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株式会社ヴィックの技術ブログです。

静止画の中に動きをつくる:パースで表現する「時間の流れ」

パースは、建築の完成像を伝える静止画です。
ですが、僕らがパースを描くときによく意識しているのは、実は「動き」です。

人が歩く、風が抜ける、光が移ろう。
建築はそうした“時間の流れ”の中で立ち上がり、魅力を増していくものだと感じます。

そうした積み重ねでできたパースが、時間の片鱗を感じさせる「映画の1コマ」のような一瞬を切り取ったものになると思っています。

この記事では、静止画の中にどう「動き」や「気配」を宿らせるか、その表現のために意識している工夫について紹介します。

建築パースに「動き」は必要か?

'The Darjeeling Limited' (2007) https://nofilmschool.com/2018/05/3-types-cinematic-movement-will-make-your-film-more-dynamic

建築には時間芸術的側面があります。
設計者が提案する建築には、ある時間帯の光の角度、人の導線、周辺環境といった“動的な要素”が多く含まれています。

それにもかかわらず、パースが“静止画”であるがゆえに、その豊かさが抜け落ちてしまうことがよくあります。

設計者が描いた建築の本質を伝えるには、「ただ静止している」だけでは不十分なこともあります。

なので、光、風、人の気配、こうした時間的要素を「想像させる」表現を大切にしています。
それはアニメーションを作るという意味ではなく、見る人の中に“動きを補完させる余白”をつくることです。

パースで「時間の流れ」を表現する4つの方法

1. 光と影の演出

https://www.arch2o.com/the-magic-of-light-and-shadow/

建築にとって光は「素材のひとつ」です。朝のやわらかな光、昼の直射、夕方の斜光。
同じ建築でも時間帯によって表情は大きく変わります。

パースでは、その時間帯を決めることで「どんな時間にこの建築が最も魅力的か」を伝えることができます。

開口部から差し込む光と、それによってできる影の伸び方に注意を払うことで、1日のうちのある瞬間を切り取ることができます。

とくに夕方の長い影や、朝の拡散光は、「いまこの建築に時間が流れている」という感覚を生み出しやすいです。

2. 人の存在によって「流れ」を伝える

https://www.canon.ge/get-inspired/tips-and-techniques/capturing-motion/

建築パースでは、人物を入れることでスケール感や使用シーンを表現するのが一般的です。

私自身も、空間に“流れ”を与える目的で人物を意識的に入れることがあります。
たとえば、歩く人の姿勢や進行方向、何かに視線を向ける様子など。

それは単なる「賑やかし」ではなく、その空間での動線やアクティビティの流れを示す大事な要素になります。

一瞬の動作を切り取ることで、「過去」と「未来」の気配を画面に宿すことができます。

人物は、静止画に“今”という瞬間の臨場感を与えると同時に、その前後の“流れ”を想像させる装置でもあります。

3. 植栽・自然の表現

https://greenz.jp/2024/09/18/song_of_earth/

自然は、建築と時間の関係性を伝えるうえでとても大きな手がかりになります。

  • 葉が揺れている様子から感じる“風”の存在
  • 朝露を含んだ芝生、夕日に照らされた紅葉
  • ゆっくりと影を落とす木漏れ日
  • 雨上がりの濡れた地面に落ちる葉

これらは、建築が置かれている時間と環境を感じさせ、
静止画に「いまこの瞬間が訪れている」という実感を与えてくれます。

4. 視線誘導の構図

https://pixelvalleystudio.com/pmf-articles/framing-and-composition-cinematography-going-beyond-the-13-rule

静止画の中で人の視線が動くとき、脳内では「空間を移動する体験」が起きています。

奥行き感のある構図や、斜めの消失点を活かすことで視線が奥へ進みます。

光源の方向やマテリアルの反射を使って、視線が建築内を“歩く”ような構成にすることもできます。

パースの読み解き:時間と空気を描いた図書館のワンシーン

ここまでに取り扱った時間の流れを表現する方法を活用しながらMidjourneyで生成した画像です。

Midjourneyで生成した画像

柔らかく黄色みを帯びた光が差し込み、西日の影と明暗が空間に豊かな表情をもたらしています。

手前では子どもが本に夢中になり、奥では数人が楽しそうに話をしていて、「いまここで何かが動き出している」時間を感じさせます。

大きな窓から差し込む自然光と、それに照らされた植栽が季節や時間の流れを感じさせ、
室内の空気や温度、風なども想像させるかのようです。

視線誘導や光と影のラインが空間の奥行きを際立たせ、静止画ながらもその先の時間を感じさせる構成となっています。

静止画で伝える、未来の風景

パースは、ただ形や寸法を伝えるものではありません。

設計者が空間に込めた時間性や詩情を、「静止画」という形式の中でいかに伝えられるか。

そこにこそ制作者としての表現力が問われていると思います。

建築に流れる“時間”を感じさせるパースは、ただのビジュアルではなく、
未来の記憶として、クライアントや関係者の心に残り続けるはずです。

「動きのある静止画」を、これからも描いていきたいと思っています。