建築ビジュアルを取り巻く環境は、この数年で大きく変化しました。
AIによる画像生成も含め、誰でもそれっぽい絵をつくれる時代になっています。
そんな中で改めて、「良いパースとは何か?」をテーマに、VICCメンバーで座談会を行いました。
参加メンバー:篠原(進行)・松谷・有澤・照井・柿谷

良いパースとは何か、パース屋という言葉への違和感
篠原:はい!本日はお集まりいただきありがとうございます。今回はVIZチームの座談会ということで、有澤さん、松谷さん、照井さん、あとこの4月に新卒で入社した柿谷さんと、司会進行の篠原で会をやっていきたいと思います。よろしくお願いします。
一同:よろしくお願いします~
篠原:まず今日のテーマとしては、「建築ビジュアルにおける良いパースとは何か?」です。
設計者が求めているパースとは何なのか。
あるいは、設計者は何を見ているのか。
そのあたりを、今回はざっくばらんに話していければと思っています。
まずは皆さんに、それぞれが考える「良いパース」について聞いていきたいと思います。
松谷:良いパースって、ひとつの正解があるわけではないと思っていて。
コンペなのか、実施設計なのかでも全然役割が違いますし。
例えばコンペだったら、まず「この建築いいな」って一瞬で感じてもらう必要がある。
だから第一印象とか空気感みたいなものがかなり重要になる。
逆に実施設計に近づいていくと、「この素材どう納まるんだろう」「このスケール感で成立するのか」みたいな、もっと具体的なリアリティが求められてくる。
なので、良い・悪い というより、そのフェーズで求められている役割をちゃんと果たしているか、っていうのが大事なんじゃないかなと思います。
有澤:僕も松谷や照井と、スタンスとしては近いと思っています。
建築がちゃんと見せられていることや、そこで起こるアクティビティが伝わっていることは大前提なんですけど、その上で、先方が求めている要素を汲み取りながら、より魅力的に見せていくのが僕らの仕事だと思うんです。
光の入れ方だったり、人の配置だったり、空気感のつくり方だったり。
そういう部分を整理しながら、クライアントの要望を引き上げられている状態が、良いパースなんじゃないかなと思います。
照井:今って、3Dモデルを立ち上げてスクリーンショットを撮れば、誰でもパースと言えてしまう時代だと思うんです。
パースって、単純に綺麗な絵をつくることじゃなくて、図面だけでは伝わりづらい空間のスケール感とか、高さ関係とか、周辺環境との関係性を、3次元として正しく伝える役割があると思うんですよね。
もちろん空気感とか雰囲気も大事なんですけど、その前提として「建築として成立していること」がちゃんと見えている必要がある。
なので、自分の中では、建築を理解した上で空間を正しく伝えられているものが、良いパースなんじゃないかなと思っています。

有澤:パースねぇ……。僕、「パース屋さん」って言葉、あんまり好きじゃないんですよね。
パースって、もともとパースペクティブ=透視図の略じゃないですか。
もちろん透視図を描くこと自体は大事なんですけど、自分たちがやっていることって、単純に透視図を描くだけではない気がしていて。建築の魅力とか、空気感とか、そこでどういう体験が起きるのかまで含めてビジュアルをつくっている感覚がある。
だから単なる「パース制作」という言葉だけだと、少し違和感があるんですよね。
松谷:「パース屋」って言葉だと、オペレーターっぽい印象が強いから違和感があるのかもしれないね。 僕自身、クライアントに説明するときは、「パース」より「イメージ」という言葉を使うことがあります。
有澤:柿谷さんって、「パース屋」って言葉になじみありました?
柿谷:「パース屋」という言葉自体は、建築CGを調べていく中で知りました。 ただ、学校ではずっと「建築CG」という言い方をしていたので、自分の中でもそっちの印象が強いですね。
照井:設計者にとって、僕らがつくっているものって「パース」なのか「CG」なのか、どっちなんだろうって思うことがあります。 広告系では「CG」って呼ばれることが多いですけど、僕らがやっていることって、それだけでもない気がするんですよね。
松谷:Photoshopや3Dソフトを使っていても、そこに意思を持って制作し、何かを表現している時点で、単純な「CG」とも少し違う気がしていて。
有澤:CGってあくまで手法ですもんね。やっぱりゴールとしては、「イメージ」だったり「ビジュアル」なんだと思います。
篠原:そうすると、広い意味でビジュアライゼーションという言葉がしっくりくる。
松谷・有澤・照井:そう思いますね。
照井:うちのチームが「パースチーム」ではなく、「Visualization Team」と呼ばれているのも自然だと思いますし、パース制作はその内の一つであって、役割としてはビジュアライザーの方が近い感覚があります。
松谷:僕ら側からクライアントに対する意思表明でもありますね。
建築パースの「シズル感」
柿谷:聞いていて気になったんですけど、コンペって実施設計とは違って、手描き風やイラスト風にして、あえてイメージを固めすぎないようにすることもあるじゃないですか。 逆に実施設計に近づくと、だんだんフォトリアル寄りになっていく。VICCのビジュアルも、人を配置したり、少し手描きっぽい表現を入れたりしていると思うんですけど、その一方で、垢抜けすぎても違う気がしていて。 盛りすぎないとか、綺麗にしすぎないとか。 そのあたりって、みなさん意識していたりしますか?
松谷:フォトリアルに描くこと自体が目的ではないんですよね。 ただ、ちゃんとリアリティは感じられる状態にしたい。 その建築で実際に起こりそうな情景を、嘘にならない範囲で少し先回りして描いている感覚に近いかもしれません。

照井:シズル感って言葉、知ってますか? 昔、仕事で「もっとシズル感を出してください」ってチェックが入ったことがあるんですけど、食べ物でいうと、瑞々しさとかおいしそうって感じさせることなんです。 例えば果物に少し水をかけるとかして、 嘘ではない範囲で、ちょっとだけ魅力的に見える状態にお化粧をする。 けれども、猫を虎に見せるのは無しです。よく写真詐欺という言葉を聞きますよね。
有澤:そうそう。そのジャンプのさせ方が重要なんですよね。 リアリティを感じられるラインを超えない範囲で、少しだけ魅力を増幅させる。 僕はよくオーバードライブって呼んでいるんですけど、その盛りすぎない加減を調整すること自体が、僕らの職能のひとつだと思っています。
篠原:そのシズル感って、建築ビジュアルだと具体的にどういう部分なんですか?
松谷:情景の設定ですかね。 ライティングとか、空や雲の状態とか、人の入れ方とか、季節感とか。 単純に建物を綺麗に見せるというより、「そこでどんな時間が流れているか」を補足していくことに近いと思っています。
篠原:そういうのって、建築の用途によっても変わりますか? 例えば公共建築だったら人を多めに入れるとか、美術館だったら静かな光をつくるとか。
松谷:そうですね。建築のプログラムや敷地のポテンシャルに合わせながら、クライアントと対話して考えていきます。
篠原:実際の仕事でも、「こういう見せ方の方が、この建築には合うんじゃないですか?」みたいな提案をすることってあるんですか?
有澤:みんな普通にやっていますね。 ちゃんとヒアリングした上で提案できるのは、僕らの強みでもあると思います。 例えば、クライアントって暗がりを避ける傾向があるんですけど、それを単純にネガティブと捉えないことも大事で。 だったら陰影を減らして、イラスト調に振った方がいい場合もある。 そういう頭の切り替えも必要ですよね。
松谷:パース単体で成立する表現もありますけど、イラスト系のパースって、ダイアグラムに近い役割を持つこともありますよね。
図面や説明と組み合わせて初めて成立するビジュアライズというか。
単純にリアルに描くだけじゃなくて、「何を伝えるための絵なのか」を整理して表現することも含めて、ある意味では建築におけるシズル感の表現なのかもしれないですね。
インタビューアー後記
パースって、単に建築を綺麗に見せるためのものではないと思っています。
その場所でどんな時間が流れるのか。
どんな人が集まって、どんな使われ方をするのか。
設計者がこの建築で何を実現したいと思っているのか。
まだ存在していない建築だからこそ、ビジュアルを通して、その空気や体験を想像できる状態にしていく。
だから僕たちは、「パースを描く」というより、建築のイメージや体験を可視化している感覚に近いのかもしれません。
次回は、VICCがどのように設計者と伴走しながら仕事を進めているのかについて、もう少し実務的な視点から話していきます。
次回 第2話 良いパースは、対話の中で決まっていく