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株式会社ヴィックの技術ブログです。

キャリア座談会--SUDARE 丹野さん, GEL 石津さんとvicc渡辺で語る⑥

2023/11/10にvicc社内で座談会を開催しました。
前回までの記事を踏まえて、フリートークです。 長いのですが、リアルな話がいろいろ飛び交ったのでなるべくそのままお届けします。

楽屋トーク

建築の知識をどう得るか

【石原】 丹野さんの「建築が一番学びにくい」という話を聞いた時に、「教える側が言語化しないだけなのでは?」という気もしたんですけど、そんなことはないですか。

【丹野】 それもあるんですけど、各社の中には存在したりするんですよ。

【渡辺】 建築とは何かということをちゃんと体系立てて教えてくれる。

【丹野】 各技術とかフローとかを学ぶものがあるのですが、それって一切外に出てこないんで。

【渡辺】 新入社員教育みたいなところで、その辺は一旦はやるんですか。

【丹野】 やります、それと3年目研修とか、そういうのでやってくんですけど。

【渡辺】 でもそれは座学でしょ。

【丹野】 座学です。あと新入社員で入ってから設計系の人でも、必ず1年は現場に配属されるとかという経験するので。

【渡辺】 それはいいな。

【丹野】 そんなのって外へ出てこないので。じゃあうちの会社の社員1年間現場で預かってくれませんかというとむりなんで。

【石津】 BIMとかそういうものをやって会社に属してて建築の知識ってつくものだと思います?

【渡辺】 さっきの話ですね。だからうちで言うと新卒で入ってくる人というのは、基本的に設計行為ということを社会人レベルでやってない。そうすると、本当にBIMといったって、建築の設計・施工に関わる仕事をしているから、それをどのレベル感で理解しなきゃいけないの?みたいなところというのはまだ答えが我々も見つかっていないんです。

【石津】 私も、国立競技場の時に常駐してましたけれども、建築の知識は全然つかなかったです。目の前のプログラム書くことに手いっぱいで建築の知識がついたとは言い難い。目の前のプログラムをずっと書いてた2年だったんで、私はあんまり建築の知識ついてなくて、その…業務でやってて付かない知識って本当に必要なのかなとか思ったりして。

【渡辺】 それは多分スケールがあまりにもデカすぎますよね。今のプロジェクトは。

【石津】 そうですね、あまりにもデカすぎたかもしれない。

【渡辺】 小さいと多分もう少し全体感がわかる可能性はあると思います。

【石津】 そうなんですね。

【渡辺】 あとソフトウェア開発の仕事はある意味、分断されているとまでは言わないですけど、納まりを知るのとは少し距離がありますよね。

【石津】 そうですね。かなり分断されてます。

【渡辺】 まだ普通にRevitでモデルを作るみたいなことになると、少なくとも建築のジオメトリとか納まりというのはそこから学ぶことはできるかもしれない。

【石津】 たしかに。あれは特殊なプロジェクトすぎて。納まりって言っても、何か全然納まりが分かるようにならなかったと思う。

【渡辺】 例えばゼネコンさんの社内であったら、若いBIMの人が入ってきて小突かれながら覚えていくみたいなことが許されるけど、僕らの会社は外注じゃないですか。それで若い人を送り込んで「お前、何もわかってねえな」と言われると辛いだろうし、会社のブランドみたいなことに関してはいいか?というのがあるなと。

【丹野】 難しいことなんですけども、現時点では、例えばBIMの入力ができるとかRhino Grasshopperができるみたいなことって、客先にとってはまだありがたい技術なんですね。 こっちの優位性があるので、建築の知識なく突っ込んでいっても、他にできることがあるから保たれるのが現状だと思います。お客さん方がこの技術とか知識を身につけてきたら、これは通用しなくなるので。

【石津】 少しも学べなくなっちゃいますよね。どうなるんですかね。 そしたらの新卒でBIMモデルを作るような会社に入ったら即戦力にもなれないし、投入もされないし。

【渡辺】 うんそうですね。ただ、さっき僕がスライドで見せたのは、とはいえモデリングってことだって、高度化していくわけだから、それをゼネコン社内の人たちよりもなるべく早くキャッチアップするというのは必要だと思うんです。 と同時に、こっち側が設計とか施工をもっと理解をしに行きたいわけですが…でもそれがどうやってやるか、問題なんですけどね。

【石津】 結構難しいですね。

【渡辺】 それではさっき丹野さんに質問したのは、どの程度のレベル感で分かっていればいいのってとこ。

【丹野】 対話ができれば十分だと思ってます。基本的に仕事としては。会話できないのは、さすがにまずいかなというのは、単純な話で、向こうから「これやって」って言われた言葉が分からない。

【石津】 それは分かります。質問ができないって状態ですよね。最初は質問が出ないですよね。わからないところが分からない。

【渡辺】 「さすがにいま聞けないな」とか、ありますしね。うん。

【丹野】 レベル感としてそのぐらいからスタートして経験というか、プロジェクトの質にもよりますけど、数をこなしていくと、だんだん何か自分がやってたことが分かってくるタイミングがあると思うんです。そこからは自分で今度提案できるように…という風になれるかな、というのもあくまで僕の経験なので、みんながそうなるかどうか分かんないんですけど。やはりいくつかのプロジェクトをやっていると、「あの時これやったな」って。

【石津】 つながる

【丹野】 ただ、モデルを入力しているだけでも、「あのときこういう納まりだったな」って覚えてくる。

【石津】 なるほど。

【丹野】 そうすると他のプロジェクトで複雑な建物とか、特に。設計者も現場の人もそんなに数やるわけじゃないので、毎回みんな苦労するんです。「初めてこんなことやりました。」

【石津】 具体的に一番知ってるよって。

【丹野】 そういう建物の経験が一番豊富なんですよ。こういうふうにやった事例ありますよって言える。

【石津】 実際のところ、社員さんが今2、3年ぐらいやってて、そういう傾向が見えてきてますか。育ってるなというか、こう勘所が見えてきたな。

【丹野】 まだまだ。今、やっとプロジェクトを任せているスタッフが一人いて、それが終わったら変わるんじゃないかなって思ってますけども、それこそさっきの、配信していないんですけれども、直近の巨大プロジェクトなんかは任せてないんですよ、僕。 まだ最初のプロジェクトだったので、任せる勇気がなかったというんですかね。 それはそんなに何をやったかを理解していないかもしれない。

【石津】 結局、冷や汗をかいた数というか、自分が困った数ですもんね。学ぶときって。上にできる人いると言われて「はーい」ってやってるだけだから、失敗してから学ぶことも結構多そうですね。

【丹野】 今は任せているプロジェクトは正にいま工程に追われていて間に合わないんじゃないかと思うので。

【石津】 その経験がきっといいんですよね。きっと次は活きるんでしょうね。

【丹野】 彼は多分、その工程に間に合わないということが、どのぐらいヤバいかまだ理解してないんですよ。

【石津】 これから理解するんですね。

【丹野】 これから多分理解する。

【石原】 理解した時にどうなるんですかね。

【渡辺】 それでも失敗させられないですよね。工程に間に合わないとなると。

【丹野】 そうですね、ギリギリぎりぎり逃げられるぐらいにはしようと思っているんですけど。

【渡辺】 でも基本リスクをどれだけ事前に察して回避できるかというところが一番経験値が、多分違いが出てくるところだと思っています。

【丹野】 失敗した経験が本当に必要なのかというと分からないですけれど。

リスクマネジメントの話

【石津】 丹野さんはどうだったんですか。過去に失敗したなみたいなのがあるんですか

【丹野】ありますね。

【石津】 それとも、それが活きたなって思いますか。それともそれなくても、上の人がこう手配してくれて、それを回避してくれた方が良かったなって、どっちだと思います?

【丹野】 でも、僕一番「やったな」って思ってるのが。別にそんなにまずいことじゃないんですけど、モックアップを作って、モックアップだけで4~5000万のモックアップだったんですよ。 そのモックアップを作った時に「このモデルのこの形に作って」と言って展開図で出して納品されて付けたら、目地がちょっと曲がっていたんです。これって可展面かどうかというのをちゃんと把握していなかった…というよりかは「そこまでずれないだろう」という甘い考えがあったんですよ。

【渡辺】 「ずれるかも」というようなことは、なんとなくわかっていたんですか?

【丹野】 分かってたんですけど、実際は1000分の1ぐらいしかずれてないんですね。でも、それが18メートルのものだったので、1000分の1でも結構曲がって見えちゃうんですよ。

【石津】 なるほど。

【渡辺】 それは多分データ上で見ててもあんまりわかんない。

【丹野】 そう、ぜんぜん分かんなくて。

【石津】 施工BIMらしいエピソードですね。

【丹野】 そういう失敗があって。「分かってる?」って言われて朝すぐにメーカーに行きましたよ。

【渡辺】 もうその時のビビリようというか、あせりようって多分すごいですよね。

【石津】 いや、本当に実物はそうですよね。「後で変えればいいや」じゃない。

【渡辺】 本当にコンピュータ上だけで終わっているとおもってる怖さったらないんですよ。設計の段階ではまだいい。

【石津】 はい。

【渡辺】 図面も直せばいいじゃない。

【石津】 そうですね。

【渡辺】 けど、本当にモックアップはやばいじゃん。

【石津】 やばいっすね。

【丹野】 ただ、その、僕の上司が「モックアップは失敗を見つけるためにやるからいいんだ」って言ってくれて、すごいありがたい言葉でしたね。

【渡辺】 ありがたい言葉ですね。

【石津】 その時点でもう飛びたくなっちゃいますね。何か。

【渡辺】 うちは現物ができて、現場で見つかったこととかあったっけ。

【石原】 なくはないんですけど、なんかだいたい「まあ、しょうがないよね」になるものが多いですけどね。不可抗力だったり、うちの責任じゃなかったりというのが多かったんじゃないですか。モデルで作ってないものとか、表現してないテクスチャーとかが、「思ってたのと違う」みたいなのを後から言われるというのはいつもありますけど。

【渡辺】 そうね。

【石原】 とある物件で、ある日電話がかかってきて、「(ウチのスコープ外の)手すりとぶつかってんだよ」ってすごい勢いで言われて、「手すりなんてあったかな?」と思ったら、誰もモデリングしてないんですよ。で、手すり屋は「いや、手すりは2Dで作成できる形状だから大丈夫だ」ってずっと言ってて、現場はそれぞれ発注して専門工事業者が全部ちゃんと製作図を作って、あとは取り付けるだけで、「なんでぶつかるんだ」ぐらいの感じなんですよね。 どう見てもモデル上、それはぶつかるところにしか計画されてないんですけど、重ねて見ている人が一人もいないんです。 「後から切らなきゃいけなくなったから、何とかしてくれ」って言って2D図をもらってこっちで3Dに起こし直して、重ねて「ここって切ってください」と伝えました。 こっちの非じゃないけど、後から現場で判明して「直してくれ」って言われる例ですね。

【渡辺】 ウチが集団知とかって言っているのってリスク回避の意味が大きい。経験を積むのは集団の方が絶対いい。

【石津】 そんなのを毎回やりたくないですもんね。

【渡辺】 丹野さんも清水建設でほぼほぼ一人でそういうのやってたんですよね。誰もそのリスクがここにあるから気をつけろよなんてことを教えてくれるわけないじゃないですか。

【丹野】 教えてくれないですね。うん、そうです。

【渡辺】 建築としては、リスクのことを教えてくれても、BIMとしてのこととかモデリングみたいな範囲でもみたいなことは教えてくれなかったんだろうか。 ゼネコンさんって、そうはいっても最終的に責任を持つところだから、社内的にできるという良さがまだあるかもしれないですけど、請負、請負のつらさ、つらさ…でも全部最終的に責任取ればいいんだからな。

【石原】 責任を取るから、そのリスク分のコストなりに反映させてるんですよ。

【渡辺】 うちらがもしやっちゃってさ。もちろんうちらのせいだというのが確定しちゃった瞬間、もう会社はすぐ飛ぶと思うんですよ。

【石原】 もし会社を飛ばすようなことだとしたら、それは結構あくどい契約の気がしますけどね。

【石津】 マネージメントを今後何かやっていくみたいな話になった時に、そのそれでも何て言うかリスクマネジメントもするのかしないのかみたいなところとか。

【渡辺】 それも契約によって請ける範囲と責任問題があります。それを確定させるべく契約書というものを今は作ってます。 法律事務所に電話して、BIMの責任範囲みたいなことを一緒に考えてくださいって言っているんですよ。それが契約の仕方とか制度でそういうのを回避するというマネジメントの中で、それで契約したらマネジメントの中でリスクアセスメントというのは、やっぱりこれはもう知見の集合しかない。ただ、さっきの丹野さんの話じゃないですけど、ぎりぎり間違えるところというか。知見をシェアしたって間違える。 そこをちゃんとシェアして学びに変えるというのはなかなか難しいよね。あんまりできてないという認識でしょう、組織としては。それができれば集団はやっぱり強い。 いや、個人の方がすぐダイレクトに次に生かせるからいいのかな?

学びの外部共有

【石津】 いやいや、BIM周りは絶対集団だと思いますけど、集団でやっていくで、それを外に出すか内部で持ってくかみたいなのがありますよね。その集団知みたいなのってある種、自分が傷ついて得られたナレッジだから、それを社内で確立して、社内で保有しておくのか、それともナレッジをオープンにするか。 同じように考えて同じ規模で大きくしようとしてるような会社ってないような気もする。

【渡辺】 そうですね。さっき言い忘れちゃった。ブログはまさにそういう目的があるんだろうなと思っていて、社内だけじゃなくて、社外に失敗まで含めて、「こういうことがよく起こりますよ」みたいなのをシェアしてるんですけど、外部までシェアした方がいいんだろうなと。

【石津】 確かに、それが分かる会社なんだというアピールにもなる。

【渡辺】 そういうのもあるし、こういう仕事にはちゃんとこういう価値があるんだなと理解してもらえるはずだし、ただモデリングをやっている学生と比較されないようになるためにも必要だと思っています。

【石津】 確かに。渡辺さんがおっしゃってましたけど、モデリングしてる学生に仕事を取られるみたいな話って、多分学生そこまで考えてないし、絶対何かしらのエラーが起きるじゃないですか。ブログとかで書いてあって、「そこまで気にしてモデリングしてるのか。」「これを失敗だとちゃんと捉えて仕事に臨んでくれるんだ」みたいなのはすごい差別化されそうですよね。簡単にモデルって素人に頼んじゃいけないんだよという。

【渡辺】 発信しないと、経験を積んでいても、批判されて荒波に晒されていないからダメなんですよ。発信して批判されるならされた方がいいし。それで鍛えられないと本当の胆力には結びつかないと思う。だからブログやってるというのはそういうのもあります。 なるべくメディアに出るって言ってるのも営業とかの目的は当然ありますけど、鍛えられるじゃないですか。

【丹野】 スポーツみたいですね。

アンチとどう付き合うか

【石津】 そうですね。出ると叩かれますから。

【渡辺】 石津さんでも叩かれるんですか。

【石津】 ほとんどの人が言われるだろうコンピューテーショナル系の悪口は全部受けたことあると思います。だから大体パターン化できてるんで。

【渡辺】 胆力がついた。

【石津】 胆力はついたかもしれないですね。最初の時は「なんでそんな酷いことを言うの?」って思ってたんですけど、もうほとんど「そういうことを言う人はこっちのカテゴリー」、「バックグラウンドこれだからそうだよね」って体系化されて、分類できちゃってるんであんまり感じなくなりましたけど。

【石原】 管理可能なタスクなんですね。

【石津】 そう管理可能な。批判されたら、好きにはなれないですけど、でも「このカテゴリーのああ、やっぱりこのバックグラウンドだ」みたいな。

【渡辺】 でも批判されるってことは、やはりそこは仕事のクオリティーの高さがあるからこそ、ちゃんと批判の対象になっているんじゃないですか。

【石原】 そういう水準じゃない批判も多いんじゃないですか。

【石津】 多分、フリーランスで批判されない状態から始めてるので、もう何にも怖くないんですよ。何かを言われるポジションになれたんだというのはありがたい。建築情報学会とかがいろんなことを盛り上げてくれたりとか、Archifutureで発表せてくれて始まった仕事だったりとかで、そういう風にお膳立てしてくれた人のおかげかなと思って、最初は「うっ」てなりましたけど、最近はあんまり感じなくなった。

【渡辺】 石原くん体力につきましたか。

【石原】 いや、全然付かないですよ。僕は腑抜けてますから。胆力って言われても、そんなに苦労をしてない気がするんですけれども。つらい思いはしましたけど、別に胆力が必要なほど難しいこと多分してないし。 皆さんプロジェクトが終わってから「いや、こんなにおっきいやつ私もやったことないんですよねえ」とかって後から言われて、やってる時はあまり気付かない。「大変だなぁ」ぐらいの感じでやってて。

【石津】 一番いいじゃないですか。

【石原】 「僕だけ辛いなんだな」と思ってたら、実は他の担当者が何人かが辞めてたとか。あとから見たら「大変だったんだ、やっぱり」みたいな。

【石津】 つぶれていく人が多いから、何か潰れないためのメンタルみたいなのをすごい考えます。この。つぶれないように頑張ろうみたいな。

【石原】 ちょっとボケてるぐらいじゃないと生きていけないところがありますけどね。

【石津】 真剣に向き合い過ぎちゃうと多分つぶれる。

【丹野】 鈍感力も必要かもしれないです。人のせいにできる。

【石津】 結構難しいですよね、独りでやってるので全部自分のせいになっちゃう。失敗が全部自分に降りかかってきています。その難しさを感じます。ひとのせいにする。

【渡辺】 要件整理とかしてもらえないんじゃないですか。発注側だって、まだ我々と同じぐらいの知識を持つレベルではないから要件定義してもらえない中で、それを人のせいにすると何も進まないので社員には「要件整理しないことには仕事が定まらないんだからこちらから提示して行け」と言っています。

【石原】 そこが旨みがありますけどね。

マネジメント稼業の話

【石原】 モデルプロダクションとか絶対最後にコモディティー化して安く叩かれるので、マネジメントの中で要件定義のところが一番横取りされないというか。

【渡辺】 そここそはやっぱりAIでも難しい。

【石津】 難しいですよね。BIM実行プランみたいな、ああいうのを書ける人って、経験ないと書けない。絵空事になっちゃうから。

【渡辺】 コピペしても何の意味もない。

【石津】 モデリング自体、多分誰でもある程度はできますし、多分誰がやってもいいという状態にして、クオリティをチェックできたりとか、フローを構築できるマネジメントというのは、1,2年じゃできない。何10年と培ってらっしゃるからできる話じゃないですか。

【渡辺】 打ち合わせに出てなんぼみたいながあるじゃないですか。業務の流れつくるとかって。

【石津】 本当に年月だなって。かといって、経験のある人だけやっていくと、ずっと若者が経験を積めないので、そこをどうするかというのもありますね。そういう全体像を見るって経験がないと難しいけど、でも若手が先輩たちに頼りすぎてたら、勝てる人にはならない。できる人がいるからこそ、どう学ぶかみたいなので、意識的にやらないと、「誰かがやってくれるし」となってしまう。

【渡辺】 繰り返しになりますが、本当のマニュアルみたいにすると、マニュアルから外れられなくなる。それはやはり良くない。

【石津】 やっぱり確実に価値は高いですよね。マネジメントですから。

【渡辺】 ただ、いつも日本でよく起こる議論ですけど、マネジメントへの対価というのはなかなか見てくれない。だからBIMマネとか言ってお金なんかもらえない。

【石津】 そうなんですか、本当に?モデラーこそもらえなさそう。

【渡辺】 モデリングのほうがまだちゃんと成果品があるから分かっていいんですよ。データマネジメントやらBIMのマネジメントみたいなところ、全然職能としてまだ理解されていないんですよ。

【石津】 BIMコンサルとかいっぱいいらっしゃるじゃないですか。

【渡辺】 だからあの人たちは結局はモデリング。か、もしくはBEPを代筆します、というのもあるかもしれないけど、プロジェクトに入っていてマネジメントをやります。という人は日本だと本当に少ないと思いますよ。

【石原】 BIMマネジメントって書いてある会社に連絡をとって、よくよく聞くと「Revitのオペレーター派遣です」みたいな。

【石津】 なるほど。そうかお金にならないんですね。びっくりしました。それが一番儲かってると思ってました。

【渡辺】 でもそれは本当にそもそもニーズがないから問題もあって、「マネジメントもやりましょう、だって絶対あった方が全体がうまくまわりますよ」といってもなかなかうまくいかないですよ。

【石原】 名目上モデリングに計上してお金をもらってるのは納品したモデルなんですけど、価値を実際に生んでいるのはマネジメントみたいな歪な状態が多いです。

【石津】 そうなんですね。

【丹野】 現場でも、設計もそうなんですけれども、支払える名目が決まっているんです。だから前例がないからコンサルとかマネジメントという項目で契約が切れないんですね。

【渡辺】 それは認められないですか。そういう名目だと。

【石津】 RhinoGHを大企業むちゃくちゃやり始めてるじゃないですか。私(グラスホッパーとかDynamoやってる人)が言うのもなんですけど、そうじゃなくて、もっとBIMの標準化とかBIMコンサルもつければいいのに思っちゃいますけどね。それに結構、教育費とかついたりするんですよ。なんでBIMやんないんだろって。

【渡辺】 でも、すでにやっているという体裁だから。

【石津】 そうか、もうできているって体だから。

【石原】 やっている人もいるんじゃないですか。

【渡辺】 いるにはいると思います。でも、プロジェクトに呼ばれていって、「マネジメントどうするんですか」と言うとBEPとかないし、マネジメントということで仕事はもらえないし、社内にいるのかなと思ったらいないし。

【石津】 いまだにそうなんですね。

【渡辺】 いまのところまだそうですね。我々が関わっている案件。

【石津】 てっきりそういうのが評価されてマネージメントでお金をいただくみたいな。

【渡辺】 そこをずっと突っ込んでいってるんですけど、なかなか。

【石津】 それも仕事でやられてるのに、そこにフィーが付いてないみたいな。

【石原】 価値の源泉はマネジメントなんだと思いますよ。ただ、その辺を名目上計上できない。お客さんが戻ってくる理由が本当はマネジメントなんだけど、お客さんそうは言わないし、そういう形でお金を払ってくれず、「モデリングをしてほしい」って言われる。でも実際、一番大事なのは情報の整理だったり見極めだったりなんですけど、向こうは「モデルが来た」って喜ぶんですよ。

【石津】 それこそ社内でモデラーができることはいいけど、社内でマネージャー育たないからマネージャーを派遣しますみたいなシナリオはないんですか。

【渡辺】 ところがやっぱり外から入っていって、ゼネコンさんでBIMマネで仕切るというのは相当難しいんですよ。難しいですよね。丹野さん、どう思いますか無理でしょう。

【石津】 外資系でBIMコンサルをやっている友人がいるんですけど、外資からだと逆にいいんですよね。

【渡辺】 いや、それはもっと難しい。日本の企業に外資から来たとか言ったら、もっとはねられますよ。

【石津】 はねられてるんだ。

【渡辺】 やってることが違うのかもしれない。だから我々がいつもやらせてもらう時は、「我々がやります、我々に任せてください」ではなくて、「社内のBIMマネさんと一緒にやります」という風にしないことには実際問題できないし、それで一緒にやって、BIMマネ候補の人がいたら、その人をサポートするので、「BIMマネトレーニングみたいな感じでやりましょうよ」というけど、そんな人すらいないかな。現場が始まったら、現場にいるんですか、本当に?

【丹野】 建前を言いますけど、現実的には何もやってないですね。

【渡辺】 基本的には施工図屋さんが仕切るじゃないですか。

【丹野】 そうですね。図面を書いている工務系の人たち。工務長とかが大体、BIMマネという名目になっているけど、その人がBIMを分かっているかって言ったら、分かっていない。

【石津】 なるほど。

【渡辺】 だからCDEとか言っているけれども、その中できちんとしたBIMのマネジメントというのはまだまだ起こっていない。 ある程度建築業に関わっていてBIMということをやっている人だったら、もしかしたら「理想論はこうだ」というのは言える一定の人たちはいるんだろうなと思うんですよ。だけど現実にそれが起こっているかというと、そこはちょっと現実じゃないところがいっぱいある。

【石津】 Viccさんが関わっているものでもそうなのか。

【渡辺】 もう全然ですよ。

【石原】 我々が発注者になるのが一番なんです。

【石津】 建物を建てるってことですか。

【石原】 要は自社ビルを作っちゃってやるというのが一番理想の体現に近いんです。

【石津】 いやー大変。

【丹野】 僕たちは発注者側につけると思っています。

【石津】 そうですよね。今、ちょっとやろうとしてる。

【渡辺】 さっきの発注者の話が合ったじゃないですか。

【石津】 はい。発注者、建物を持っている方というと、スマートビルディングみたいなのをやるんですよ。そうなるともうBIMモデルがないとこっちで作らなくてはと思っていたんですけど、施工者にBIMモデルを作ってくださいって言える立場になる。「情報を入れてねみたいなマネジメントをこちらでできる流れができるよ」って言われつつ、いろんな人と話さなきゃいけないので私はできないんじゃないかと思いながら、びびりながら後ずさりしてるんですけど。

【渡辺】 要は要件整理ですよね。

【石津】 そうですね要件整理と、誰に協力してもらうかみたいなのを、お客さんも結局、建物を発注している人ってコンサルに投げてるだけだったりするんで。その中身やワークフローも知らないし、それをもっと見える化するというか、「頼んでそのまま全部できました」というのが今までだから。お施主さんは何も知らない状態だから、それを自分が頼んでいるところはどこで、その人たちは何をしてて、そこからどういう風に情報が流れて建築ができているのかみたいなのを多分クリアにしてあげると、「じゃあその時にモデルって本当ははあったじゃん」、「ないって言ってるけどあるはずじゃん。図面ができているわけだから」みたいな。そういう会話になると言ってましたね。そうすると「こんなものを作ってね」みたいなのを上からいけるというか。上流から流していけるからゼネコンさんが言った通りに受け取るとかじゃなくて、BIMモデルを作れるとか、ここのBIMマネジメントができる人をプロジェクトにつけてくださいみたいなのを発注者が依頼できるから良いって言ってました。

【渡辺】 そうなる時代を待って、今マジで胆力で耐え忍んでいるということなんですよ。

【石津】 発注者さんと仲良くなるというのが多分一番近道なのかもしれないですね。

破壊的イノベーションとしての建設業DXの話

【渡辺】 先日、某ゼネコンを訪問したんです。オーナーBIMみたいな話をしていたら、それやられちゃうとゼネコンは困るんだよねということはやっぱり言っていて…

【石津】 どう困るんですかゼネコンは。

【丹野】 日本のゼネコンって丸受けするから利益が上がるんですよ。それをオーナー側から何かを管理されようとした瞬間に、今のゼネコンのビジネスモデルって破綻するんですよ。

【石津】 ええー、ゼネコンってそうだったんだ。

【渡辺】 それこそもう、ある意味全部受けるわけだから、それは大変な話ですけど、でもある意味ブラックボックスにすることもできる部分もできて。あるプロジェクトはめちゃめちゃ儲かっているはずなんですよ。あるプロジェクトは赤字も出すけど。

【石津】 だから(ゼネコンの)DXの人たちってあんなにめちゃくちゃ協力的にしてくれるんだけど、ゼネコンの方だけど、ゼネコンの中でDX本題だから、それをわかってるけれど、破壊しようとしている側だから、多分優しいのかなみたいな。「社内から、立ち位置がDXとか、発注者にBIMを届けるみたいなことをやろうとすると、いろんなことが起きるんだ」って言ってたんですけど。「あ、そうなんですね」といいつつ実はわかってなくて。今分かりました。その立場ってめちゃくちゃ大変な立場なんだなと思って。

【石原】 ゼネコンの開発営業と言う人たちがいるじゃないですか。ああいう人たちをそそのかしたらいけるのかなみたいなのを考えたことがあったんですけど。

【渡辺】 それは事業主側に立つってことでしょ。

【石原】 そういう理屈で中で、かつゼネコンの中だとゼネコンとして事業を持っているし、身内でいろんなことをやるから話が通りやすいんじゃないかなと思ったんですけど、あんまり話が分かってもらえなかったのか、それをやったところで効率化するけど、今手持ちのリソースが使えなくなっちゃうから仕事が減るとか、そういう方向で判断されちゃうんですね。効率化して、そのトータルで会社としての利益は上がるけど、じゃ設計部に出す仕事が減っちゃうよねとか、施工を効率化し過ぎると、施工管理の人達の仕事が減るじゃんみたいなのもあるんですよ。一定の仕事を出し続けないと人を囲っておけないんで。

【渡辺】 BIMの理想を実現すると、やっぱり今の設計の人がやっている仕事、施工の人がやっている仕事みたいな枠組みが変わっちゃうから。そうすると仕事がなくなる人がいる。

【石津】 多分いると思います。

第N次産業革命後の生活

【渡辺】 部分的に儲けが出なくなるという話があるから、やっぱり反対勢力がいるというのはまあそれはリアル。

【石津】 リアルだと思います。特に自動化とか完全にそっちになっている。「人がオペレーター分いらなくなる」みたいなところも言っているので、その話はされます。ただ、何かそんなポチポチやる仕事じゃなくて、もっと多分クリエティブな仕事を人ってしたいと思うんですよ。それに、私がそれを思ってやらないって言ったら自分が仕事できなくなっちゃうんで、もうやるしかないかなというのは感じています。そんなこと言ったら私じゃなかったとしてもAIが変わるだろうし、誰かがやる話で、それを止めるはできないと思うんですよね。 縄文時代みたいに生活できるかといわれても出来ないので。同じレベルの話で、多分家事とか洗濯機とか、そういうのとかで「女の仕事なくなったじゃないか」みたいなことを言うじゃないですか。家の中で仕事ができているとか。もう洗濯機あれば洗濯できちゃうし、お風呂だってすぐ焚けるし、料理だって別にそんなにやんなくてもレンジでチンしたらある程度できるしみたいな。おばあちゃんとかはそれでなんか嫌な思いをするから、二層式洗濯機ずっと使ってますみたいな人もいたりすると。やっぱり便利なものに... 逆はいけないと思ってて。行くとしたらある種、村的な、囲われたその世界観の中で、アーミッシュとかいるじゃないですか。そういう系で、「もうデジタルのテクノロジーを使いません」というある種の思想が確立しない限りは、多分、大衆文化としてはテクノロジーの方に進んじゃうと思うんですよ。

【渡辺】 そうですよね。

【石津】 無理だと思うんですよ。

【渡辺】 パソコンが出てきた時に、そういう議論が結構周りにあったんですよ。90年代。

【石津】 絶対あったと思います。

【渡辺】 これで青焼屋さん無くなっちゃうぞ、みたいな話があって…

【石津】 ワープロを打つ職業とかもあったって聞いてて。ワープロを打つ派遣業の人はみんな、いなくなってる。でも他の職業ができるんですよね。だからそういう単純作業とかって、多分どこかにある。その人達が、(例えばワープロを打てなくなったとして、)パソコンを打つようになった時に、彼らはアイデンティティ喪失しないです。打つ対象が変わっただけで。 でも、専門職の場合って違うじゃないですか。その職業がアイデンティティになっていて。それを突き進もうとしているモードでやっている人たちって勢力として強いから、別に打つ対象がワープロだろうがパソコンだろうが変わりませんと言ってる人たちに勝てないわけないって思うんですよね。だからどんどんテクノロジーって発展するしって思うと、人が雇えなくなっちゃいますというのは何か。

【渡辺】 そのうちそのビジネス自体が駄目になって本当に人が雇えなくなる。

【石津】 良い選択を日本がずっとし続けるとも限らないじゃないですか。製造業で中国とか韓国とかに工場に全部出しちゃってたから、もう向こうの方が良くなっちゃったみたいな、そういうのってあるから。だから果たして建設業が正しい選択をするかというと、とても疑問なところはあるけれども。でも何か変えられない流れみたいなのはあるのかなと思って。

【渡辺】 歴史を見ればもう明らかなんですよね。

【石津】 みんなどんどん高度なやることに変わっていっていて、昔はもっとゆったり過ごしていたっておじいちゃんおばあちゃんは言っていましたし。電気がなければこんな夜中まで働かないじゃないですか。電気ができちゃったからどんどん働いてるし。テクノロジーができて人が働かなくなりますみたいなのは、歴史から見ても明らかにおかしいんですよ。どんどん労働時間も長くなってるし、どんどん学習時間は長くなっていってどんどん受験戦争も激しくなってるし。知的労働ってどんどんどんどん負荷が高くなってるから、AIができたから変わるかもしれないけど、結局あんまり信じられないですよね。歴史から見ると。ろうそくでやっていた時の方が多分みんなそんなに頑張ってなかったしみたいな。そんな頑張ってないというのもあれですけど。そんな情報も得られてなかったら本で終わりですから。「今日、本を借りに行こう」ってその何十分かを優雅に過ごしてたわけじゃないですか。

【渡辺】 ZOOMとかできて移動しなくて楽になるかなと思ったら、より忙しくなっちゃったじゃんさ。情報処理能力が今までの10倍ぐらい脳みそを回さないと追いつかないし。

【石原】 なんなら打ち合わせの間が0秒になりましたからね。地下鉄の中で考え事することが許されなくなりました。打ち合わせの帰りにちょっと整理しようみたいな時間がないです。

【丹野】 次の打ち合わせの前半とか途中のあまり自分に関係なさそうな間にまとめるみたいな。

【渡辺】 スキマ時間ないですよね。もう本当に。

【石津】 どうされてますか。なんかちょっとパンクしませんか。 どういう時にどうやって頭をサラにする時間を作ってますか?

【渡辺】 最近頑張って午前中はアネックスにこもってやるとか。でもあとはやっぱり何だろう。でも何か人が増えても楽になるということも全くないもんね。

【石原】 それは絶対ないですよ、人が増えたらその分仕事が増えますよ。

【石津】 責任と仕事が。

【渡辺】 やることが変わっただけですよ。

【石津】 確かに。楽にはならない。

【渡辺】 ならないんですよね。一人の時の方が楽だったなと。

【石津】 絶対そうだと思います。一人はサボれますから。

【渡辺】 単価が稼げればいいんですけど。

【石津】 いやいや、そういう意味合いじゃなくて(笑)。やっぱり休むって言っても、人がいた方が自分が休んでいる間にやれるじゃないかみたいな思うけど、結構は逆で、人がいるからこそ休めないみたいな状態に絶対なるような気がして。人がいないから「ちょっと今日休もう」みたいな休憩ができるけど、多分部下がいたら絶対そんな...

【渡辺】 結論から言うと、僕はもう休むとか脳みそ休めるというアイデアをもう持っていないです。

【石原】 昼寝ですよ、昼寝。

【渡辺】 昼寝してるよね。えらいよね本当にね。昼寝しようと思ったらなんか誰かから呼ばれるんでできないけど。

【丹野】 僕は割と昼寝してるかもしれない。

【渡辺】 本当ですか!? (一同爆笑)