代表の渡辺です。2/27に日本建築学会の建築生産小委員会が主催するセミナーへ登壇しました。テーマは「設計と施工の協働を探る」というもので、設計施工一括やECIといった発注システムの多様化が進む中で、これからの設計と施工のより良い関係とはどんなものなのかを考えてみるというものでした。
登壇者の所属は総合建設会社(前田建設工業の曽根さん)、組織設計事務所(日建設計の吉田さん)、設備専門工事会社(新菱冷熱工業の谷内さん)、そして私(BIMコンサル)という構成でした。主催者である東京電機大学の小笠原教授からお話をいただいた際には、なかなか難しいテーマだと思いましたが、BIMコンサルとしての最近の問題意識にも合致するものでもありました。以下、私からの発表内容の要約になります。
仕事の中で生じた疑問
ヴィックでは、建物が建つまでの全段階にまたがり、以下の図のようなBIMサービスを提供しています。
ここで問題なのは、それぞれのフェーズごとに契約いただくクライアントが違い、プロジェクト全体が省力化されているのかわからないということです。
例えば、設計段階での我々の作業や成果物の中には、施工段階でうまく使えばかなりの省力化ができる情報があると考えています。それらは果たして使われるのでしょうか?多少使われたにしても、その使い方はプロジェクトの生産性向上に寄与しているのでしょうか?少なくとも、我々にはそれを確かめる術がありません。
プロジェクトの各段階ごとでそれなりの成果は出せてはいるのですが、プロジェクト全体での連携に寄与できているかというと、自信がないのです。現在の我々の作業は「個別最適」の範囲で終わっていると考えます。
なぜ個別最適化にしかならないのか
なぜ個別最適化にしかならないのか、整理してみました。
- 様々な会社が集まって建築をつくるため連携がそもそも困難
- ひとつの建築が出来上がるまでには多くの会社が関わります。それ故に、連携の困難さが付きまといます。
- 全体を見据えた予算配分の変更ができないから
- ほとんどのプロジェクトでは予算配分が従来のワークフローを基準としています。そのため、設計の段階でコストをかけて検討した方が、施工が楽になるとわかっている場合でも、予算がないという理由で問題が先送りされてしまいます。
- 建築主を含めてワークフローを変更するメリットが明瞭ではない
- 建築主もワークフローを変更することによるメリットがわからないため、旧来のワークフローで結局プロジェクトが進みます。
これらの問題を乗り越えて、建設プロジェクト全体で無駄をなくし、利益率とクオリティを向上させる「全体最適化」に取り組まなければなりません。
日本の建設業の生産性をさらに向上させ、利益率を向上させ、若い優秀な人材が来るような魅力的な業界にするためにも、これは必要なことだと思います。
全体最適化とは?テスラの事例から
全体最適化とは何か、より深く理解するために、他の業界も見てみましょう。自動車業界に目を向けると、トヨタの8倍もの利益率を上げるメーカーがあります。それがテスラです。
トヨタをはじめとする旧来の自動車産業は、レシプロエンジン時代に築いた壮大なピラミッド構造のサプライチェーンを持っており、それを再構築することは容易ではありません。
一方、テスラはモーターで走る電気自動車から出発しているので、設計思想と製造工程にに無駄が発生せず、車体下部の部品点数を従来の100点から3点に減り、製造ロボットが300体減ったとのことです。その結果、利益率の8倍の差をつけることができたのです。
つまり、製品の目的(動く車)自体は変えず、手段(ガソリンエンジン→モーター)を見直し、バリューチェーンを再構成することが全体最適化だと言えるでしょう。
さて、建設業に話を戻すと、全体最適化を実現していると思われるのは大手ハウスメーカーがまず浮かびます。製品(この場合は住宅ですね)の種類が比較的絞りやすく、全工程を自社で完結することができるので、全体最適化は確かにやり易いはずです。
その他の一品生産的な建築では、全体最適化はまだなされていないはずです(ちなみに、Katerraはそれに果敢にチャレンジした企業だったと思います)。
PM/CMの役割
では、誰が全体最適をリードできるのでしょうか?
これはやはりプロジェクト全体を俯瞰できる立場の人にしかなしえません。現在、建設業でそれらの役割を担っているのは、PM・CMの人達のはずです。しかし、なかなかプロジェクト全体の最適化につながるような、既存の設計~施工の枠組みを超えた計画・調整にまで踏み込んでいるプロジェクトは少ないように思われます。
もう一つ、PM・CMの皆さんによる、情報技術の適切な活用もまだ不足していると考えています。BIM等の情報技術の活用は、生産性の向上には不可欠です。
と言っても、PM・CM自らがBIMモデルを作るべきということではありません。彼らが行うべきなのは、プロジェクトに関わる人による情報のやり取りの枠組みとスケジュールを決めることなどだと考えます。それによってはじめて、圧倒的に効率的なプロジェクト運営がなされるのではないでしょうか。
個別最適から全体最適へ
日本では、設計、施工の各職分の中での個別最適化はもうやりつくされており、限界が見えてきていると思います。ここからさらに生産性を上げるには、全体最適化へのアプローチが不可欠です。それには、プロジェクト全体を俯瞰して音頭取りをする人が必要で、さらには情報技術の活用(3DとデータベースとしてのBIMの活用)が重要だと考えます。
他の先生方のお話と議論
前田建設工業の曽根さんは鉄筋工事を事例として、施工者と設計者の協働の仕方について語っていただいていました。システムの構築まで踏み込んでいるので、効率化が会社のワークフローとして定着している様子がうかがい知れました。日建設計の吉田さんは図面とBIMを比較して、情報が均質化してしまう傾向から、意図を伝えるコミュニケーションの重要性をお話しされていたのが印象的でした。新菱冷熱工業の谷内さんからは設備設計・施工でのBIM実装について、ユーモアと実例を交えながらお話しいただきました。三社の中で一番具体的な事例が多かったかもしれません。
議論では様々なトピックについて触れましたが、特に曽根さんの「我々のBIMに関する説明はBIM推進者目線になっている、発注者としては「工事費は下がるの?工期は短くなるの?」というのが気になるはずで、説明のレイヤーが違ってしまっているのは問題では」というお話に大変共感しました。
小笠原さんからの質疑でも建築主からコンサルティング依頼はないのか?というものがありましたが、現在オーナー向けのBIMサービスを売り出し中です。興味のある建築主、不動産事業者、CM/PMrの方々からのお問合せお待ちしております。
また、今後も折を見て、設計者・施工者の皆さんや建築に関わる多様な業種の皆さんと議論を深めていければと思います。