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株式会社ヴィックの技術ブログです。

CDE入門 #2 「CDEでのステータス遷移とパッケージの使用(consume)」

皆さんごきげんよう。

前回に引き続き、CDEのお話です。 2回目のこの記事では、CDEは単なるデータ置き場ではなく、BIMのプロセスとセットで使うと効果があるという話を、ステータスとパッケージの使用という切り口で見ていきます。

ステータスとかパッケージとかカタカナが出てくると嫌われやすいのですが、「状態」とか訳語を使うのもわかりにくいので、ぐっとこらえてください。

ステータスとは何か

ステータスとは状態のことです、というと日本語に訳しただけなのでBIMの文脈を補足しましょう。

「ある情報を見たときに、その情報がどのような使われ方をするか」という意味合いでの状態です。 多くの場合、このステータスと対応する形でフォルダが構成され、フォルダごとにアクセス権の設定がなされます。

BIMの国際規格であるISO 19650シリーズでは

  1. 作業中(WIP)
  2. 共有(Shared)
  3. 公開(Published)
  4. アーカイブ(Archive)

という4つのステータスがあることが望ましいとされています。アーカイブは追跡のための補助的な存在なので3+1というのが正確かもしれません。*1

日本語表記にしろ英語表記にしろ、補足的な説明なくステータスの表記だけ見ると誤解する部分があります。

特に公開というステータスは誤読されやすいのですが、世界に広く公開しているわけではなく、検収済みの成果品、次の契約に用いられることができるデータという意味合いです。

一部のCDEソリューションでは別の機能(ローカルモデルからクラウド上の作業中モデルへの同期)がPublishと呼ばれており、その意味でも非常に混乱を呼ぶので、いずれ改名されるかもしれません。*2

作業中は作業チーム内でしか見れないことが望ましいとされており、例えば建築意匠モデルの作業中は構造設計チームからは見れない設定とするのが一般的です。

共有は他の部門や協力会社が参考として閲覧し、調整を行うためのステータスとされています。

ステータス遷移

ISOでは作業中で作ったものを共有で調整し、検収が上がったら公開に入るという流れです。

ステータス遷移図

ACCやBIM360を利用すると、それぞれの作業チームで作成した情報のうち、他のチームで利用可能なものを選んでひとまとめにするパッケージという機能があります*3

このパッケージ機能で作業中から共有にステータスを遷移させ、別フォルダに複製することができます。

また、承認フローを設定しておくと、指定した人に回覧して指摘事項をもらったり、承認処理を記録に残す機能も利用でき、こちらも共有から公開ステータスのフォルダに複製保存することができます。

「ただフォルダからフォルダへファイルを複製するだけなのに自動化するの?」と思われるかもしれませんが、複数のファイルやビューを指定して情報コンテナとして取りまとめることや、アクセス権の設定によってステータスの遷移が特定の人によってできるのが重要なポイントです。

  • 作業中から共有へは部門の主任が検査・承認
  • 共有から公開へは建築主がレビュー・認可

ステータスごとに次のステータスに進むかどうか判断する人も変わるわけです。

情報コンテナ

情報コンテナという概念がISO 19650シリーズには定義されています。 「ファイル、システムまたはアプリケーションのストレージ階層内から取得可能な名前付きの保持された情報のセット」のこととされています。

ファイルが情報のセットというのは比較的理解しやすいでしょう。

一方でファイルではない情報コンテナはなじみにくいかと思います。

ISO 19650-2に準拠したCDEであれば、パッケージというまとまりにする際、プロジェクトで決められている命名規則が適用され、ステータスコード、ステータスが遷移した日付や承認した人が記録されることによって、情報が整理された形で共有されます。

適切な設定と運用という条件付きですが、ACCやBIM360ではパッケージをこのように使うことができます。

つまりパッケージ自体も情報コンテナと見ることができるわけです。

巨大プロジェクトや混迷を極めるプロジェクトでは、「誰が作ったのかよくわからない、信じていいのかも怪しい図面」がメールで転送されてきたりします(経験がありませんか?)。

それでいて、「検討の対象となる箇所に対してはその図面しか存在しない」というようなとき、果たして信じて使っていいものか、あるいは改めて考え直した方がいいのか、悩むことがあります。

情報は共有されるべきですが、整理されない状態でむやみに共有することは、かえって混乱を生むことにもなりえるのです。

情報共有のマネジメント

パッケージの使用(consume)

ここから先の話は必ずしもいつも実践されるワークフローではないのですが、よその会社や部門が作った共有ステータスの情報コンテナを、自分の作業中のモデルで参照する際、どの情報コンテナを使用(Consume)するかパッケージ単位で選ぶという手法があります。*4

ころころ変わる意匠モデルを毎週更新されても見れないという構造担当者が、2週に一回リンクを更新するというような使い方です。

これも手動でフォルダの間をコピーすることもできるのですが、いつの時点のどんな情報なのかを把握できる形で使用するには、パッケージを使用するのが良い方法として知られています。

これも現代的なCDEソリューションでは機能として実装されており、ACCではパッケージのconsumeというボタンで特定のものを選んで使用することができます。

MEPの2つある〇のうち右側の新しい方を使用

これで、自分が参照している情報が、いつのどんなものかわかるわけです。

何を自動化するのかや、ステータスごとのフォルダの構成はプロジェクトの特性に合わせて設定してあげる必要がありますが、ステータスを管理することや情報コンテナとして情報を共有するという原則は常に有効です。

今回は以上です。

具体的なプロジェクトでのフォルダ構成で悩んでいるという方、ぜひ弊社viccにご相談ください。

*1:個人的な経験ですが、他にスケッチというステータスが定義されたBEPを見たことがあります。「見てほしいけれど、それに合わせて調整はしないでほしい」という作業中共有の中間的なものとしてスケッチがありました。

*2:用語のねじれについて以前社内でも話題に挙がったのですが、歴史的経緯があるようです。アメリカの民間プロジェクトでワークフローが確立された後で、イギリス政府が規格化をリードしたために、すれ違いが生じたとか

*3:2024年年現在、この機能を使うにはCollaborate Proなどのライセンスが必要で、Autodesk Docsのみでは使えません

*4:英語ですが、参考になる記事。 https://www.autodesk.com/autodesk-university/article/BIM-360-Design-Collaboration-Everything-You-Need-Know-2020