スポーツ競技や音楽会、公演、映画などを見に行って、前の人のせいでよく見えなかったことはありますか? 手すり、壁、柱、設備などの障害物で見えなかったことはありますか?
以下の検索語で検索すると、様々な実例の座席写真を見ることができます。(本当にいろいろな、よくない座席が出てくるので一度は検索してみる価値があります。)
「Stadium seat sightline Obstruction」 または 「Worst seat」
競技場や公演会場などの設計の際、誰しも座席からグラウンドやコートなど、特定の地点がよく見えるように設計すると思います。しかし、すべての座席を一つ一つチェックすることは難しいですし、現実的に不可能だと思います。
これまでの方法は、いくつかの座席の位置で断面図(2Ⅾ図面)を作成して、競技場を見る時に何か視線の邪魔になるのかを確認する、というものでしょう。
では、他の席での場合を見たいならどうしますか? または、同じ座席から別の角度で断面を見たい場合は? これを確かめようとすると、すべての座席断面を新しく描く必要があるでしょう。
限られた作業時間の中で、条件を確認、整理して、作図しなくてはいけない図面は膨大になります。ヒューマンエラーの発生可能性も高くなるはずです。
これがBIMモデルが力を発揮する瞬間ではないかと思います。
見たい部分の断面を追加するだけで、ビューを生成し、視線に障害物があるかどうかを確認できます。それだけでなく、BIMモデルを活用してVRなどの技術を導入し、座席に座った時に競技場や周辺がどのように見えるかまで活用できます。(BIMマネージャーの厳格な管理とEIRやBEPなどをよく遵守して作成されたモデルがある場合。)
今回の記事ではVRまではいきませんが、BIMモデルを活用して、どの座席から競技場または舞台を見る時にどれだけよく見えるかを各座席ことに数値化して、分析できるRevit&Dynamoをご紹介したいと思います。
今までは競技場または舞台を見る時に発生する問題について簡単に確認してみました。
本格的にBIMモデルを活用して、競技場・舞台を見る時にどれだけよく見えるかを各座席ごとに数値化・分析するRevit&Dynamoをみてみましょう。
BIMモデルの準備
以下にこの記事で使うソフトのバージョンを示します。
- Revit version 2022
- Dynamo 2.12.1.
下の図4のように簡単にバスケットボールコートと座席、そして手すりやカメラマンと壁や立っている人達など、視線を妨げる物を用意しました。(図4を参照)
床と座席のサイズ、座る時の視線の高さは以下のようにしました。 図5ように各座席の間隔は500mm、段床の幅は810mmで、視線の位置は段床の後ろから250mmと段床面から1200mmになります。(図5を参照)
Dynamoスクリプトの説明
Dynamoスクリプトは以下のような構成で、2つのバージョン(図6-1、2を参照)があります。 スクリプトが2つになったのはコーナー部分のためですが、平面から見ると座席の向きが変わっていて、少し違うやり方で設定する必要があるからです。
分析方法を簡単に説明します。
- 特定の点と点を設定し、点と点を連結する場合に生成される視線ベクトルを計算します。
- 視点になる点からそれぞれのベクトル方向に視線が行くという条件で、障害物への衝突が発生した場合、視線結果を良くないと評価します。(図7を参照)
分析方法から作成したDynamoの流れは以下の通りです。
- Revit上で分析したい座席やフィールドなどの区域の選択、フィールドの分析ポイント(ピッチ)の設定します。
- 座席の位置や座席の間隔、視線の高さなどの条件を設定します。
- 設定した結果を分析できるようにスクリプト中で設定し、その結果を百分率で計算します。
- 分析した結果をRevit上にビジュアル化します。
Dynamoスクリプトの進行
最初はRevitの平面ビューで分析除外部分に「注釈→塗潰し領域の機能で領域」を入れます。次は、Dynamoからその除外部分を選択し、3Dビューでは実際の分析したい段床の面を選択します。最後には分析するフィールドを選択します。(図8を参照)
前の段階で選択した段床やフィールドをDynamo上でのジオメトリとして読み込み、以下のような作業を続けて進めてみましょう。
- 段床の幅の数値(810)と視線の平面位置(250)を入力して、視線位置を設定します。
- 次は各座席の間隔(ピッチ、500)と視線の高さ(座って床から目まで、1200)レベルを入力します。
- 最後はフィールドのどのポイントをチェックするか設定します。現在のスクリプトではフィールドの面をUVで5000mmずつポイントを設定します。(図9と図10を参照)
分析の準備は終わりました。フィールドの28ポイントと床の575ポイントから、合計16100個の視線ベクトルが分析されます。
- このスクリプトはアクティブなビューで分析しますので、アクティブビューを選択し、フィールドは非表示にします。(フィールドが視線を妨げるものと認識される場合があるため)
- 各位置で分析された座席の視線結果は0(赤色)から100(青色)の間の値で、その結果はRevit上にポイント名+結果値および色で表示されます。(図11を参照 )
3Dビューで分析した結果を平面ビューで表示してみましょう。色を表す板は材料を使った色設定ではないため、それぞれのビューで指定された色を示します。 したがって、それぞれのビューごとに色をリセットする必要があります。
当然、平面ビューでエレメントは存在しますが色が反映されていないのでDynamoをもう一回使用します。(図12を参照)
もちろん、Revit上に生成したテキストや色を表す板などのサイズや位置、0から100までの色の指定までも設定できます。(図13を参照)
分析結果に戻って、3Dビューで結果を見ると、視線が階段と重なっています。初期段階で除外する領域での設定をしなかったですので座席として結果が出てきました。また、段床の前の部分では人のオブジェクトが立っています。その座席の視線ポイントと人が重なって、結果が0になりました。実はその座席は周りの座席と同じようによく見える座席と判断ができます。実は車いす席を検討する場合は法律や設計条件などを必ず確認し、モデルに反映して検討する必要があります。その時は前の人が立っている状態で車いす席に影響があるかどうかを検討することができます。今回の場合は単純に人たちのオブジェクトがどのようにモデルの結果に影響があるかを確認するために設定しました。結果を見て信用することではなくて、必ず結果をレビューしたり、分析する能力も必要です。(図14を参照)
追加的にどのような障害物と視線がぶつかって見えないのか3Dビューに線を生成したり、必要に応じてExcelファイルで整理して、どの座席ポイントでどのオブジェクトとぶつかったのか、BIM情報を活用することもできます。(図15を参照)
記事の前で話ししたように、競技場以外に公演会場などでもこのようなBIMモデルを活用して多様な分析が可能です。リアルタイムで壁の高さを調整したり、手すりの高さ、タイプを修正することで、視線結果がどうなるかをすぐに確認することができます。
特に設計段階でも施工段階でも問題点を事前に把握することで、プロジェクトにおける被害を最小化または解決することができます。このようなBIMの活用によって、最適化された設計や施工が可能になると思います。
もし、BIMモデルをもっと活用すれば、VRを通じて実際の座席に座って競技場を見たり、特定の位置で景観がどのように見えたり、防犯カメラがどの程度まで視野範囲を確保できるかなど多様に活用できるでしょう。
今回の記事はここまでです。長い記事をお読み頂きましてありがとうございます。
以下のようにコーナー部分のDynamo実行画面を共有します。コーナー部分は段床が回っていますので普通の方法とは異なるスクリプトを作成しまして、選択する物も異なっています。(図16を参照)