2025年9月16日〜18日の3日間、米国テネシー州ナッシュビルで開催された「Autodesk University 2025(AU2025)」に聴講しに行きました。AUは、Autodeskが自社プラットフォームの方向性と製品ロードマップを発表し、世界中のユーザーが事例やノウハウを共有する Design & Make Conferenceです。

今回の参加では、次の3点を主な目的としました。
- Autodeskの最新動向を把握すること
- グローバルユーザーの事例から、日本の建設・不動産市場にとっての示唆を持ち帰ること
- 日本およびアジア太平洋の関係者とネットワークを築くこと
会期中は、日本レセプションやAPACレセプションを通じて、設計事務所、ゼネコン、デベロッパー、ソフトウェアベンダーなど多様なステークホルダーと直接対話する機会が得られ、「オンラインでは拾いきれない温度感」を強く感じる出張となりました。
AU2025を象徴する3つのキーワード
今回のGeneral Session(基調講演)を通じて、Autodeskが明確に打ち出していたキーワードは、次の3つです。
- Cloud-based
- End-to-End
- AI-Native
1. Cloud-based
Forma、Autodesk Construction Cloud(ACC)、Tandem など、主要な製品群が「クラウドネイティブなサービス」として再定義されていました。
従来のオンプレミスのスタンドアロンツールではなく、「共通のデータ基盤上で連携するプラットフォーム」として位置づけられている点が、随所で強調されていたのが印象的です。
2. End-to-End
初期検討を担う Forma、詳細設計の Revit、施工マネジメントの ACC、運用段階の Tandem を、一連のプロセスとしてシームレスにつなぐ構想が示されました。
とくに、
- Forma と Revit のライブ接続による双方向同期
- 将来的な AutoCAD / Civil 3D との統合ロードマップ
などが紹介され、「設計〜施工〜運用」を一貫したデータフローとして捉える思想が、従来よりも具体的なレベルで示されています。
3. AI-Native
AIはもはや追加機能ではなく、ワークフローの前提として組み込まれつつあります。
- Forma:要件に基づき、建物ボリューム〜LOD200レベルの形状までAIが自動生成
- Revit / ACC:AIアシスタントとの対話を通じて、モデル編集や情報抽出を実行
- エンタメ領域:Flow Studio 等でモーションキャプチャデータをAIが処理
といったデモを通じて、「人間がすべてをモデリングする」世界から、「AIと役割分担して設計・管理する」世界への移行を強く感じる内容でした。
初期検討を変える「Forma」
Forma は、
- ボリューム作成
- 日照・風・環境負荷などのシミュレーション
- Zoning や高さ制限などの制約条件
を統合的に扱う、クラウドベースの初期検討プラットフォームです。Revitと接続し、Autodeskクラウド上の実データとリンクしている点が、従来の単体ツールとの大きな違いです。
今回のAUでは、FormaのAI機能強化が大きなトピックの一つでした。LOD100レベルのボリュームだけでなく、LOD200レベルの建物形状まで自動生成できるようになったことが示され、ユーザーが用途や制約条件を入力すると、AIが複数案を提示し、それぞれについて環境シミュレーションや評価が可能です。
日本企業のセッションでも、JRグループや大手ゼネコンが Forma を用いた設計検討・環境評価の事例を発表しており、クライアント側のほうが先にFormaを積極的に使い始めているという構図も見えてきました。
都市開発や駅改修など、広域な環境条件が効いてくる案件、早い段階から複数案の比較検討が求められる案件において、Formaを使ったPoC(概念実証)を立ち上げる必要性が高まっていると感じます。単なるツール紹介にとどまらず、「企画・構想段階でのBIM活用」をどう設計するかが、今後の重要テーマになりそうです。
施工フェーズ:ACCとダッシュボードによる「現場の見える化」
施工フェーズでは、Autodesk Construction Cloud(ACC) を用いたコスト・進捗管理の事例が複数紹介されました。
- モデル情報から数量を自動集計し、見積もりを作成
- その後の実績コストとのギャップをダッシュボードで追跡
- 品質・安全・進捗・コストといった指標を一元管理し、ロールごとにビューを出し分け
といった構成で、「BIMモデルを作ること」から一歩進んだ、モデルを使って現場をマネジメントするというスタンスが明確でした。
日本からのセッションでも、NEXCO や設備サブコンなどによるダッシュボード活用や施工DXの取り組みが共有され、
図面やモデルの確認のためだけにBIMを使うのではなく、 ダッシュボードを通じて現場の意思決定ツールとして使う
という方向性が、国内外で共通のテーマになりつつあることを感じました。
運用・FM:TandemがつなぐBIMとFMシステム
施設管理(FM)の領域では、Autodesk Tandem が、既存のFMシステムとBIMデータをつなぐ「ブリッジ」として紹介されていました。
あるセッションでは、
- オーナー
- FMオペレーター
- BIMファシリテーター
- システムインテグレーションコンサルタント
から構成されるプロジェクトチームが登場し、BIMとFMシステムの間で「どの情報を、どの粒度で同期すべきか」を共同で設計している事例が紹介されています。
とくに印象的だったのは、デンバー空港のFM担当者による、
「BIMデータのすべてが100%正確である必要はない。 重点領域だけ100%にする。」
という発言です。
FMにおけるBIM活用は、完璧なデジタルツインを作ること自体が目的ではない。
経営・運用上の意思決定に効く領域はどこかを見極め、そこにリソースを集中するという考え方は、日本の大規模施設でもそのまま当てはまる視点だと感じました。
データマネジメント:HOKのコンテンツカタログ運用
データマネジメントのセッションでは、グローバル設計事務所 HOK による、ACC上でのコンテンツカタログ運用事例が紹介されました。
HOKでは、
- 世界中のプロジェクトで利用するコンテンツライブラリをACCで一元管理
- 「データマネージャー」が新規コンテンツをレビュー・承認するプロセスを設計
- 承認されたコンテンツのみが標準ライブラリとして利用可能
というワークフローを運用しています。
これは単なる「フォルダ構成の工夫」ではなく、組織レベルでのBIM標準化と品質管理の仕組みとして設計されているのがポイントです。
標準部材やテンプレートの運用・管理に課題を抱えている組織は多くありますが、HOKのように「コンテンツの採用プロセス」を組織設計に組み込むことは、今後の一つのモデルケースになり得ると感じました。
日本企業の存在感とテーマの広がり
今年のAUには、日本からも多くの企業がセッション登壇しており、
- Digital Twin / Industrialized Construction / DfMA
- AI・機械学習
- カーボンマネジメント
- クラウドコラボレーション
など、多様なテーマで事例が共有されました。
かつては「海外事例を学びに行く場」という色合いが濃かったAUですが、現在はむしろ、日本発の事例がグローバルに共有される場へと性格を変えつつあります。
発注者・ゼネコン・サブコン・メーカーがそれぞれの立場からBIM・データ活用・AIに取り組んでいる様子が、英語というフィルターを通しつつも、はっきりと伝わってきました。
今回の参加から見えた論点と、これからの取り組み
今回のAU参加を通じて、今後の検討が必要だと感じたポイントを、あえて3つに絞って整理します。
Formaを前提とした初期検討フロー
クライアント側がすでにFormaを使い始めている現状は、設計・BIMに関わる側にとって、大きな前提条件の変化です。
- 都市開発や駅改修など、環境条件が複雑な案件でのForma活用PoC
- 騒音・日照・風環境など、日本の都市プロジェクトで頻出の課題をFormaに組み込んだ検証フロー
といったテーマを、プロジェクトの企画・構想段階から組み込んでいく必要があります。
ACC / Tandemを前提にしたBIM要件定義
施工・FMのセッションからは、
- 施工ダッシュボード
- FMシステムとの連携
を前提としたBIM要件が、海外では増えていることが読み取れました。
モデルを納品することがゴールではなく、
- 施工ダッシュボードでどの指標を見たいのか
- FMシステム側でどの項目をどう利用したいのか
といった観点から、モデル要件・属性定義を設計していく必要があります。オーナー・施工者・FM事業者を含めたチーム設計も、BIMコンサルティングの重要な論点になっていきます。
AI活用の「手が届く一歩目」
Dynamoのクラウド化とAI統合、Revit/ACCのAIアシスタント、エンタメ領域のFlow Studioなど、AIはすでにAutodesk製品群に組み込まれ始めています。
また、あるレンダリングエンジンのAI化では、リサーチ段階のコストが数百万円規模に収まっていたという事例も紹介されていました。これは、「AIは大規模投資をしなければ始められないものではない」というメッセージでもあります。
- 既存プロジェクトの一部分を対象とした小規模なAI PoC
- 社内ツールやテンプレート改善へのAI活用の試行
など、「背伸びしすぎない形」でAI導入の第一歩を踏み出す余地は大きいと感じました。
おわりに
今回のAU2025参加を通じて、
- Autodeskが描くクラウド&AIネイティブなプラットフォームの方向性
- それを先行して実践している海外・日本のユーザー事例
- クライアント側の期待値の高まり
を、現地で直接確認することができました。
Autodesk University は、もはや単なる製品アップデートの場ではなく、今後数年のBIM戦略・デジタル戦略を考えるためのカンファレンスへと進化しています。
viccでは、こうした国際カンファレンスで得た知見を、今後も社内外で共有し、日本の建設業界におけるデジタル活用の高度化に貢献していきたいと考えています。