ずいぶん前になりますが、干渉チェックが日本だと誤認識されているのでは?という話を書きました。
その際、この表現がわかりにくいという感想をいただきました。
何らかの図形で組み合わせを定義し、機械的に干渉抽出を行った後、設計上の課題と3D表現の問題を仕分け、プロジェクト進捗を把握することである
「何らかの図形で組み合わせを定義し、機械的に干渉抽出を行った後、設計上の課題と3D表現の問題を仕分け、プロジェクト進捗を把握することである」
— udofukui (@undomasatoshi) December 8, 2025
この日本語がわかりづらすぎる…。 https://t.co/bNLm9WVyLY
うーん、知っている人からするとアレのこと、知らない人からすると意味不明な表現かもしれません。
以前の投稿で、このようにまどろっこしい表現をした背景には、干渉マトリックスが念頭にありつつも、説明していないという状況がありました。
みそ汁という名前を出さずに、「様々な具材を、うまみ成分を含んだ熱湯で煮込んだのちに、大豆を発酵させたペーストを溶かしたスープ」と表現していたようなものです。 (間違ってはいないかもしれないが、わからん。しかし、和食を知らない人に「みそ汁」とだけいってしまうと、溜まり醤油かなにかと誤解されるかも…)
今日はこの状況から脱するため、干渉マトリックスについて書きます!
干渉マトリックスの構成要素
まずは即物的にどんなもんか見ていきましょう。
干渉マトリックスの構成要素は少なくとも二つ、「軸」と「セルごとの優先度」です。 これに加えて、「許容値」が設定される場合があります。

ACCなどで干渉チェックを行うと、結果の表示が類似の形式になります。
ただし、ACCの場合は優先度ではなく検出された干渉の個数がセルに書き込まれています。
軸
干渉チェックの対象を分類する項目が並びます。縦横の二軸ですが、どちらも同じ項目が同じ順序で並びます。 よく用いられるのはRevitのファミリのカテゴリをアレンジしたものです。
アレンジ、というのはドアと窓をまとめて建具として扱う、壁を内壁と外壁に分けるというように、必要に応じてカテゴリそのままではなくパラメータなどを基準に切り分けるような処理をします。
Worksetを利用している場合にはWorksetを軸にすることもあります。
軸の分け方は意匠、構造、設備のような専門分野では粗すぎますが、Revitのカテゴリそのままでは細かすぎるので、プロジェクトの固有の必要性に応じて変わります。
建物種別によってはA工事/C工事だとか、既存部/新築部を区分するなどの対応も必要になります。
セルごとの優先度
マトリックスのセルごとに設定される優先度は干渉結果の検証の優先度を示すものです。 L1~L5で分ける、低中高の三段階で分ける、極端な場合には見る/見ないの二段階という判断もありますが、見ないに振り分けてしまうとリスク保有なので、慎重な判断が求められます。
優先度は変更の容易性、計画への影響の大きさから決めていきます。
経験に基づき、建物種別やプロジェクトのフェーズによって変えるのでBIMマネージャーの力量が出る部分です。 (個人的経験としては、経験則から一発で正解を決めることは難しく、プロジェクトの早い段階で干渉チェックを試行して、優先度のチューニングをする必要があるように思います。)
例えば、設計段階でサインの配置は数量把握程度しか行わない(取付位置は現場指示による)という場合、建具とサインの干渉は優先度低、もしくは見ないとできるかもしれません。
一方で梁とダクトの干渉は建物高さの変更につながるかもしれないので、早めに対処する必要があります。優先度高です。
上で挙げた例も普遍的なものではなく、サインの視認性が安全性の確保で非常に重視されている建物などでは、ドアを開けるとサインが隠れてしまうという事態に対処するために、サインのためにスペースホルダー(架空の領域)を作成して干渉チェックの優先度をあげるという判断もあります。
許容値
Navisworksなどで干渉チェックをする場合、一律、もしくはセルごとに許容値を設定するのが現実的な運用です。
モデリングソフトウェアと高度に連携している干渉チェックツールでは接しているもの(例:座金vsボルト)を識別する機能があったりしますが、建築の一般的なモデルでは使えません。
そこで25mm以下の干渉は無視するというような運用をするわけです。
動かしやすいものと動かしにくいものがあるのでセルごとに設定するほうが柔軟な運用になりますが、当然手間がかかるので粗い解像度ではまとめてしまった方が管理は楽です。
前述のボルトと座金のような0mmタッチのものが存在するので、目地幅や製作誤差程度(12mmだとか25mm)の許容値を設定して、有意な干渉に絞り込むことが一般的です。
干渉マトリックスがなぜ有益か
さて、干渉マトリックスの中身を把握したうえで、なんでこんなことをやっているのか考えてみたいと思います。
干渉チェックに際してマトリックスを整理する意義は大きく2つあります。
- 優先度を設定することで効率的に影響が大きい干渉を抽出できる
- テストセット(建具vs梁のような組み合わせ)ごとに干渉の傾向を把握することでプロジェクトの定性的理解が進む
干渉チェックは自己目的化してしまいがちです(契約上ゼロクラッシュが求められていると特に)。 しかし、本質的にはプロジェクトを成功させるために取り組むわけで、非本質的な表現上の問題を除外して本質的な設計上の課題を見極めるべきではないでしょうか?
そのためには、膨大な干渉を一律にならべて、経験と勘で見ていくのではなく、マトリックス形式で整理し分解して対処するのは賢い方針でしょう。
また、干渉チェックで抽出した課題は解決されなければ意味がないわけで、原則論として干渉チェックは設計のサイクルの一部になります。
この場合に、優先度の低い課題はチェックしたとて、次のサイクルでは消えていることもしばしばあります。 そういう意味でも、途中経過で大勢に影響があるもの/ないものとして優先順位をつける必要があるわけです。
これまで膨大な干渉箇所に呆然としてしまい、「干渉チェックは不毛だ!」と思っていた方も、干渉マトリックスを作って整理すれば別の地平が開けるかもしれません。
本日はこの辺で。 おしまい