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株式会社ヴィックの技術ブログです。

建築VIZの職能って何ぞや? 伝える難しさと、その中で見つけた、職能の振り子と在り様について。

こんにちは。VICC_VIZの松谷です。あっという間に今年もあと半年を切ってしまいました。コツコツと続けてきたことの成果がそろそろでてきたなー思いつつ日々を過ごしています(ダイエット)

はじめに、

今回は、建築ビジュアライゼーションの職能について最近感じたことを書きたいと思います。 僕はVICCの中でビジュアライゼーションに関わる、様々なアウトプットや設計フェーズでの制作業務に携わっています。
10年近くこの職能に関わる中で、職能の変化や逆に変化のない点も感じつつ、日々業務にあたっています。

そんな中、以前から僕は僕らの職能って何となく伝わりづらいもどかしさを感じています。

たとえば、設計するわけではないけど図面は読めたり、建材の知識はあったりする。 パソコンに多少は詳しいが、がちがちにプログラムとか書く訳でもない。 絵描きってわけでもないけど、建物を美しく見せるノウハウはある。映像をつくったりもする。
お客さんとコミュニケーションをとって、提案をする場面もある。
結果として色々やるが、何かが特質しているように感じない。
また、そういった職能の多彩さが起因して、お客さんや周りの人への職能への理解されずらい。 自分たちから見ても、何者か曖昧。
職能の価値を高め、発信していきたいけど何をすべきなのかなどなど、、と考えていました。

そんな中、最近ラジオで聞いた『振り子の思考』という考え方と出会いました。 それがきっかけで建築ビジュアライゼーションの職能とは何か?について、僕なりの理解が深まったように感じ、以前よりも僕がやるべきことがクリアになりました。
今回は職能についての僕なりの解釈と、その中で見えてきた職能の意義などを書いてみたいと思います。

建築ビジュアライゼーションの職能について伝えるのってムズカシイ。。

僕らの職能は、設計者(設計補助)、エンジニア、アーティスト、カメラマン、コンサル、プロジェクトマネージャなど、幅広い分野にまたがっています。結局のところ総称してクリエイターと言えるのかもしれませんが、設計のフェーズやクライアントの要望によって職能として求められるバランスが変化するので、求められるクリエイター像が仕事によって変化しています。
職能を端的に言ってみると「建築設計や販売のために必要なビジュアルがかかわることを、3Dソフトを使って様々な形でサポートをする」みたいな感じかなと思います。しかし、具体的な作業内容や制作の中で考えていることを伝えるのはなかなか難しいです。

以前僕の職業を誰かに伝えるタイミングが何度かありました。

例えば、デザインなどとはまったく違う業界の人には、
『電車の中刷り広告とかでみるマンションの写真みたいな絵をつくってたり3Dソフトをつかって建築のビジュアル周りをサポートする仕事だよ』なんて言ったりします。
「へー、なんか凄いね。」のような返事が返ってきます。

他業種を含むデザイン関係者の人などと話すと、それはそれでこんな返答が、「自分で設計しないの?それで楽しいの?」なんて言われたりしたこともありました、、つらつらと説明してもなとも思うし、、僕の説明下手なところも大いにあるとは思うのですが、中々に職能を説明するのに苦労します。

ちなみに父親には「その絵にはお前がいるのか?」などと言われたり。。(笑) いるわ!!(強気)
でも確かにパースだけをみると、建築が主題であり、またそれに伴って伝えるべき内容を盛り込むものなので傍からみると個人がいるか判断しずらい場合もあるでしょう。

稀に、設計者の方々にも伝わらないこともあったりしますが、これは建築ビジュアライゼーションの職能が、設計のフェーズによって役割や求められること異なり、それぞれの会社ごとで得意分野が異なることに起因しているように感じます。
また制作者側も得意不得意があるので、パースが作れてもVRはできないよ。など人によって様々なのも複雑にする原因とも思います。

やはり外からみると曖昧模糊な職能に見えるだろうなと感じましたし、僕自身も改めて職能をもっと言語化でできればと思っていました。

建築ビジュアライゼーションの制作時に必要な素養とクライアントから求められることって?

建築VIZの職能は、例えば先に話した職能をある種、つまみ食いをしているといってもいいかもしれません。

  • 設計者(設計補助)
  • エンジニア
  • アーティスト
  • カメラマン
  • コンサルタント
  • プロジェクトマネージャ
    各職能の素養と人材ごとのもつ差異

具体例を挙げて話すと例えば、パース製作の仕事をしていく中で、アングルを決める際はカメラマン的な職能の素養が必要です。
また、まだデータの密度が足りない状況の中で、最終イメージを先に持ってアングルを決める必要もあるため、アーティストの職能のような素養が必要だとも感じます。
また、例えばクライアントから届いた図面や、専門用語を用いた指示を理解しモデルを制作する技術も必要です。(設計者)
一方、初期段階でまだデータを量を増やすべきでない状況や、プログラムや多様なソフトウェアを使って効率的に作業を進める(エンジニアの視点や技術力)も求められます。
いつ、何を、どれくらいやるのか、最終成果物やお客様の満足感につながるか意識して、提案したり、話し合う能力も必要です。予算もあるので、すべてに付き合うわけにもいきません。(コンサルタント、プロジェクトマネージャ)

さらに、クライアントから求められる以下の要素と混じりあい複雑になります。

  • 設計のフェーズ (コンセプト段階~基本、実施、施工、販売)

設計のフェーズによってビジュアルの求められる役割が変わります。 建築のコンセプトを最優先で伝えるビジュアルや、設計の収まりや素材の確認のためのビジュアルなど設計フェーズごとに求められる役割が変化します。

  • 制作物 (パース,動画,VR,MR,etc..)

近年制作物も多様になってきています。先に書いた、制作者側も得意不得意があるので、パースが作れてもVRはできないなど制作者や組織によって対応がことなる場合があります。

  • 制作に対しての価格とクオリティとのスピードに対しての会社ごとスタンスの違い。

これはどの業界でのあると思いますが、「安くて、早いが、不味くはない」が得意ではあるが、逆を言うと「高い、美味いが手間がかかる」ができない。など組織によっても守備範囲に違いがあります。 僕らヴィックVIZはビジュアルワークを通してをプロジェクト全体のサポート、バックアップして、プロジェクトの士気を上げていきたいと考えています。
クライアントの期待や成果に応えるためには、様々な素養を持ちながら、求められていることを整理、判断すること能力が必要だと感じています。

しかし、そのスタイルを保ちクライアントとコミュニケーションをとるとき、ある種必勝パターンのように、自分の得意な、素養に頼りがちなスタイルをとってしまうこともしばしばあります。
一概にそれは悪いことではないとも思いますが、スタイルの幅を広げたいと感じます。

僕にはそのために建築VIZの職能について改めて考えるきっかけが必要でした。

職能の幅を振り子としてとらえてみる

最近聞いたラジオで「振り子の思想」という考え方を聞きました。(有名なのかもしれないですが。)

Takramの渡邉康太郎さんが話していた考え方で、デザインプロセスやイノベーションのアプローチを示すためのメタファーとして用いられていているようです。

ブログ:デジタルとフィジカル、抽象と具体……Takram「振り子の思考」が拓くデザインの可能性

ブログ内で紹介されている、TakramのMissionページにはMissionの中に「Pendulum thinking」としてこのように記載されています。

下記の内容です。

「異なる視点を行き来しながら、多面的に問題を理解し、分断を乗り越え、創造的発見に迫る」という言葉。つくることと考えること、抽象と具体、主観と客観、デジタルとフィジカル、論理と感性……さまざまな相反する視点から物事を捉え、その間を揺れ動き、越境することで完成形に導いていくさまを「振り子」にたとえている。

振り子の思想の説明しているラジオ(全4回のうちの最終回の収録です。興味のある方は聞いてみてください。ダブルスタンダードについて考える回)

またラジオではこのようなことを含めて対話していました。

Takramが創業したときには、僕は、デザインエンジニアと名乗っていた。それは普通に考えると、デザイナーであり、エンジニアであるという、ダブルスタンダード。だけれども、大事なのはそこではなくて、デザイナーをやっているときは、エンジニアではないというのが大事。A&Bというよりも、not A かつ not B というのを兼ね備えているというのが大事。 A、B、A&Bの3つを選べるときに、Aやっているときは、Aをやっているという感覚でやるのではなく、Bではないと思ってやっているというのがとても重要な視点だということ。Aだけを見ているとAが見えない。 振り子が両極を行ったり来たりするときに、どっちかに答えがあるというよりも移動の残像の中に答えがある

このような考え方は、建築ビジュアライゼーションの職能にも当てはまるように思います。

左:振り子の動く図 右:振り子を上から見たときの動き

具体的な例として、アングルを取るという制作工程の中では、図のような設計者(設計補助)、エンジニア、アーティスト、カメラマン、コンサル、プロジェクトマネージャなどの視点を振り子が動くように行き来するイメージを持って制作にのぞんでいます。
これ自体は普段でもいつの間にか当たり前のようにやっていることでもあります。

意識してアングルだけのことを考えてしまうと、それはその他の素養をつまみ食いをできていない、とても視野が狭い制作へと進んでしまいます。アングルを撮っているからと言って建築のカメラマンやアーティストだけにとどまるのではなく、振り子のように視点を行き来きすることが必ず必要です。

それによって補集合的に、アングルをとる制作行為が明快になり、その振り子の移動の残像の中に、発見やひらめきを見つけその時々の最適解に近づきやすいのだろうと感じました。

いつの間にかやっていたことが言語化されていき考えが明快になったように感じました。ですが同時に、振り子を行き来させることをないがしろにした場面であらぬ方向に制作が向かってしまうことが多いのかもしれないという気づきにつながりました。

また、多彩で高度な素養を持ちそれを振り子のように行き来し判断できる人材が、建築ビシュアライゼーションの職能を持つ人であり職能の意義だと考えています。
どのような職能であってもこのような視点を持つことで見えてくる選択があるはずです。同時にこれは弊社のValueの1つである直感的科学者の視点に近いと僕は感じています。

このようなメタな視点をもった判断力と同時に、自分の強味を育て、時に弱みを補いながら、職能の素養を1つ1つをすこしづつでも成長していくことで、他社と比べられないくらい良いサポートができるようになると今は感じます。
もちろんチームでカバーし合い共に成長することも組織の強味であると思います。

ひとりでなく、みんなで振り子の残像をみて、その状況での最適解を見出す。

これを日々の仕事で常に意識して制作にするのは神経をつかいますが、時に力を抜いて向き合うことで達成できるはずです。


終わりに

結局、職能の説明を他者にする難しさは増したようにも感じています。(笑)
もはやそれはどうでもよくなっているのですが、このブログを読んで同じように曖昧模糊な職能を持つ誰かの気持ちが、前向きになってくれていたら何よりです。