建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)
日本の有識者、関係団体などで構成される”建築BIM推進会議”は、BIMの活用拡大のため、上記ガイドラインの第2版を2022年3月に発行しました。
我々のようなBIMを専門として扱う会社にとっては、非常に重要な文書です。これを読むことで、現代日本におけるBIMの活用状況と直面している課題を間接的に把握することができるからです。
この記事ではガイドラインを読みながら、海外・日本で行ったBIMプロジェクトでの経験をもとに、考えたことのいくつかをシェアしたいと思います。もし質疑がありましたら歓迎します。
施工段階から「施工BIM」をやる場合
本来、設計BIMと施工BIMを連携する計画を、設計前の段階で立てるのが理想的です。ですが、それが不可能な場合もあります。いずれにせよ状況を十分に考慮した上で、無理のない計画を立てなければいけません。施工の初めから施工BIMをやらなければならない時に、重要なことは何でしょうか?
着工準備の際に計画すべきことはものすごくたくさんあります。そしてそれらの多くは、施工BIMの計画と密接につながっています。BIMコーディネーション計画を立てると、BIMチームが最も忙しいのは着工してすぐだということがわかるでしょう。着工初期にBIMモデル上で検討をしなければならないこともものすごくたくさんあるからです。
BIMチームを作ること自体にも時間がかかりますが、着工初期にBIMモデル上で検討すべきことを十分に考えて計画を立てるべきでしょう。施工BIMをやる必要があるなら、まず初めにBIMマネージャーを決め、彼を施工計画の準備に緊密に関わらせるべきです。
BIM活用の計画
有効にBIMデータを管理・活用するためには、BIM活用計画を作るべきです。その計画は設計者を選定するよりも前、オーナーが事業計画を作る際に、同時に作るべきだと考えます。引用した文章は、それを再確認する内容になっていると言えます。
具体的な計画と条件なしに、複数のチームがそれぞれBIMデータを作ったとしても、非常に限定的な効果しか得られません。得られるのは不必要な混沌だけになるでしょう。発注者は、設計、工事入札、施工の全過程でのBIMデータの条件と作成過程を契約書にまとめ、施工会社の選定にも反映しなければなりません。
また、設計BIMが施工会社に伝達される際は、公開する範囲と責任の所在を明確にしなければなりません。そのため、私たちは設計BIMデータと一緒に「設計BIMマニュアル」を発注者に納めることを勧めています。
(設計BIMマニュアル: 設計BIMデータの作成基準、モデリング範囲、プロセス及び設計BIMモデルの最終状態を整理した文書)
設計施工分離方式での施工技術コンサルティング
上記の文章にはすこし異論があります。 設計段階に、施工会社が施工に関するコンサルティングサービスを提供することはもちろんありえます。
しかし上の文章の末尾には、「設計から施工へのBIM データの受け渡しプロセスの連続性確保を支援することが考えられます」とあります。これはコンサルティングサービスを行った施工会社が、そのまま施工業務を受託する前提になっているように読めます。しかし、設計・施工分離方式において、設計の完了前に工事業務の受託を約束するのは無理があるのではないでしょうか。
コンサルティングサービスを行った施工会社はプロジェクト内容をすでに把握しています。そのため、競合他社よりは有利に入札に参加できるはずです。施工会社に与えられるアドバンテージはその程度が限界ではないかと思います。 また、実際の施工を他の施工会社が行う場合、BIMデータ伝達の連続性確保が不確実になることもあり得るでしょう。
設計施工一貫方式での施工技術コンサルティング
この一節ではかなり理想的なシナリオが示されています。EIRやBIM要件は、プロジェクトの設計者/コンサルタントの選定や、候補となる施工者からの技術提案募集の段階で入札要件に含まれるべきです。入札に参加している施工者が「準備BEP」を作成し提出することを大いに勧めます。
発注者またはそのPMチームは、 最終的な目標を見定めるために、入札参加者からの技術提案を慎重に審査し、それがBIMと融和性の高い内容かどうかを見極める必要があります。
設計・施工一貫契約のプロジェクトであっても、「設計はただの絵に過ぎない」という偏見による社内の設計・施工チーム間の分断や、「BIMとはプロセスである」という理解が足りないがためのワークフローのマネジメント不足、また無関心な経営層による不十分なサポートなどの理由により、全体の工程が体系的に行われず、よくない結果をもたらすことがあります。
そのような場合でも「BIMを使ってプロジェクトを行いました」と彼らが嬉しそうに言うのを今まで何度も見てきましたが…。
竣工BIMモデルの作成
竣工BIMモデルの作成は、施工BIMモデル作成後のプロジェクト終盤に必要となりますが、プロジェクトの初期段階から入念に計画しておかなければなりません。発注者の考えるFM(施設管理)計画をしっかりと把握することは、どうすれば設計BIMモデルが効率的に施工BIMモデル・竣工BIMモデルへと引き継がれていくかを戦略的に考えるために大切です。
竣工BIMモデルはLOD500と定められていますが、これはLOD400の施工BIMモデルから単純にディテールを増やしただけのものではなく、施工BIMモデルの正確性を確認したうえで最適化し、FMに適応するようにしたものなのです。
BIMマネージャーとして思うこと
建設現場では予想できないことが常に起きていて、笑えない状況も少なくないです。BIMマネージャーは上の図で示すような言葉によりストレスを受けたりもします。BIMとはプロセスであり、BIM担当チームによって行われる単独の作業ではありません。プロジェクトチーム全体の前向きな協力があってこそ、より良い成果を上げることができます。
新版ガイドラインを読んでみて、これから数年を通して日本におけるBIMがかなり活性化していく気配を感じました。今回はそのガイドライン本文の膨大な内容のうち、読みながら印象に残った部分をいくつか抜き出して思ったことを書き出してみました。
日本にはすでに優れたBIM関連の参考資料がいくつか存在しています。 このような資料が多くの建設現場におけるBIM計画の立案・実施へと繋がることを祈ります。
翻訳・構成: Kantaro Makanae, Daichi Masuda