2023/11/10にvicc社内で座談会を開催しました。
前回までの記事を踏まえて、質疑応答やフリートークです。
長いのですが、リアルな話がいろいろ飛び交ったのでなるべくそのままお届けします。
質疑応答
帰国と開業
【石原】 YouTubeで質問が来ています。 「石津さんは海外で仕事をしようとは思わなかったですか」 渡辺さんも帰国して日本で会社をやってるんですけど、日本を選んだみたいな理由があったりするもんなんでしょうか。
【石津】 海外でもコンピュテーショナルとかデジタルファブリケーションって新しいんですよね。 新しいものを始めようと思った時に、自分の言葉で営業できるじゃないですか、日本だと。
「チャンスをください」って言うのと、取りに行くのが新しい分野の一番の仕事だったりするんですけど、英語が営業できるほど、その当時上手じゃなかったんで、日本に帰ってきたほうが自分にチャンスが来やすいんじゃないかなというのを思ったというところが一番大きいです。
特にコンピュテーショナルデザインって多分やってる人は分かるかもしれないんですけど、すごいコンペティティブなんですよね。 できる人が社内にいれば他の人いらないぐらいな感じなんで、常に10年キャリアの人と戦ったりとか、20年キャリアの人が特に海外にはいるので、そこと戦わなきゃいけない。
日本だったらまだ市場ができ始めてるから、そこで自分の言語で「こんなことできるけどやりませんか」というのを言えたらうまく行くんじゃないかなと思っていました。 まずはプレイヤーとしての経験値を上げたいという、案件たくさんやりたいという気持ちで日本へ帰ってきました。
【石原】 渡辺さんはどうですか。
【渡辺】 似たようなところがあって、2008年に帰ってきたんですけど、やっぱりその時って建築CGはかなり一般化はしていたんですが、やっぱり海外の方が格好いいのを作っていたみたいな、そういう見られ方があって、それは自分が海外でそっちでやっていて、かなり大きな案件をやっていたので、じゃあそれを海外でやっぱやると、コンペティターが多いんで、やっぱりその時に日本に帰ってきてやるということは自分の立場を変えてビジネスには繋がるという思惑があった。あと、僕の場合は日本に帰った段階で30後半だったので、同期の人たちががそこそこ日本の他の会社で予算をちゃんと管理できるような立場に就き始めていたので、そういった意味ではビジネスとしては展開をし易いだろうなというのはありました。
【石原】 はい、ありがとうございました。
知見の共有と建築の知識
【渡辺】 丹野さんに質問なんですが、派遣業の話があったじゃないですか。派遣した場合、社内の横のコミュニケーションとか知見のシェアみたいなのは、どうしているんでしょうか。
【丹野】 厳密に言うと派遣されている時間は、うちの会社の管理監督から外れるので、何も分からない。派遣している時間に関しては、それを漏らしてもいけないというのが原則なんですけど。とはいえ、持って帰ってきた時に(フルの常駐の場合は違うんですけど、)半常駐の時はそうじゃない時間に何をやってるのかをシェアするようにはしています。 今行われている半常駐って結構曖昧で、うちで委託も受けてる業務を半常駐で派遣でもやるというという状況だったりするので、情報としては入ってきてるし、うちでも管理ができてるみたいなことがあって、横のシェアに関しては基本的にうちの場合はSlackかな。Slackにできるだけ書き込む。 直接の会話はあまりしないようにしてて、slackのチャンネルに書き込んで、それに私が回答するとか他の人が回答するみたいなことで、誰でも見れるようにしています。 月に一回ぐらいですけど、チーム全員のミーティングはしている。
【渡辺】 あともう一つは、建築の知識を持ってもらうことが一番難しいという話。 設計・施工に直接関わるわけでもないという時間が圧倒的な中で、建築を勉強するって、うちも結構悩ましい問題だなと思っています。うちはじゃあ、社外に交換留学みたいなのしようか、みたいな話してるんですけど、その辺はどうやって教えるんですか。
【丹野】 実際仕事で起きたことじゃないと理解できないので、その人が何か壁にあたった時に説明をするパターンと、自分が関わった建物に関しては極力見せるようにしてます。工場に行けるタイミングがあれば行ってもらってます。 実はスタッフにゼネコンの打ち合わせとかに出てもらったんですけど、「あの打ち合わせってやる意味あるんですか」って言われたんですよ。
【渡辺】 時間が長くて自分のパート5分だけみたいな。
【丹野】 でもそこに彼らの考えてることがいっぱいあるから、「しばらくは腹が立つかもしれないけど、ちゃんと聞いて」と言って、そういうのには参加してもらってる感じですかね。
【渡辺】 じゃあ、我々がいう建築の知識というのは、基本的にはやっぱり設計、もしくは施工の人たちと同じ知識ではなくて、違う意味での知識にならざるを得ないし、無理だと思うし、その辺はそういう認識なんですか。
【丹野】 そうですね。自分が例えば、モノ作れる必要はないと思ってるんです。ただ、物作る人と会話ができるようにならないといけないと思っていて、会話ができるぐらいの最低限の知識は持たないといけないかな、というところです。
会社であるメリット
【丹野】 石津さんの場合、今一人で会社やられてますけど、会社じゃなきゃいけなかったことってありましたか?個人じゃなくて会社じゃなきゃいけなかったこと。
【石津】 そうですね、まず節税が結構大きいですね。
【丹野】 確かに。
【石津】 …というのが多分まず第1で、やっぱり請けれる会社さんが増えたというのが、第2に大きい。 公共事業とかって法人じゃないと請けれないという中で、法人で請ける事ができるようになったのはやはり大きいですね。「一人でコンサルティングみたいなことをやってる人もフリーランスよりも会社にしてる方が幅が広がる」みたいなことは税理士さんのアドバイスで、じゃあ今がタイミングかなみたいな感じで法人化しました。
【丹野】 それと渡辺さんは、人数もだいぶ多くなってきて、まだもう少し大きくしたいという方向ですよね。石津さんは多分大きくしようという気はないんですよね。
【石津】 幼児が集まってきてるんですよ。 大きくしたいという欲求はあまりなくて、出会いがあれば一緒に働きたいんだというのもありますけども、別に私の社員じゃなくてもいいかな。フリーランス同士というか会社同士でやってもいい。社員として抱えるのはその出会いがあれば。
【渡辺】 石津さんってスーパーマンみたいな感じじゃないですか。だから自分で突っ込んでいけるというのがあると思う。僕の場合は、そもそもそういうエンジニアリング的な技術がない。もう歳だから、身につけるのは難しいし、あと集団知というところ。 今の建設業界の中で、建築情報みたいな周りの仕事でいうと、まだまだそういう集団がない、足りないというのがあって、そこに対して一石を投じたいというのを最近強く思っています。ゼネコンのなかでもそういう存在もあるだろうけど、それが外でどれだけできるかというところに意味を見いだしたいというのはあります。目標としてアラップぐらいの存在になりたい。 BIM業界で話を聞きにいくのは最初にウチみたいなところになる為には、やっぱり集団・スケールというのは必要と思ってます。
【丹野】 会社の規模みたいことって自分でやってみて初めてどうしようかなって考えることだと思うんで、多分今からやってる学生がこういう仕事をしようとか、サラリーマンだったひとが独立しようってときに最初にイメージが付かないと思うんですね。
【渡辺】 それは僕も全くなかったですね。
【丹野】 それを僕も今考えています。悩んではいないんですけど、自分の会社をどういう会社にしようかなというときにスケールってやっぱり絶対に影響してくるんで。
【石津】 大きくしようとか、いま考えてらっしゃるんですか。
【丹野】 僕個人の考えでいうとSUDARE自体を大きくしようとは思ってなくて、大きくなるのは積木製作だったり、Estだったりベトナムの会社だったり、そこが大きくできるための役割を果たせばいいと思っています。そのためにアライアンスを組んで1社ではできないやり方を探ろうかなと思ってます。
【渡辺】 石津さんも一人とはいえ、そのいろんな学ぶところはもうなんかどんどん染み出してるし、石津さんがどんどんどんどん広がってる感じはありますし、そういう意味でいうとあんまり会社の枠というのは関係ないということもあるんじゃないかなと思うんですね。
【石津】 一緒に働いているみたいなプロジェクトごとに密に一緒にやらせていただいている感覚はあって、結局お客さんのツールを作るって、お客さんの要望の方が大事だったりするので、こっちでたくさんいたとしても個人個人で作るみたいな。 プロジェクトだったとしても、担当で、この人のツールをつくるみたいなという感じで作るので、今後どんどん複雑になってきたら、分業して大きなツールを作ろうみたいなのもあると思いますけど、今の形式が結構に安定しちゃったというか、増やそうと思ってたんですけど、最初は。なんで大きい事務所も借りて、「あと2、3人来るぞ、来るぞ」って思ってたんですけど。 インターンすらあんまり来ないってことに気が付いて。そう思ってる間に幼児が遊び始め、結局充実し始めちゃって。
【会場】 笑
【渡辺】 業界にもよるんでしょうね。うちは基本的にやっぱりプロジェクトベースだったり、コンサルテーションみたいなことがメインなので、そうするとやっぱりある程度のスケールないと、そもそも社会的信用みたいなところもあるし、丹野さんたちと一緒にやってた、某巨大プロジェクトって一人のところに投げるというのはなかなか発注側も判断しづらい。
【石津】 大きいものはほんとに。 うちでは多分そのモデリング全部、マネージメントは出来ないから、「viccさんだったりSUDAREさんだったりというところを見てみてください」という感じで、モデリング業務になると一人じゃできないと思うんですよ。絶対にできないんで、やっぱりそこは業界の違いなのかなとは思ったりもします。
会社の規模とキャリアパス
【渡辺】 会社ってビビりますけどね。毎週ビビりながらやってます。
【石原】 経営者としての不安みたいな話ですか。
【渡辺】 不安はありますよね、丹野さん。たまにつらそうな顔をするじゃないですか、お互い。笑
【丹野】 なんでしょうね。しょぼんとする時ありますよね。
【石津】 大きいところで育ってるのと、小さいというかスケール感が5人から10人20人とかで育てるのって全然違うんですよ。
【渡辺】 それはそうだと思います。
【石津】 大きいとこってさっき言ってた話で、人数が多いから人の目もあるし、昇進したいとかいう欲望もあるし、普通にしてたら結構育つと思うんですよ。小さいところってそこの空気感というかモチベーションの持ちかたみたいなのが、自分もいろいろインターンの子とかと話したり、とかしてて。 そこなんかイメージつきにくいみたいな話をしてて。だから育て方の方向が全く異なるのかなと思っています。
【渡辺】 今の話で思い出したんですけど、会社にしようと思ったときに、その時にバイトが一人いたんですよ。もうそれって本当に一対一の関係になっちゃって、僕はロンドンにいたときって一対一の関係でめちゃめちゃ圧力かけられて。単純に良くない。
【石津】 良くないですね。
【渡辺】
会社が5人ぐらいの時ってそんなに教育とかいって意識しなくても、勝手に学び合ってシェアがやりやすい規模だからほっといても良かったんですけども、10人とか超えてくると、こんどは、新卒が入ってくるみたいなことになってくると、どうやって知識をシェアしたらいいんだろうというのも当然みんなからも出るし、それで20人超えるとちゃんとある程度制度化しないといけないみたいなことがあって。
うちで言うと、いま評価制度を作って、逆にその目標とかも教育効果みたいなところにも繋がるなみたいなことがある。でも、それは10人の時にやることじゃないんですよ。ただ、なるべく官僚的にならないように気をつけなきゃなと思ってます。やるべきことというのはスケールで全然変わってきたと思います。
ロールモデル
【石津】 そのときにロールモデルみたいな、いろいろ4軸くらいありましたけど、その中でトップというかこの人目指すためにみんな頑張りますよみたいな。そういう感じなんですか。
【渡辺】 人というよりかは、うちのカルチャーこうで、うちの目標はこうだよみたいなところで決めて、さっき一部表を紹介さしてもらいましたけど、あれを決めないことには会社の軸というのができないんで、あれを決めることによって、われわれこれをやればいいんだよねって。クリアにしてそれに対しての達成度とか評価にしています。
まだ社内で公開してないんですけど、何となく僕自身がまずやることがクリアになってきて、人に対する接し方みたいなところも軸ができたなと。さっきの子育てみたいな話かもしれませんけど、あんまりフラフラしなくなるんだろうなという実感があります。
【石津】 ロールモデルをたてないというのは、やっぱり意図的にこの人が正解とならないようにってことですか。
【石原】 単純にいないってのもありますけどね。笑
【渡辺】 まず、僕自身がエンジニアではないというのがあります。エンジニアリングの会社としてやってる中でも僕自身が純粋なエンジニアでない今から、それになれない。ロールモデルというのはある程度文章化するということがその評価の制度を作る上での一つの大きな根幹なところがわかってきました。 (丹野さんに)まだ評価とか制度的なことは着手していませんか?
【丹野】 うちはまだしてないですね。そうですね。給与を決めるのはすごい、毎回考えて…適当に決めてますが。
【渡辺】 適当とかいうと。笑
【丹野】 いい意味の適当で。まぁ困らない程度に。
【渡辺】 ロールモデルは石津さんを目指せみたいな、そういう感じですよ。ロールモデルというのは業界の中にいるんだから。今日もこういう場を定期的に設けてるというのは、ある意味社内の人材教育みたいなところを意識していて、やっぱり業界のリーダーみたいな人たちを連れてきてもらって、その人たちの言葉を聞いてほしいなってことを思ってるんですけど…三人しか来ていない。
【石原】 きっとみんなweb経由で見てくれてると思いますよ。
【渡辺】 という感じです。
【石原】 そろそろ時間ですけど、最後に石津さんも質問があれば。
大学教育の意義
【石津】 丹野さんは大学で教えたりとか考えてるんですか。大学って私はやってないんですけど、すごい大事だなって思ってるので、やっぱり考えてるのかなと思っちゃいました。
【丹野】 考えてますね。
【石津】 渡辺さんがSFCに種を蒔いているのとか。
【渡辺】 何を教えるのか問題はあって、他の話もしたかったんですけど、そもそも我々みたいな人材が育つのに大学側のカリキュラムって今あるのみたいなところもあって。
【丹野】 そう、ないんですよね。
【渡辺】 石津さんが教えるとしたら、逆にどういうことを教えるのか。
【石津】 わたし遠藤先生にいつも哲学ばっかり教わってたんですよ。哲学書とか、空海とか、いろいろその宗教とか社会学みたいな本を読んで建築を学べみたいな感じで、コンペもやってますし、事務所の手伝いももちろん行ってますけど、スピリットみたいなメンタリティーが育つように、みたいな教育を受けたんだなって今頃になって思うので、多分そういう方向性です。
【渡辺】 教えられるんですかご自身も。
【石津】 どうなるかは分かんないですけど、多分スキルセットじゃないのかなと思います。今スキルセット教えてますけど、今は何の重みもないんで、もう50歳とか60歳くらいになった時にズシンとして精神論というか、胆力、建築に向き合う姿勢みたいな話をしたいです。 私は結局建築設計に行ってないんですけど。興味がある対象にどう向き合うかみたいな話ってすごく参考になる気がして、それがやるもの変わってもすごく活きてるというか。大学教育で教わったものがすごく良かったなって思ったんです。お二人だったらそういう部分もすごくあったりするんじゃないかなと思うんですよ。
【丹野】 哲学。 難しいですし、まだ教えるとか決めてるわけではないんですけど、でもすごく考えていて、日本の建築学科というか、建築家ってカテゴリーが結構明確分かれていて、そこで生きていくしかないみたいな。でやっと今、建築情報系というのが受け口ができた段階だと思います。意匠やってたけど、そこまでデザインを突き詰めようと思ってない人たちで情報系も好きみたいな人が出ていく場所がやっとできてきた。 実は仕事を始めると凄くいろんな仕事があるのに、大学で教えてるのってわりと単純な一部分だけ。 理想で言えば細分化した中で教えられる方がいい。
【石津】 その方がいい気がします。
【丹野】 その方が活きるかなという気はしてますし、あとは何でしょうね。社会に出て建築業界の中で生きていく術みたいなのが哲学かもしれないですね。「ちゃんと上司に根回ししてね」とか。
【石津】 ソフトウェア開発もいろんなソフトウェアエンジニアを育てる本とか読んだりするんですよ。エンジニアのここの職人みたいなのが結構出てるんですよね。結局コミュニケーションの話だったり、胆力の話だったり、根回しじゃないですけど、相手が言ってる事をちゃんと聞きましょうとか、どのプロフェッションでも結局それがなくていいものって自動化で置き換えられてしまう。 備えられると嫌かもしれないので、本で渡してあげるみたいな。これ読んでおきなよみたいなのがあるといいのかな。
【渡辺】 丹野さんも胆力って言ってたし、石津さんもアプリ制作はマネージメント能力みたいなこと言っていてで、うちもやっぱり「テクノロジーと感性とコミュニケーションで建設の不可能を可能にする」ってのがパーパスなんですけど。一緒だなと。 もう本当にめちゃめちゃ胆力必要じゃないですか。本当に10年ぐらいのスパンで考えないと変わらないことをやろうとしていて胆力がないことにはそもそも始まらないってのがありますね。
【石津】 否定される場面があるじゃないですか。いい悪いも含めて新しいので、「こんなことやっても現場に届かない」「こんなことやってもできる人しかやってないじゃないか」とか色々言われると思うんですよね。だからそれにガードできるシールドみたいなのを大学教育でえられる気がしてて、色々言われるけれども、自分はそれを選んでそれが好きで、プロフェッションとしてやっているからできることをやると。 そういうことは設計でもあると思うんですね。 建築設計だったら多分当たり前にみんな失敗も絶対するだろうし、それで次頑張ろうと思いながら、最初からスーパープレイヤーで図面引ける人いないだろうし、結局同じだから、そういうのを教育があると、自分の居場所じゃないですけど、先生に教わった、先生になるぞ、そういうのが培われるのかなとか思ったりしますね。なのですごい素晴らしいですね。ぜひ大学に。
【渡辺】 でも石津さんにも声がかかっているんじゃないですか。
【石津】 私はまだ今じゃない感じですね。 地道にやってから、と思ってます。
【石原】 この辺で時間もきたので、中締めとさせてください。