感じます。
設計・施工BIM
こちらもいただいた依頼には滞りなく、順調に対応することができました。
広島スタジアムのプロジェクトではRhinocerosで作成した複雑形状の屋根のモデルと、Revitでモデリングした躯体側の一般的なBIMモデルの統合が求められました。Tooさんのイベント(大成建設福田様登壇時のイベントレポート)でもその途中経過をご紹介しましたが、このプロジェクトでは引き続き施工段階でのBIMをサポートしています。
大手組織設計事務所のBIM導入もサポートさせていただきました。最近の業務ではEIRの読み解きからBEP作成までが導入サポートのスコープに入ってきており、モデリング業務を統括するBIMマネージメントの重要性の認識が高まってきていると実感しています。
また、土木設計の会社と共同で、CATIA導入の有効性の検証も進めています。弊社は日本で唯一CATIAを建設業で使うことのできるコンサルとして、さらなる活用を推進していきます。
ビジュアリゼーション
これまでのプロポーザルの静止画や動画に加えて、Twinmotion、Unreal Engineなどを使った動的コンテンツが増えてきました。坂茂建築設計をはじめとした設計事務所からのビジュアル作成依頼も引き続き多数いただいていますが、そこに加えて都市開発系やゲーム系の仕事も受注することができました。建築設計で培った技術を隣のフィールドにも展開していく流れは今後もっと増えてくるでしょう。
プレファブBIM
諸般の事情で現在ストップしてしまいましたが、プレファブ系の会社に対してCATIAの導入サポートを行いました。製造業用の3DCADであるCATIAは標準化された設計と工場生産に相性が良く、今後業界で更なるプレファブ化が進む際には強力なツールになる可能性があると考えています。
教育・広報
事業とは別に、教育、広報の活動も精力的に行うことができた年だったと思います。
慶応SFCの授業は2年目で対面授業となりました。学生のダイレクトな反応がわかり、オンラインより個人的にはよかったです。加えて、学部学生に向けたオムニバス講義でもお話しました。
九州大学のBeCAT、立命館大学、北海道大学でもお話しする機会をいただき、東京大学ではシンテグレートの石原がレクチャーを行いました。
教育機関以外ではArchiFutureや、JR東日本設計様をはじめとするいくつかの企業でもレクチャーの機会をいただくことができました。会社の名前も業界で認知されるようになってきたということでしょうか。このブログも多くの方に読んでいただいているようで嬉しい限りです。
道半ばのBIM活用
以上のように、2022年にも様々な業務を行い、新たなチャレンジをすることができました。
一方、これらの仕事を通じてわかってきたことがあります。BIM関連のサービスは局所的な活用にとどまることが多く、プロジェクト全体でBIMの効果を享受しているとは言えないものが多いということです。
建築主を含めて設計者、施工者、専門工事会社、製作会社といった関係各社のBIM活用の経験が足りず、従来の仕事のやり方に引っ張られることがまだまだ多いと感じます。BIMの最大のメリットである「全体最適化」には程遠い状況であることは間違いありません。
例えば生産設計BIMの業務では、パラメトリックモデリングやプログラムを活用した(半)自動設計、作成したモデルからの(半)自動情報抽出ができるかどうかが生産性向上の鍵となります。それに対応しない手法でプロジェクトを進めてしまうと、BIMによる省力化の恩恵がほとんど受けられないことになってしまいます。また、施工や製作の現場で必要な情報の整理が足りないことが多く、情報抽出の準備ができないケースも多くあります。
このような事例を少なくするために、私たちの設計・施工・製作への理解をさらに深めること、クライアントの理解を醸成する工夫が必要です。また、これは建築主も含めた日本の建設業界の構造的な問題とも考えています。
次回は会社のPMVVと、今年の各事業の展望について書いてみようと思います。